ワインの地理的表示「山梨」の意義

       ワインづくりの思想の形成と国際的枠組みへの参入

Significant step of geographical indication “Yamanashi” for Japan’s wine

-  Formation of wine producing concept and participation

into the global framework of wine trade- 

                       平成261

                         髙橋 梯二

 この資料は、日本醸造協会誌2014VOL109に掲載されたものに若干の修正を加えたものである。

1 地理的表示ワインとして日本で初めての指定

平成25716日国税庁は、告示によりワインについて地理的表示「山梨」を指定した。これは、地理的表示基準(平成61216日付国税庁告示)に基づく指定で、4月より山梨県ワイン酒造組合から申請が出されていたものである。国税庁のこの地理的表示基準は、GATTウルグアイラウンドで合意された「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」における地理的表示に関する合意事項の国内実施法制として1994年に制定されたが、今までワインについては、指定されておらず、今回、初めて指定されたものである。

地理的表示ワインは、100年以上前からヨーロッパで原産地呼称ワイン(フランスではAOCワインとして有名)として形成されてきた概念であるが、それをめぐっては、アメリカ等はワインのほか農産物・食品を含み原産地呼称制度で産地名称を保護するのは貿易障害になるとして反対していた。しかし、1994年に終了したGATTウルグアイラウンド交渉において130カ国を上回る加盟国が地理的表示を知的所有権として認め、この権利を「地理的表示」という総称名で整理した。したがって、フランスでは現在伝統的に使用してきたAOCの名称を順次廃止し、ワインについても、農産物・食品についてもEU加盟国の共通の名称である「保護原産地呼称(AOP)、保護地理的表示(IGP)に切り替えている。

地理的表示の定義は、WTOで成立したTRIPS協定に定められている(22)。それによると、地理的表示とは、「ある産品に関し、その確立した品質(une qualité,社会的評価(réputation)又はその他の特性が当該産品の地理的原産地に主として帰せられる場合において当該産品が加盟国の領域又はその領域内の地域若しくは地方を原産地とするものであることを特定する表示をいう」となっている。

定義は協定で定められたものの、この定義をどのように具体化するかは、加盟国の法制に任せられたため、加盟国によって、地理的表示の具体的な仕組みについては大きな違いがあるのが現状である。たとえば、EUでは、ワインの地理的表示ごとに、生産基準(cahier des charges)を定め、産地に基づくワインの特質を証明し、管理・監督も第三者(行政機関等)によって行われるという方式をとり、地理的表示は商標とは異なる独自の知的所有権とした。一方、アメリカは、AVA(アメリカブドウ栽培地域、American viticultural area)制度をそのまま続け、AVA地域のブドウを85%以上使用していれば、そのAVA名を地理的表示として表示できるとしている。したがって、EUは、アメリカのAVA制度によるワインはTRIPS協定にいう知的所有権としての地理的表示として正式には認めていないようでもある。

このような国際状況の中で、今回,日本政府は、日本としてのワインの地理的表示の考え方を明らかにしたといえる。日本では良質のワインが生産されるようになっていることが最近世界で知られるようになっており、日本が国際的なワインの枠組みにどのような形で参入してくるかが注目されていた。地理的表示「山梨」の生産条件等の内容を見るとヨーロッパの方式に近く、地理的表示を地域の財産と認識し、商標とは独立した知的所有権としてとらえているといえる。この点で、ヨーロッパは今回の日本の初めての地理的表示に大きな関心を示している。国際ワイン法学会に報告したところ、世界の会員に興味ある情報として直ちに配布され、また、OIV(国際ブドウ・ワイン機構)からの反応もあった。

2 日本のワイン造りの思想の具現化

(1)生産基準

今回、指定された地理的表示「山梨」の生産基準は、山梨県ワイン酒造組合の提案に基づき、定められたもので、その内容は、おおむね次のようである。

 行政手続きによって決められたもの

  産地名等 

産地名は、「山梨」とし、産地の地域は山梨県とする。

産地指定をする酒類は、「ぶどう酒」とし、ぶどう酒とは、酒税法第3条第13号に掲げる果実酒のうち、ぶどうを原料とした酒類をいう。

 醸造するぶどう原料

・山梨県産ブドウ100%使用していること。

・ぶどうの品種は次のものに特定する。

甲州種

     ヴィニフェラ種

    その他の品種

       マスカット・ベーリーA、ブラック・クイーン、ベーリー・        アリカントA、甲斐ノワール、甲斐ブラン、サンセミヨン、       デラウエア

  醸造するぶどう酒、

・山梨県内で醸造、容器詰めしたワインであること。

 補糖については、補糖したワインのアルコール分は、14.5%以下とす   る。

アルコール添加は禁止する。

 山梨県ワイン酒造組合が採用した生産基準

  山梨県ワイン酒造組合が定めた官能検査制度により官能検査を実施 し   、品質の維持・向上を担保する。

・地理的表示をしようとする者は、生産の条件を満たしている旨を証明する申請書(参照1及び2を含む)及び当該ワインの分析値、その他必要な事項を添付して山梨県ワイン酒造組合に提出する。

