中国のワイン法

        −中国のワインに関する法制度―

                                                                 20144
                                  橋 梯二

 中国では、ワインは2000年以上前から生産されていたといわれており、また、現在ではワインの生産量が世界で5番目に多いワイン大国になっている。しかし、ワインを独立して対象とする法律、いわゆるワイン法は基本的には存在しない。食品の衛生や品質に関する法律や規則、食品等の地理的表示に関する法律や規則がワインにも適用されているという法制度である。

しかし、これらの法制度を背景とする各行政機関の国家規則等では、ワインに関する定義規則、表示規則、技術規則等が定められている。また、これらの法律や規則の運用に当たっては、商務部(Ministry of Commerce 農務部(Ministry of Agriculture)、保健部(Ministry of Health)、国家質量監督検験検疫総局(General Administration of Quality, Inspection and Quarantine)、さらには省政府が監督しており、かなり、重複した監督が行われるなど、権限の錯綜が見られる。したがって、ワインについて指導監督を中心的に行う機関が存在していないといわれている。

1.ワインの定義等

国家質量監督検験検疫総局によるワインに関する国家規則(2006年 GB 15037)において、ワインの定義、ワインの分類、ワインの表示、物理的及び科学的基準値等が定められている。その概要は次のとおりである。

(1)ワインの定義

新鮮なブドウ又はブドウ果汁を原料とし、完全なあるいは部分的な発酵によるもので、アルコール度が一定のもの。

なお、2003年以降はワインに水を添加することは禁止されている模様Pinghui Xiao

(2)ワインの分類

辛口ワインdry wine,sweet wine, スパークリングワイン、リカーワインなどが定められている。

@辛口ワイン

糖分が4.0g/L以下、又は、総糖分と総酸量の差が2.0g/L以下の場合は、糖分の含有最高限度が9.0g/Lであるもの

     A リカーワイン 

 アルコール度が15.0%から22.0%のもので、ブドウによるブランデー、ブドウによるアルコール、ブドウジュース、ブドウ濃縮果汁、キャラメルブドウ果汁又はサトウキビからの砂糖を添加したもの。

2 ワインの表示 

 ワインの表示は、先のワイン国家規則2006年 GB 15037)、加工アルコール飲料表示一般規則(2005 GB 10344)、保健部の加工食品表示一般規則(2011年 GB7718)、保健部の添加物使用規則(2011 GB 2760)及び保健部の加工食品栄養表示一般規則(2011 GB28050)が適用になる。

(1)収穫年の表示

ワインの80%以上がその年のブドウによる場合は、その年を表示できる。

(2) 品種表示

ワインの75%以上がその品種からのものによる場合は、その品種を表示できる。

(3)  産地表示

地理的表示を行う場合は、ワインの80%以上がその産地のブドウによるものでなければならない。

(4)衛生等に関する表示

食品事故が多く発生したこともあり、食品添加物や表示規則が強化されてきており、ワインについても消費期限/賞味期限(shelf life)や栄養表示基準が適用になる。

20124月から、アルコール度10%未満のワイン産品を含む飲料は消費期限/賞味期限(shelf life)を表示しなければならない。

・アルコール度0.5%未満の飲料は、原材料を表示しなければならない(ノンアルコールワインや低アルコールワインにも適用する)。

・アレルギー表示や栄養表示基準がワインにも適用になっている。

  以上の定義等規則及び表示規則は中国への輸入ワインにも適用となる。

3 ワインの地理的表示制度

中国の地理的表示制度の特徴は、三つの制度が存在していることである。@商標法における団体商標あるいは証明商標による保護(国家工商行政管理総局所管)、A地理的表示製品保護規則による保護(国家質量監督検験検疫総局所管)及びB農産品地理的表示管理規則による保護(農務部所管)である。 ワインについてもこれらの制度が適用される。

これらの制度がどのように異なるのかは判然としない面がある。対象とする産品が明快に区分されているわけでもない。ただ、農産品地理的表示管理規則による保護は対象が農産品に限られている。しかし、他の制度でも農産品の登録が多い。また、地理的表示の定義については、3つの制度がそれぞれリスボン協定とほぼ同じものを定めている。商標制度でもTRIPS協定に似た定義を定めている。第2の特徴は、行政機関の管理監督権限が強いこと及び貿易政策と農業政策上の戦略的意図が濃厚であることである。

ワインについてもどの制度にも登録することが可能であり、重複して制度に登録できる。現在、登録件数は1949(2011)と多いが、ワインについては、トップ300の地理的表示のうち、ワインを含む26のアルコール飲料が登録されている。有名な「煙台(Yantai) ワイン」と「昌黎 Changli)ワイン」も地理的表示ワインとなっている。

