アメリカの食品原産国義務表示に関するWTOパネル報告の概要

       −主としてカナダとアメリカとの係争についてー

                             201112

                 橋 梯二

            東京大学農学生命科学研究科非常勤講師

この資料はフリシス情報No45 2012年1月に掲載されたものである。          

Aパネル報告の要旨

アメリカの農産物・食品に関する原産国表示義務についてカナダとメキシコが、特に牛肉及び豚肉についての表示がTBT協定及びGATT協定に違反しているとしてWTOの係争手続きを要求し、20091119日にパネルが設置され、2年間の検討を経て20111118日にパネル報告が出された。この報告の要旨は次のとおりである。

@    アメリカの原産国表示(COOL)は、食肉について輸入食肉のコストを増大させることにより、TBT協定第2.1条にいう内国民待遇の原則(輸入産品に対し国内産品より不利な待遇を与えない)に違反する。

A    また、COOLは、食肉の原産国表示が複雑で消費者にとって意味のある情報を伝えることになっておらず、TBT協定第2.2条にいう正当な目的を達成していないので同条に違反する。しかし、COOL自体は、消費者への情報提供という正当な目的を持つものである。また、代替措置があるかを踏まえCOOLが必要以上に貿易制限的であるかどうかの検討は行わなかった。

B    アメリカのヴィルサック農務長官の食肉についての業界に対する自発的な追加的表示に関する書簡は、COOLの合理的な管理とはいえず、GATT X:3 (a) 条に違反する。

       B  WTOパネル報告(WT/DS384/Rの概要

I カナダの申し立て(DS384)

1カナダが申し立ての対象とした措置

(1)    主として牛肉、豚肉など食肉について、アメリカの原産国表示義務(2009115日付け最終規則(7 CFR Part 65 (the"2009 Final Rule (AMS)")など

(2)    ヴィルサック(Thomas J. Vilsack)アメリカ農務長官が業界に発出した2009220日付け書簡

2 カナダの申し立ての内容

(1)  アメリカの原産国表示措置(COOL)は、TBT協定、特に第2.1条及び第2.2条に違反している。

(2)COOL措置は、GATT協定、特に第III:4条、第 X:3(a)条及び第 XXIII:1(b)に違反している。

(3)  従って、アメリカは、COOL措置をTBT協定及びGATT協定に整合するよう改正すべきである。

3 申立ての対象となったアメリカの牛肉及び豚肉の原産国表示方法

(1)  食肉(muscle cut

表示A 「アメリカ原産」

   もっぱら、アメリカで生まれ、アメリカで飼育され、アメリカで屠殺された家畜

からのものの場合

表示B 「複数の原産国」

 もっぱらアメリカで生まれ、飼育され、屠殺された家畜からのものでなく、誕生、飼育又は屠殺がアメリカで行われ、輸入直後に屠殺される目的で輸入された家畜からのものでない場合

表示C 「直後の屠殺目的で輸入」

 輸入直後に屠殺する目的で輸入された家畜からのもの場合

表示D 「外国原産」

 アメリカで生まれておらず、飼育もされておらず、屠殺もされていない家畜からのものの場合 

(2)     ひき肉

 表示E

 すべての原産国リストの表示 又は

  原産の可能性のあるすべての国のリスト表示

        

参考 

関連TBT協定条文 

TBT協定 第2.1

加盟国は、強制規格に関し、いずれの加盟国の領域から輸入される産品についても、同種の国内原産の及び他のいずれかの国を原産地とする産品に与えられる待遇よりも不利でない待遇を与えることを確保する。 

TBT協定 第2.2

加盟国は、国際貿易に対する不必要な障害をもたらすことを目的として又はこれらをもたらす結果となるように強制規格が立案され、制定され又は適用されないことを確保する。このため、強制規格は、正当な目的が達成できないことによって生ずる危険性を考慮した上で、正当な目的の達成のために必要である以上に貿易制限的であってはならない。正当な目的とは、特に、国家の安全保障上の必要、詐欺的な行為の防止及び人の健康若しくは安全の保護、動物若しくは植物の生命若しくは健康の保護又は環境の保全をいう。当該危険性を評価するに当たり、考慮される関連事項には、特に、入手することができる科学上及び技術上の情報、関係する生産工程関連技術又は産品の意図された最終用途を含む。 