参照1 品種名を表示できるブドウの使用割合

甲州については100%使用する場合に限る。ヴィニフェラ種及びその他の品種については、「国産ワインの表示に関する基準」第6条4、品種の基準に準ずるものとする。

参照2 糖度基準

最低果汁糖度を甲州14.0度以上、ヴィニフェラ種18.0度以上、その他の品種16.0度以上の原料を使用していること。ただし、気象条件に 恵まれない年は1.0度下げる。

申請された官能検査を行うに先立ち、申請書、分析値その他の事項を山梨ワイン酒造組合が審査・確認を行う。分析値は、比重、アルコール分、エキス分、総酸、揮発酸、総亜硫酸とし、これらの値が妥当かどうか審査をする。

山梨県ワイン酒造組合の技術部会の職員及び同部会が任命した官能検査員が官能検査を実施する。官能検査パネルの平均点を基礎として合否を判定する。

・ 山梨県ワイン酒造組合長は、合否の結果をワイン提出者に連絡する。

以上の生産基準は、ヨーロッパの生産基準に比べ厳格でないという意見もあろうが、山梨県のほとんどの76ものワイナリーがこのような生産基準でワインづくりをしていこうと合意したこと、また、この基準が守れないのであれば「山梨」という産地表示ができないことを受け入れたことに大きな意味がある。たとえば、指定された品種以外の品種を使えば、また、山梨県以外のブドウを使えば、さらに指定された糖度以下のブドウを使えば、産地表示「山梨」が使えなくなるという効果を持つ。これは生産者にとっては厳しい規制である。

山梨県のワイナリーが「山梨」という産地表示を使う以上、合意された生産基準に従って、よいワインをつくろうとの意思を表明したということであり、これは、長野県の原産地呼称制度あるいは甲州市の原産地呼称とは決定的に異なる。長野県及び甲州市の原産地呼称制度では原産地呼称の認定が受けられれば、そのマークをワインに貼付できたり、使用できたりするということであって、認定を受けられなくとも「長野」あるいは「甲州市」という用語の使用は自由にできるのである。

(2)ワイン造りの思想の具体化

今回の地理的表示「山梨」の制度は、1935年成立したフランスのAOC法とほぼ同じである。同法第21条では、「全国委員会(INAOの前身)は、関係する組合の意見をもとに各AOC呼称ワイン及び蒸留酒に適用する生産条件を定める。この条件は、生産地域、ブドウの品種、1ha当たりの収量、ワインの最低アルコール分であり、ブドウ栽培、醸造、蒸留の過程で何も加えない自然の製造を前提とするものでなければならない。・・・・・・各AOC呼称のワインに課せられた生産条件に適合していなければ、AOC呼称で販売することはできない。」と簡潔に規定されている。

このフランスでのワイン造りの考え方がまとまるまで、30年を要したとAOC制度の推進者であったジロンド県のカピュ議員は述べている。山梨県でも大手、中小を含み約80のワイナリーの合意を得るのは容易でなかったと思われる。

このワイン造りの方式は、地域の自然の力を最大限生かし、作り手の意図とうまく調和した時おいしい、よい産品ができるという思想の上に、産地のそれぞれの生産者の努力の積み重ねによって産地としての特徴が形成され、産地の共通の財産となっていくとの考え方でできている。

なお、地理的表示「山梨」のワインの生産基準に、ブドウの単収規制は入っていないが、まだ、単収をどのくらいに落すのが適当かについて生産者の共通の認識がない状態で決めるのは無理があろうし、糖度基準をあまり厳しくするのも現実的でない、またヨーロッパではワインづくりには使用が禁止されているアメリカ品種のデラウエアが入っているのも山梨の産地の特徴であろう。ワインについて産地の特色を表現するのにヨーロッパの基準にすべて合わせる必要はないと思われるし、完全に合わせるのは、産地の特色を現すということからすると、かえって適切でないという気もする。