それぞれの制度の概要は次のとおりである。

@団体商標及び証明商標による地理的表示

商標制度による地理的表示の保護は1994年から始まっているが、2001年に商標法が改正され、本格化した。1994年に成立したTRIPS協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)で加盟国は地理的表示の保護を行う義務が生じ、自国で地理的表示制度を整備する際、まず、既存の商標法を利用したからと想像できる。

商標法第16条で定義が定められており、「地理的表示を含む商標は、その地域の自然的又は文化的な要素によって主として決まる特定の品質、名声又はその他の性質を表していなければならない」ことになっている。

登録申請の際の審査に当たっては、特定の品質と地域の自然的又は人的要素との関係が審査される。権利の侵害については、権利者は人民裁判所に民事訴訟を提起することができるほか、工商行政管理機関の取り締まり制度を利用して行政保護を求めることができる。

A地理的表示製品保護規定による地理的表示

この制度は2005年から導入された。定義は、「特定の地域から産出され、その備える品質、社会的評価又はその他の特性が本質的に当該産地の自然的要素及び人的要素によって決定され、審査認可を経てその地名をもって命名される製品」と規定されている。登録申請できる者は、省クラスの人民政府が指定する機関又は人民政府が認定する協会及び企業となっており、申請者は人民政府の指定あるいは認定が必要になっている。登録審査に当たっても産品の理化学的性質並びに産地の自然的要素及び人的要素との関係のほか、加工工程、安全確保、施設・設備など生産技術についても審査される。地理的表示の管理と保護(摘発、処罰)は国家質量監督検験検疫総局、各地の品質技術監督局及び各地の出入国検査検疫局が行っている。

B農産品地理的表示管理規則による地理的表示

 この制度は2008年に導入されている。目的は、「地理的表示農産物の品質と特質を保証し、農産物の市場競争力を改善する目的を持つ」としている(規則第1条)。定義については「その品質と主たる目的が主として地域の自然的及び生態学的環境並びに文化的及び歴史的な要素に依存することを意味するものである」と規定し、産品は独特の性質があるか、特定の生産方法によるものでなければならず、品質及び特質は主として独特の自然的、生態学的環境に依存するとともに文化的、歴史的要素に依存していなければならないという要件がある。登録にあったってはこの要件が審査される。

登録申請者は郡又はそれ以上のクラスの人民政府によって決められる優良な農業者の協同経営組織及び工業組織となっている。申請は省の人民政府に提出され、省の農業管理部が審査意見書を中央の農務部農産物品質・安全管理センターに提出する。審査の後、同センターが申請の許可を行う。

地理的表示の使用については、団体又は個人が権利所有者に対し使用の申請を行い、権利所有者と使用者との間の年度ごとの協定によって使用がなされる。監視及び管理は、郡以上のクラスの人民政府の農業管理部が主として行うことになっている。

 以上3つの地理的表示制度は、それぞれ独立に運用されており、相互の関係が規定されていない。したがって、複数の制度に登録することもある。特に、海外の地理的表示について中国で完全に保護されるようにするためには、3つの制度にそれぞれ登録しなければならないのではないかといわれている。具体的には次のような「ナパ・バレー」の例がある。

2003年に中国のワイン企業が中国のブドウで造るワインについて「ナパ・バレー」の商標登録申請をした。これに対してアメリカのナパ・バレーワイン生産者組合は、意義を申し入れ、さらに、中国の商標での地理的表示としての「ナパ・バレー」の登録申請をし、2007年に認められた。また、2011年には国家質量監督検験検疫総局所管の地理的表示制度への登録申請をし、2012年に認められた。

4ワイン産業参入要件

 中国には、ワイン産業参入要件Wine industry access requirements)が定められており、20127月から適用になっている。この規定では、ワイナリーの設置場所、ワイナリーの規模、ブドウ供給保証、ワイン製造設備、エネルギー効率、環境保護、ワインの安全と品質などが定められている。ワイン生産を新規に行う場合は、最低1,000KLの生産能力がなければならない。また、ワイナリーは、ワイン生産施設衛生要件国家規則(GB 12696)に従わなければならない。

5ワイン産業の振興

「第12次ワイン産業5カ年計画」が定められており、2015年のワインの生産目標を200万KLとしている。この計画の目標を達成するため、政府は国際的に影響力のある企業に対して地域に投資を行い、また、地域のブドウを使った一つ又は二つの象徴的なブランドを開発するための支援を行なうよう提案している。

また、政府は比較的遅れた中央、西部及び東北地域におけるブドウ栽培とワイン生産の振興を支援するよう提案している。


 参考資料 Global Wine Regulation, Matt HarveyVicki Waye 2014

         「地理的表示保護制度について」、農林水産政策研究所、2012

「諸外国の地理的表示保護制度及び同保護を巡る国際動向に関する調査研究」、(社)日本国際知的財産保護協会、2012


                    橋 梯二
           東京大学農学生命科学研究科非常勤講師           国際ワイン法学会理事

 

トップページに戻る