4 ヴィルサック農務長官の業界宛て書簡

原産国表示の最終規則が20093月施行されるに当たり、概要次のような最終規則を上回る自主的な原産国表示を行うよう業界に求めた(2009220日付)。

(1)複数の原産国からの産品の表示

業界は、自発的に各国においてどのような生産の段階がとられたかを表示すべきである。たとえば、「X国で生まれ、Y国で飼育され、屠殺された」など。

(2)加工食品

最終規則の加工食品の定義は広すぎ、産品が調製(curing,燻製、煮沸、グリル又は蒸された場合、それに関する自主的な表示が適切になされるべきである。

(3)在庫期間

最終規則では、ひき肉について表示をする以前の60間において加工業者の在庫にあったと合理的に考えられる原産国のすべてを表示することになっているが、その期間を60日間から10日間に短縮すべきである。 

参考

GATT協定関連条文

X:(3)(a)条

 各締約国は、1に掲げる種類のすべての法令、判決及び決定を一律の公平かつ合理的な方法で実施しなければならない。

 

II COOLTBT協定第2.1条(内国民待遇)に違反しているかどうかの検討

当事国は、TBT協定第2.1条に違反するかどうかについての基本的な要素は、@問題となっている措置が強制規格か、A措置の対象となる輸入産品と国内産品が同種の産品(like products)か、B輸入産品が国内産品より不利な待遇を与えられているかであるとしたEUの地理的表示に関するパネル報告を引用し、本件についてもこれらの3点の検討を行うことで意見の一致を見た(7.291)また、これらの三点の検討はTBT協定第2.1条に違反するかどうかの法的検証(legal test)でもあるとした(7.220)

1 強制規格かどうか。

 パネルは、COOLは強制規格であるが、ヴィルサック書簡はそうでない。従って、第2.1条に関する議論はCOOLのみに限定されるとした(7.236)。

参考

TBT協定 付属書 I

1.強制規格
 産品の特性又はその関連の生産工程若しくは生産方法について規定する文書であって遵守することが義務付けられているもの(適用可能な管理規定を含む。)。強制規格は、専門用語、記号、包装又は証票若しくはラベル等による表示に関する要件であって産品又は生産工程若しくは生産方法について適用されるものを含むことができ、また、これらの事項のうちいずれかのもののみでも作成することができる。

2 対象となる産品が同種の産品かどうか。

カナダとメキシコは、同種の産品と主張し、アメリカはこれに異論を唱えなかった(7.253)。

3 内国民待遇がとられているか。

この点についてカナダは、次のように主張した(7.265, 7.266)。

(a)       COOLは、カナダから輸入される牛及び豚の使用及び販売においてより高いコストを課すことになり、カナダの競争条件を悪くするように改変している。

(b)       この高コストは、流通過程すべてにわたる国内産品と輸入産品の分別の必要性

から生じ、国内産品と輸入産品を同時に扱っている飼育業者と屠殺業者のコストが国内産品のみを扱っているこれら業者のコストより高くなる。

()  小売り段階においても食肉各単位について原産国を追求しなければならない。

 これに対して、アメリカは次のように反論した(7.269)。

 COOLを含みどの強制規格も遵守するのにコストがかかる。また、このコストは市場に参加する者ごとに異なる。COOLによる必要なコストは、単に規格に固有のコストではない。

以上の議論を前提とし、パネルは内国民待遇違反かどうかの議論をする場合、韓国の牛肉事件の上級員会報告を引用し、国内産品と輸入産品を分離すること自体は違反でなく、問題は、このような分離が輸入産品に対するコストを増大させることによって輸入産品に不利となるよう競争条件を改変することであるとした(7.328)

以上の観点からCOOLが輸入産品に対するコスト増になるかどうかの検討が行われた。アメリカの食肉の輸入、屠殺、加工及び流通の仕組みの分析が行われ、パネルは次のような指摘を行った。

@    多くの原産国がある場合、食肉のサプライチェーンの中で分別の作業が必要になり、コストが増加する(7.331)

A    追加コストを消費者に転嫁しにくく、どちらかといえば輸入家畜の供給業者の方に添加される(7.354, 7.356)

B    COOLの下では、輸入食肉よりは国産食肉を加工するインセンティブを事業者に与える(7.357)