今回の地理的表示「山梨」の指定は、以上のようなワイン造りの思想を法的な枠組みの中で具現化したものであり、日本のワインの歴史上重要な意味を持つものと考える。

3 WTOで認められた保護の水準が高い知的所有権

この地理的表示「山梨」は、1994WTOウルグアイラウンドで合意されたTRIPS協定(以下「協定」という)によって認められた知的所有権である。協定によって保護される知的所有権は、100年以上の歴史を持つフランス等のヨーロッパ諸国が築き上げてきた産地名称の保護の方式を基礎としている。したがって、保護の水準が高く、フランスのAOCワインの原産地呼称名の保護とほぼ同じである。

たとえば、地理的表示「山梨」を使用する権利のない者がワインについて「山梨」の用語をラベル等に使用することは当然禁止される。また、「山梨」の産地名自体が保護される。商標では、産地名自体は保護されないので、混同が生じない限り「山梨」の用語はワイン関連にも使用できる。今回、「山梨」が地理的表示として指定されたので、「山梨風」などの表現も使用が禁止される。これは、原産について消費者に誤認を与えないとしても禁止されるものであり、TRIPS協定上はワインと蒸留酒に適用される追加的保護といわれている。商標ではこのような表示は許されるが、TRIPS協定では禁止している(23)

これは、ヨーロッパの強い主張によって国際的に合意された保護である。たとえば、「ボルドー」などの名称は、長年、アメリカやオーストラリア等で「ボルドー風」などの用語が広く使用され、次第に「ボルドー」自体も普通名称(誰にでも使える一般名称)と認識されるようになり、これらの国では、「ボルドー」、「ブルゴーニュ」などの産地名を冠したワインは、ジェネリック・ワイン(一般名称ワインということか)と称され、品種表示ワインに対比して並級酒(日常消費ワイン)を意味するようになった。「シャンペン」や「シャブリ」も多くの国で、一般名称と認識されるようになりつつあった。ヨーロッパは、このような動きを阻止しようとしたのである。

さらに、「ドメンヌ山梨」などもの表現も問題となるかもしれない。特に地理的表示山梨の使用の権利のないワイナリーの場合、このようなワイナリー名を用いることができるのかという問題である。フランスでは「シャトー・マルゴー」という商標があるが、AOCマルゴーの権利を持つ者が登録できる商標である。

商標との関係では、既に地理的表示の登録がなされている場合は、それと同じか似た表現の商標であって当該地域以外の地域を産地とするワインについては登録できないことになっている。これは、TRIPS協定で規定されているが(第22条、23条)、日本では商標法で規定されている(第4条)。つまり、「山梨」以外を原産地とするワインについて「山梨」の用語を用いた商標の登録はできないということである。協定では関係者の請求によりこのような商標の取り消しもできることになっている(第22条、23条)。

 注: 商標法第4(商標登録を受けることができない商標)第17

十七  日本国のぶどう酒若しくは蒸留酒の産地のうち特許庁長官が指定するものを表示する標章又は世界貿易機関の加盟国のぶどう酒若しくは蒸留酒の産地を表示する標章のうち当該加盟国において当該産地以外の地域を産地とするぶどう酒若しくは蒸留酒について使用をすることが禁止されているものを有する商標であって、当該産地以外の地域を産地とするぶどう酒又は蒸留酒について使用をするもの

以上のような名称使用の権利の調整は基本的には、法律が必要であり、日本では、国税庁告示では保護の方式について詳しく規定されていない。したがって、これから、ワインに関連した「山梨」の名称使用について、具体的事例に即しつつ、関係者間で調整していかなければならないと思われる。

現在、「山梨」の用語がワインにそれほど多く使用されていないので、この高い水準の保護が重要なものとして理解されていないきらいがある。しかし、「山梨」のワインがさらに有名になるにつれ、重要な意味を持つようになろう。特に、海外では、日本で有名になるとその名称がその国の商標や地理的表示に用いられる傾向があり、このような動きをより有効に阻止できる。

今回の地理的表示「山梨」の指定によって、国際協定によって知的所有権として「山梨」の用語使用について水準の高い保護が与えられたことになり、今後は、この権利を内外においてどのようにまもっていくかが課題となる。

