日本の地理的表示保護法の成立(20146月)

                  橋 梯二

特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(以下「地理的表示保護法」という)は、2014年6月18日国会の審議を経て成立しました。施行は翌年の中頃とみられています。

 この法律の概要は、別表のとおりで、ヨーロッパの地理的表示制度(AOC制度)に近い内容です。地理的表示に関する法制度が100年ほど前ヨーロッパで形成され、1994年になってようやく国際協定(WTO知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)で多くの国が認める知的財産権として認知されました。しかし、この協定はGATTウルグアイ・ラウンド交渉における欧米間のぎりぎりの妥協によって成立した協定であり、地理的表示をどのような形で形成するかは各国の法制に任せられました。

 したがって、加盟国は自国の考えに従って地理的表示制度を整えましたので、具体的な制度は加盟国間で様々となりました。特に、欧米の違いが大きく、現在においてもこの違いが農産物・食品の貿易問題に影響し、制度の仕組みや保護の在り方をめぐり対立しています。TPP、日・欧自由貿易交渉、アメリカ・欧州貿易協定交渉などでも大きな問題になっています。

 ヨーロッパの地理的表示は、@食品の品質は土地に由来し、地理的表示産品は土地を表現するもの、A土地の自然の力を最大限生かし、人工的なものは極力加えないとの基本思想に基づき、@近代産業の原理(合理化、大量生産、均質・画一生産等)とは異なる食品の価値と多様性を提供する、A品質の証明を行い、消費者の信頼を確保する、B農業者の所得の向上と地域経済の維持・発展に貢献することを目標としています。これゆえに、貿易障害となることがあり、考えの異なるアメリカ等との対立が激しいのです。

このような国際情勢の中で、日本でもいろいろな意見がありましたが、ようやくヨーロッパ型の地理的表示制度を取り入れることとなりました。現在、グローバル化が進行しており、農産物・食品の貿易の自由化(関税の引き下げ)が一層求められる状況となっています。これに対し、日本では、規模拡大等による農業の合理化が必要ではあるものの、日本のあるいは産地の特徴を現す高品質の産品の生産による差別化を図ることも重要であることが一層強く認識されたと思われます。それによって、生産者の所得を高め、農業を持続可能なものとし、また、日本の食文化を守り、消費者の多様な要求に応えていくことも重要と判断されたものと思われます。

 今後、法律の運用により、日本の風土を表現した特色のある食品の生産が一層進み、日本の食の多様性を増し、食を豊かにするとともに、地理的表示の思想により国産の材料を使用し、さらに、産品の名称の使用が国際的にも強く保護されることにより、日本の生産者の所得を高め、さらに、輸出の拡大が図られるようになっていくことを期待します。それには、生産者の意欲と工夫また消費者を含む国民の十分な理解が不可欠です。

 なお、ワインなど酒類については、この法律の対象ではなく1994年の国税庁告示が地理的表示制度を定めています。特に、ワインについては、国産のブドウで造られるいわゆる「日本ワイン」が現在、地理的表示の思想で造られる方向で進んできており、決してよくない条件下でブドウを栽培し苦心して「日本ワイン」を造ることに対して消費者の理解と共感が得られるようになっています。その表れが現在の日本ワインブームになっていると思われます。

 アルコール飲料の地理的表示制度については制度をなお、充実する必要がありましょうが、農産物、食品及びアルコール飲料について地理的表示の制度が整いましたので、今後、日本的特徴を持つ飲食料品が日本の食文化を高める形で生産され、その良さが世界で一層理解され、輸出もなされるようになっていくことを期待します。

 特定農林水産物等の名称保護に関する法律2014年6月成立)の概要

1目的

TRIPS協定に基づき、特定農林水産物等の名称を保護する制度を確立することにより、その生産者の利益の保護を図り、もって農林水産業と関連産業の発展に寄与し、併せて需要者の利益を確保することを目的とする。

2地理的表示の定義

特定の場所、地域または国を生産地とするものであって、その品質、社会的評価その他の確立した特性が生産地に主として帰せられるものを特定農林水産物とし、その特定農林水産物の名称を表示することを地理的表示という。

3対象産品

酒類、医薬品、化粧品等を除き、農林水産物で食用に供されるもの及び飲食料品

4生産者団体

生産者団体とは、生産業者を直接又は間接の構成員とする団体であって農林水産省令で定めるものをいい、地理的表示の登録申請を行うことができる。

また、次の生産工程管理業務を行う。

 