C    過去の係争において輸入品よりも国内品を使うインセンティブを与える政府の措置がGATTIII:4条(内国民待遇)違反とされた例がある。たとえば、中国の自動車部品事件、メキシコの清涼飲料課税事件などである(7.358) 

4 食肉に関する内国民待遇についてのパネルの結論

以上の検討により、パネルは、食肉に関し、COOLは、国内の畜産物の加工に排他的に有利なインセンティブを与え、また、輸入畜産物を扱うことに制限的影響を及ぼす。従って、食肉に関し、COOLは事実としても輸入畜産物を差別する(7.420)。また、ひき肉についても同様であるとした(7.423、ほか)。

5 貿易における現実の影響

以上のような結論に到達したものの、現実に貿易にどのような影響を及ぼしているかの検討は行っておらず、上級委員会の示唆により、「韓国の牛肉にとられている諸措置」に関する係争における上級員会で行われた手法に従い、検討が行われた(7.438)。 この検討の中で次のようなアメリカの輸入量の推移に関するデータが示された。

(1)牛肉及び豚肉のカダナからの輸入に与えた影響

カナダからの牛の輸入の推移

 メキシコからの牛の輸入

        カナダからの豚の輸入の推移

       アメリカの屠殺におけるカナダからの輸入牛の割合

アメリカでの屠殺におけるカナダからの豚の割合

 

(2) カナダ及びアメリカから提出された経済的側面に関するレポートの検討

 カナダがCOOLの適用に関するコストの分析に関するInforma レポート及び流通過程における事業者の輸入家畜と食肉の購入行動(意思)に関するサマー(Summer)レポート等を提出し、また、アメリカが経済研究レポートを提出し、それぞれについて検討が行われた。

その結果、パネルは、カナダのサマーの研究はCOOLがかなりの程度否定的影響を及ぼしていることを示しているが、アメリカの経済研究はそれに反論できていないことを考慮すると、特に食肉(muscle cut)についてCOOLは、TBT協定第2.1条でいう不利な待遇をカナダからの輸入食肉に与えていると判断した(7.546)。

6 COOLTBT協定第2.1条違反かどうかについてのパネルの結論

 パネルは、申立て国のカナダがCOOLTBT協定第2.1条に関する3つのすべての法的検証を満たしたので(7.547)、COOLは、特に、食肉(muscle cuts)についてTBT協定2.1条に違反しているとの結論とした。

III COOLTBT協定第2.2条に違反しているかどうかの検討

1 第2.2条にいう正当な目的(legitimate objective)の性格の議論

カナダとメキシコがCOOLは貿易制限を目的としてり、消費者への情報提供が主たる目的でないと主張したのに対し、パネルは、正当な目的について次のような見解を示した。

(1)牛肉ホルモンのSPS(衛生植物検疫措置の適用に関する協定)上の問題に関する上級員会報告は、選択された目的を達成するための技術基準(technical regulation)の目的は、加盟国の権限(prerogative)であり、パネルで決めることではなく、自国の政策目的を達成する権限の認識は重要である(7.612)。

(2)COOLについてもこの考え方を基礎としない根拠はなく、また、加盟国は、SPS措置の保護の程度を決めることは自由であるのと同じように、強制規格を採用するのは自由である(7.613)。

パネルは、アメリカのCOOLの目的等を分析したうえで、アメリカのCOOLの目的は、原産国についてできる限り明快で正確な情報を提供することであるとした(7.620)。

また、パネルは、TBT協定第2.2条において正当な目的の例示がなされており、その中に「消費者への情報提供」は含まれていないが、イワシ缶詰に関する係争において上級員会が示したようにこの例示は限定的なものでないことを指摘し、消費者への情報提供も正当な目的に含まれるとした(7.634)。また、パネルは、アメリカの調査によっても消費者が原産国に関する情報を強く望んでいることが示されていると指摘した(7.650)

2 COOLは、正当な目的を達成するため、必要以上に貿易制限的かどうか。

 この点に関しカナダが @ COOLはその目的を達成していない、Aもし達成しているとしてもCOOLに代わる代替措置があるかどうかの視点からCOOLは必要以上に貿易制限的であるという2点から検討すべきであると見解に立っているので、これに従って議論された。