4 日本ワインが世界で認められる先駆的な役割

今回の地理的表示「山梨」の指定によって、山梨の表示を使うワインは国際的なワインの枠組みにおいて産地表示ができる上質ワインとしての位置付けが与えられる。特に、ヨーロッパでは産地表示ができる上質ワインとしての地理的表示ワインと産地表示ができない通常消費のテーブルワインとの間では表示等の取り扱いに厳格な区分が設けられている。この区分は、上質ワインである地理的表示ワインとテーブルワインとの混同や誤認を防ぐために設けられている。EUは、この厳格な区分を、基本的には、外国のワインにも要求している(外国産のワインでEU市場に輸入されるものに適用される)。

今回の指定によって地理的表示「山梨」のワインは、EUからTRIPS協定に基づく地理的表示と認められる基礎ができたので、EUから確認が得られれば、今まで、EU向けのワインにはできなかった各種の上質ワインのみに認められている表示が可能となる。

たとえば、EUの規則によれば、海外のワインに対しても地理的表示ワインでない場合は、産地表示の禁止、「樽熟成」、「樽発酵」などのいくつかの醸造方法に関する表示の禁止、「シュールリ」、「シャトー」、「原産地呼称」など多くの伝統的表現の使用禁止措置が取られている。これらの表示の禁止は、地理的表示「山梨」のワインがEUから地理的表示ワインとして認められれば、なくなると期待される。さらに、地理的表示の産地区画より狭い産地の表示も可能となる可能性がある。たとえば、「勝沼」、「城の平」、「明野」などもヨーロッパ市場においても表示可能になるのではないかということである。というのはEUのワイン規則では地理的表示の区画より狭い地域の産地表示はその産地のブドウを85%以上使用すれば表示可能という規定があるからである(2009年ワイン規則第67条)。

なお、ブドウ品種の表示については、EUは、地理的表示ワインとテーブルワインとの差はなく、輸入ワインにつては、ブドウ品種表示に関する生産国側の規則(代表的な生産者団体による規則を含む)に従ったもので、かつ、OIV(国際ブドウ・ワイン機構),UPOV(植物新品種保護国際同盟 )又はIBPGR(国際植物遺伝資源理事会)といった国際機関の一つに登録された品種でなければ表示できないという規制がある(2009年ワイン規則第62条第1b)。外国ワインで勝手な名前の品種が表示されるとEU市場を混乱させるという考え方からとられている措置であろう。甲州ワインはこの規制によって当初、ヨーロッパ向けワインに「甲州」という品種表示ができなかったが、OIVに「甲州」の品種登録をすることによって(2010年)、表示が可能となったという経緯がある。マスカット・ベ-リーAOIVに登録されたので(2013年)、今は、EU市場で表示可能である。

しかし、このEUの表示規制については、長年、アメリカ、オーストラリア、チリ、南アフリカなどの輸出国との間で交渉が積み重ねられ、徐々に解決や妥協が図られてきた問題であり、地理的表示「山梨」のワインについて、これから、EUとの綿密な交渉や協議を行っていかなければならないと予想される。

まず、基本となるのは、地理的表示「山梨」がEUからTRIPS協定にいう地理的表示あるいはEUワイン規則でいう「第三国地理的表示」として認められるのかという問題である。今までのアメリカなどの輸出国との交渉の経緯をみると、アメリカのAVA制度によるワインについては、EUは地理的表示ワインと認めていないようでもある。この点についてヨーロッパのワイン法学者に確かめてみたが、あまりはっきりしない。EUは現在、第三国の産地表示ワインを次の表のように分類している。ヨーロッパでは、日本の地理的表示「山梨」の指定の報に接した時、アメリカやオーストラリアの制度とは異なりヨーロッパの制度に似ていると評価したようであり、「山梨」のワインが地理的表示ワインとして認められる可能性は高いと思うが、EUに確認してみなければならない。

  EUにおける第三国の産地表示ワインの分類(例示)

 

地理的表示

GI

原産地名称

Name of origin

保護地理的表示
PGI

保護原産地呼称
PDO

アメリカ

 X

  O

AVA制度等によるもの

 X

Napa valley のみ

EUの制度に登録されたもの

オーストラリア

 O

豪州GI制度によるもの

  X

 X

  X

カナダ

 O

商標法によるGI

  X

 X

  X

南アフリカ

 O

  X

 X

 