(1)農林水産物等について生産の条件等を定めた明細書(第6(2)のA〜Fまでを定めたもの)の作成又は変更を行うこと。

(2)生産者団体の構成員たる生産者が明細書に適合してその生産を行うよう指導、検査その他生産の工程の管理を行うこと。

5地理的表示の保護

(1)登録を受けた生産者団体の生産業者及びその生産業者から直接又は間接に農林水産物等を譲り受けた者は、その農林水産物等が登録を受けた特定農林水産物等であるときは、その農林水産物等又は容器包装等に地理的表示を付することができる。

 

(2)何人も次の場合を除き、登録特定農産物等が属する区分の農林水産物等又はこれを主な原料として製造加工された農林水産物等又はその容器包装に当該特定農産物等に係る地理的表示又はこれに類似する表示を付してはならない。

@登録特定農産物等を主な原料として製造加工された農林水産物等に当該特定農林水産物等に係る地理的表示またはこれに類似する表示を付する場合

 

A登録の日前の商標出願に係る登録商標に係る商標権者(その使用の権利を有する者を含む)がその指定商品についてその登録商標を使用する場合

 

B登録の日の前から商標の使用の権利を有する者がその指定商品についてその登録商標を使用する場合

 

C登録の日の前から、悪意がなく地理的表示と類似の表示を使用していた場合、及びその使用の権利を譲り受けた者が使用する場合

6地理的表示の登録

(1)生産行程管理業務を行う生産者団体は、明細書を作成した農林水産物等が特定農林水産物等であるときは、農林水産大臣の登録を受けることができる。

 

(2)登録を受けようとする生産者団体は、次に掲げる事項を記載した申請書を農林水産大臣に提出しなければならない。

@生産者団体の名称、住所及び代表者の氏名

A農林水産物等の区分

B農林水産物等の名称

C農林水産物等の生産地

D農林水産物等の特性

E農林水産物等の生産方法

F以上のほか当該農林水産物等を特定するために必要な事項

(3)申請書には、明細書及び生産工程管理業務規程等の書類を添付しなければならない。

 

(4)登録申請の公示

@農林水産大臣は、申請があった時は、上記6の(2)に掲げる各事項その他必要な事項を公示しなければならない。

A農林水産大臣は、公示から2カ月間、申請書、明細書及び生産工程管理業務規

程を公衆の縦覧に供さなければならない。

 

(5)意見書の提出

公示があった時は、何人も、公示の日から3カ月以内に農林水産大臣に意見書を提出することができる。

7登録の拒否

(1)農林水産大臣は、次の場合は登録を拒否しなければならない。

 @生産者団体が登録を取り消され、2年を経過していない等のとき

 A生産者団体の構成員の行う生産が明細書に適合して行われることを確保するための農林水産省令で定める基準に適合していないとき

 B申請農林水産物等が特定農林水産物等でないとき

 

C申請農林水産物等の名称が次のいずれかに該当するとき

 a普通名称その他特定の産地や産地に由来する特性を特定することができない名称であるとき

  b申請農林水産物等又はこれに類似する商品に係る登録商標と同一または類似の名称であるとき

(2)上記bは、登録商標に係る商標権者たる生産者団体等に該当する生産者団体が申請する場合は適用しないものとする。

8農林水産大臣の監督等

(1)違反した者に対する措置命令

 農林水産大臣は、第5の地理的表示の規定に違反した表示をしている等の場合は、その者に対してその表示の除去など必要な措置をとることを命じることができる。

(2)登録生産者団体に対する措置命令

 農林水産大臣は、その構成員たる生産者が第5の地理的表示の保護の規定等に違反し、又は上記(1)の措置命令に違反した等の場合は、登録生産者団体に対して明細書又は生産工程管理業務規程の変更等必要な措置を取るべきことを命じることができる。

(3)報告及び立入検査

 農林水産大臣は、登録生産者団体、生産業者その他の関係者に対し、その業務に関し必要な報告を求め、又はその職員に、これらの者の事務所、倉庫、ほ場、工場その他の場所に立ち入り、業務の状況若しくは農林水産物等、その原料、帳簿、書類その他の物件を検査させることができる。

(4)農林水産大臣に対する申出

何人も地理的表示の表示禁止等に違反する事実があると思料する場合は、その旨を農林水産大臣に申し出て適切な措置を取るべきことを求めることができる。

資料:農林水産省が公表した「法案要綱」を基に橋が作成