(1)COOLは正当な目的を達成しているか。

 この点に関しパネルは、COOLによる原産国の表示は、表示Aを除き消費者にとって意味のある情報を確保していないとのカナダの主張に合意した。パネルは、特に、表示B及び表示Cにおける複数の原産国の表示は混乱を招くものであるとし、さらに、複数の原産国の混合の食肉の場合、表示Bと表示Cを交換できるように使用する可能性は、食肉の原産国を正確に消費者に伝える上で意味のある方法ではないとした(7.718)。  従って、パネルは、COOLが原産国について意味のある情報を消費者に伝えていないことから、第2.2条にいう目的を達成していないとした(7.719)。

(2)COOLは必要以上に貿易制限的かどうか。

 カナダがCOOLの目的は国内産業の保護であり、貿易制限的であると主張したのに対し、パネルは、COOLの仕組みなどを考慮すると一概に貿易制限であるということについては同意しなかった。また、カナダはCOOLが特定の産品や特定の事業者のみを対象としているので(狙い撃ち)、貿易制限的であるとした(7683)が、パネルは、すべての措置に適用対象の例外があるのは一般的であり、またCOOLは適用となる対象が十分に多いので、カナダの意見には同意できないとした(7.684)。

 カナダは、COOLよりも貿易制限的でないCOOLに代わる措置が存在するので、COOLは必要以上に貿易制限的であると主張した。これに対してパネルは、COOLは第2.2条にいう目的を達成していないことから、とくに代替措置があるかどうかの議論をベースとしてCOOLが必要以上に貿易制限的であるかどうかの検討を行う必要はないと考えるとした(7.719)。

3 COOLが第2.2条に違反しているかどうかのパネルの結論

以上の分析によって、パネルは、カナダがCOOLは特に肉製品について原産に関する情報を提供するという目的を第2.2条の意味において達成していないことを示したので、アメリカが第2.2条に則して行動しなかったとの結論とした(7.720)。

IV ヴィルサック書簡についての議論(GATT協定1994X:3(a)条についての議論)

次の3点が検討された。

(a)     COOLは、GATT1994X:1;(ii)にいう法律、規則、決定なのか。

(b)    アメリカは、COOLを管理しているのか。

(c)     アメリカのCOOLについての管理は、一律の公平かつ合理的か。

1 法律、規則、決定なのかについての議論

  (略)

2 アメリカはCOOLを管理しているのかの議論

 カナダは、ヴィルサック書簡は  COOLの実施について実質的な影響を与えるか、又はCOOLの適用であるので、管理の行為であると主張した(7.822)。アメリカから反論はあったものの、パネルは、カナダの主張を認め、ヴィルサック書簡は、「管理」であるとした(7.830) 

3 アメリカの管理は合理的かの議論

 カナダは、ヴィルサック書簡は、アメリカの法律や規則の通常の実施を超えた政府の行為であり、また、業界が書簡に従わない場合はより厳しい要求を課す可能性を示唆し業界に圧力をかけるものであると主張した(7.844)。

 パネルは、ヴィルサック書簡が要求している自主的措置は、いくつかの法律上の義務を超えており、また、COOL措置の柔軟性を減じており、さらに、COOL実施直前に書簡が出されていることが混乱をもたらしていると指摘し、ヴィルサック書簡は適切(appropriate)でないとした(7.857, 7.860, 7.863)。


4 ヴィルサック書簡についてのパネルの結論

以上から、パネルは、アメリカがCOOLを合理的な方法で管理せず、第 X:3(a)条に従わないで行動していることをカナダが示したとの結論とした(7.864)。

V パネルの結論及び勧告

 以上の議論と検討に基づくパネルの結論と勧告は概要次のようである。

カナダのTBT協定に関する申し立てについては、

(a)     COOLは、強制規格(technical regulation)であり、ヴィルサック書簡はそうでない。

(b)     COOLは、特に食肉(muscle cut)の表示について輸入食肉に対して国産食肉に対するよりも有利でない待遇を与えるという理由から、第2.1条に違反している。