ブラジル

 X

  X

 X

Vale dos Vinhedos

EUの制度に登録されたもの

チリ

 O

   X

  X

  X

スイス

 O

   X

  X

  X

グルジア

 O

   X

  X

  X

: EUは、このワインの分類は、EUと当該国とのワイン貿易に関する協定に基づくとしている。 資料: EU委員会 E-Bacchus  

さらに、EUとの自由貿易協定については、今までのEUの自由貿易協定締結の経緯からすると、現在行われている日本との交渉においても、地理的表示について互いの保護できる制度の内容を確認し、互いの市場で保護できる産品を登録するということになろう。たとえば、2009年に仮調印されたEUと韓国の自由貿易協定においては次表のように登録が行われている。日・EUとの自由貿易交渉においては、地理的表示「山梨」が登録され、EU市場で保護されるようにしなければならない。

以上のように、地理的表示「山梨」は、日本ワインが国際的に認められるよう先駆的な役割を果たしていくこととなる。

EU・韓国自由貿易協定における地理的表示登録産品数

 

農産物・その加工品

ワイン

蒸留酒

合計 

韓国の地理的表示

  63

 0

 1

  64

EUの地理的表示

    60

 80

 22

 162

    資料:EU・韓国自由貿易協定ANNEXE 10-A及び 10-B より

5 今後の方向

前に述べたように、日本では、ワイン造りの思想に一定の方向が見えてきているといってよいであろう。それは、地域をベースとしたワイン造りである。地域のブドウを使い丁寧に栽培・醸造すれば、品質の特徴が現れてくることが経験的にわかってきたことである。また、日本には消費者に産地の味や、産地の特徴を楽しむ食文化があることである。ブドウの品種については、「桔梗ヶ原メルロー」、「信州小諸シャルドネ」などにみられるように、産地をベースにしつつ、品種との組み合わせによってワインを特徴づけるようになりつつある。丁寧に造るワインほどこの傾向が強いように思われる。

したがって、日本のワインの質が向上するに従って、産地が形作られ、地理的表示となりうる産地が形成されつつあると思う。山梨県のみでなく、長野県の原産地呼称管理制度などは、そのまま、地理的表示になりうるであろうし、桔梗ヶ原、東信、北信、山形、北海道、その他西日本でも産地形成が進みつつある。今回の地理的表示「山梨」の指定を契機として、でき得る産地から地理的表示とし、地域のワイナリーとブドウ農家がともに一体となって品質を向上させ、さらには、世界のワインの枠組みの中で上質ワインと認められるようにしていくことが期待される。

各県がバラバラに制度を設けるというより、日本全体として共通した制度にしていくことが消費者にとっても、世界にとっても分かりやすい。また、今後、ワインの輸出を想定していかなければならず、これが日本のブドウ農家の維持・発展にもつながっていくと思われる。また、TPPや日・EU自由貿易協などによるグローバル化の一層の進展によって、輸入ワイン及びワインの原料となる輸入ブドウ果汁の関税の低減あるいは廃止の可能性があり、国内のブドウでできる日本ワインの競争上の条件は一段と厳しくなることが予想され、地理的表示制度の進展は日本ワインの内外の競争力高め、維持・発展を図ることに貢献するものである。

なお、日本ワインだけでは、日本のワイン需要に十分応じていくことができない。また、日本では輸入果汁を原料としたワインも重要である。これは、世界の優良な果汁を輸入し、日本の醸造技術によって合理的な価格で消費者に提供できるおいしいワインである。さらに、消費者にとって世界の様々なワインを楽しむ機会があることも必要である。

次の表にあるように、日本では、日本ワインの割合は、全体の10%程度にすぎず、このワインを増加させつつ、輸入果汁によるワイン及び輸入ワインとのバランスで組み合わされた日本のワイン文化が発展していくことが期待される。この場合、今回の地理的表示「山梨」のワインは、日本ワインの発展に大きく貢献する役割が期待される。


日本のワインの生産と消費
                        2008

 

ワインの量
キロヘクトリットル

ワインのタイプ

割合

生産者のタイプ

国内で生産されたワイン

 

日本産ブドウで生産されたワイン

250 KHL  (150 KHL 農家生産のブドウによるワイン)

上質ワイン

中級ワイン

10.1%

大手及び中小ワイナリー

輸入果汁・ワインによるワイン

580 KHL

通常消費ワイン

23.6

主として大手ワイナリー

輸入ワイン

1,630 KHL

通常消費ワイン

上質ワイン

66.3

大手及び中小の輸入業者

合計

2,460 KHL

 

100.0

 

   資料:財務省、農林水産省、業界推計値

髙橋 梯二

   東京大学農学生命科学研究科非常勤講師 

   国際ワイン法学会理事