(c)      COOLは、食肉(meat)について原産地の情報を消費者に伝える目的を満たしていないという理由から第2.2条に違反している。

カナダのGATT協定 1994に関する申し立てについては、

(b)       COOLが内国民待遇の義務に違反しているとの結論を得ていることから第III:4に照らしてCOOLについて結論を出す必要はない。

(c)       ヴィルサックの書簡は、COOLの合理的な管理を行っていないので第X:3(a)条に違反している。

 アメリカは、TBT協定第2.1条及び第2.2条並びにGATT1994 X:3(a)条に整合せず行動していたので、紛争処理機関(Dispute Settlement Body)は、アメリカが措置をTBT協定及びGATT 1994の下での義務に合致させるよう勧告する。

     C パネル報告の日本の原産地表示制度への影響

1 パネルは、原産国表示制度の目的は消費者への情報提供であるとし、この目的はTBT協定第2.2条で認められた正当なものと指摘している。さらに、牛肉ホルモンに関する係争の上級員会の見解に基づき、加盟国が強制規格(技術基準)を政策目的のため採用するのはその加盟国の権限であり、さらに保護の水準をどのようにするかもその国の権限としている。

これを解釈すれば、パネルにおいて原産国表示制度自体は国際協定に違反していないと判断されたと考えられ、保護の水準との関連では、対象品目を拡大するのも問題とならないと考えられる。

 パネルは、COOLが、貿易制限的であるか、また、必要以上に貿易制限的であるかどうかについては、カナダから再三、COOLは輸入を制限する目的で導入されたとの主張がなされたが、パネルはCOOLの原産国表示制度の構造と方式を考慮すると、一概に貿易制限的であるとすることに必ずしも合意しなかった。さらに、パネルは、代替措置があるかどうかの検討をおこないCOOLが必要以上に貿易制限的であるかどうかを判断するのを避けている。

 従って、原産国表示が、TBT協定上あるいはGATT協定上貿易制限的かどうかを判断するのは、かなり難しいと思われる。しかし、この点についてパネルは複雑な議論をしており、パネル報告の論旨を誤解のないように理解しておく必要があると思われる。

 ただ、議論の経過をみるとある特定国からの輸入が多い品目に集中して対象品目を拡大すると貿易制限的とされるおそれもあり、注意が必要である(7.684参照)。

 パネルが問題としたのは、TBT協定第2.1条の義務である「内国民待遇」の問題であり、特に、COOLの食肉に関する複雑な表示制度がカナダからの輸入家畜や食肉について国内産品より不利な待遇になっていないかということであった。

 従って、日本の制度においても、原料原産地表示を拡大するに当たって、輸入産品が国内産品より不利な待遇にならないかどうかという点に注意すべきと思われる。たとえば、表示方法を複雑にしすぎて輸出国の輸出コストを著しく引き上げるようになるとか、国内業者の輸入意欲を阻害するとかに注意すべきと思われる。

 また、パネルが問題としたのは、消費者への情報提供の目的は、正当な目的と判断したものの、その目的が適切になされているかどうかということであった。適切になされていないとその正当性が失われるということである。この点でCOOLの食肉に関する表示は、複雑で、消費者に理解されにくく、混同も生じ得る方法であるとし、TBT協定第2.2条に違反しているとされた。ただ、ひき肉に関する表示は認められ、この関連で「可能性のある原産国の表示」も認められている。

これを考慮すると、消費者にとって分かりにくい表示、誤認されやすい表示、正確でない表示などは情報提供の目的を果たしていないとされるので、この点に注意すべきである。

 最後に、法令以外の行政的な通達などの問題である。パネルでは、法令実施直前に法令を超えた要請を農務長官が業界に行ったが、これがGATT協定1994 X:3(a)条に違反するとされた。欧米では、特にアメリカでは、行政の裁量を極力狭めておくため法令に詳しく規定するという考え方がとられている。従って、パネルでは、法令を超えた事項を通達等で行政が業界に強制するのはGATTの規定に抵触するとされたと思われる。この行政の裁量の幅の問題については日本と欧米とでは異なるのではないかと思われる。つまり、日本では行政の裁量や解釈に、より幅があるように法令が規定されている。

 従って、日本が注意しなければならないのは、法令で規定できなかった事項について行政指導で義務を追加することには注意が必要であろう。特に、行政指導で輸入産品に不利な待遇を適用したり、消費者に混乱を招く事項を強いるのは、自由貿易協定やTPPなどで行政あるいは施策の透明性が強化される動きの中で問題とされる可能性がある。


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