開発途上国における地理的表示

           平成24年12月

            橋 梯二

1 開発途上国の関心の高まりと独自の制度の採用

大部分の開発途上国は、農業に長い歴史を持ち、地域の特徴ある農産物や食品も多いが、その名称使用の権利を法的にまもるということには関心が薄かったといえる。世界的に有名な産地表示の産品がいくつか形成されているものの、経済的な力が弱かった時代はそれらの産品が先進国でその産地名で販売されることが産品を有名にすることでもあり、産地名称の使用の権利をまもるという意識は低かったといえる。

しかし、1994年にTRIPS協定が成立し、加盟国は地理的表示を保護するため法制度の整備をしなければならなくなったことから、地理的表示への関心が高まっていった。また、前年の1993年の生物多様性条約の締結にみられるように開発途上国がまもり育ててきた生物資源に対する権利意識が強くなり、地理的表示もこれと連動して開発途上国の財産をまもる制度としてとして位置づけようとの動きとなってきたのである。また、地理的表示は地域経済の発展、地域資源の維持などの目的に利用できることにも着目した。また、開発途上国の産品の輸出拡大にも役に立つことも判明してきた。アジア地域で現在地理的表示として登録されている産品の数は次の表のとおりである。

注 生物多様性条約

1992年の国連環境開発会議で採択され、199312月に発効した条約である。2012年現在、192の国とEUが参加している。条約の目的は1)生物多様性の保全、(2)生物多様性の構成要素の持続可能な利用、(3)遺伝資源の利用から生じる利益の公正で衡平な配分である。生物多様性の持続可能な利用のための措置として、持続可能な利用の政策への組み込みや、利用に関する伝統的・文化的慣行の保護・奨励についても規定されている。条約を巡って、遺伝子資源を利用するバイオテクノロジー技術を持つ先進国と遺伝子資源を持つ途上国とが対立した。アメリカはバイオ産業が不利益を被ることを理由に未締約である。2000年、遺伝子組み換え生物が在来種を脅かしたり、人の健康影響を与えたりしないための措置を求めるカルタヘナ議定書が採択されている。

         アジア諸国の地理的表示登録数

 

農産物・食品

工芸品

外国産品

合計

調査時

中国

韓国

インド

タイ

ヴィエトナム

マレーシア

NA

188

 42

26

 23 

 16

 NA

 10

112

  9

  1

  0

 NA

  8

  4

  7

  3

  4

3216

 206

 158

  42

  27

  20

2011

20117

2011

20105

20118

20123

注:「農産物・食品」には林産物、水産物及びアルコール飲料を含む。

資料:「諸外国の地理的表示保護制度及び同保護を巡る国際動向に関する調査研究」、    社団法人日本国際知的財産保護協会、20123

また、開発途上国では、それほど多くはないが、世界的にも有名で生産国の経済にとって非常に重要な地域の名を冠した産品があった。コーヒー、紅茶、米の一部(バスマティ米、ジャスミン米)などであろう。しかし、これらの産品はいわゆる換金作物(cash crop)といわれるものが多く、主として先進国で消費されるもので植民地時代から先進国主導で生産と流通が行われてきた。それ故に先進国企業によって広くそれらの名称が使われ一般名称のようになりつつあるものがあり、開発途上国の地理的名称使用の権利も危うくなっている。このような状況をピーター・ロビンズは、「発展途上国が世界各国との間で強いられた競争では、重いハンディを背負わされたかれらの馬がゲートから出走する前に、コースはすでにサラブレッドによってさんざんに踏み荒らされていた」と表現している。

地理的表示制度はこれらの産品の名称使用権利を復活することに有効であるとも認識された。

 以上のように地理的表示の役割が理解されるようになっており、現在では、多くの開発途上国で地理的表示の法制度が整備されている。EU等のヨーロッパ諸国は法的整備を支援もした。特に、2005年のWTOパネル報告で商標とは異なる地理的表示の権利が国際協定上認められたこともあり、商標とは異なる独自の権利と捉える国が多くなっている。  しかし、従来から産地名称について商標で対応してきたことと、輸出先国の先進国においては地理的表示を商標でしか扱っていない国もあり、商標制度による地理的表示を独自の制度と併存させている国も多い。中国、韓国、タイ、ヴィエトナム、マレーシア、シンガポール、インドなどアジア諸国のほとんどは地理的表示制度を整備し、中南米、アフリカでもかなりの国が整備している。

2理的表示と開発途上国の名称使用権確保の努力

(1)エチオピアのシダモ・コーヒー

コヒ―は、原油に次ぐ貿易額の大きい貿易商品であり、世界では一年間に4000億カップが消費されるといわれており、開発途上国にとって重要産品である。産地ごとの特質によって識別される産品であるにもかかわらず、産地名称の使用の権利に関しては産地ごとあるいはコーヒーごとにばらつきはあるものの、総じて開発途上国の産地名称使用の権利が十分に確保されてきたはいえない状況であろう。

 まず,最近問題となったエチオピアのシダモ・コーヒーの例を挙げる。このコーヒーについては第一章で説明したが、エチオピア中央部のオロミア州の高地で生産されるコーヒーである。エチオピアはコーヒーの原産国で、世界の生産量の15%を生産し、約18万トン輸出し、輸出額の54%をコーヒーに依存している。しかし、エチオピアは、長い間自国のコーヒーの産地名称について知的所有権を利用して権利をまもることに大きな関心を示してこなかった。

しかし、最近になって政府はコーヒー等エチオピアの資源を知的所有権でまもる方針をとり始め、2004年、シダモ・コーヒーについてアメリカ、EU,日本などの主な輸出先国において知的所有権を取得することとした。最大の消費国であるアメリカにおいては地理的表示としての証明商標にするのか普通商標で申請するのかの問題があったが、証明商標は商標使用の許諾を与えた者を適切に管理する必要があり、この管理が難しいことなどから、普通商標で登録申請することとした。続いて、日本、カナダ、ブラジル、中国、EU、オーストラリア及びサウジアラビアに商標の登録申請をした。また、エチオピアは、貿易業者等とのライセンス契約によって世界で商標が登録されていなくてもシダモの名称がよく使われるようネットワークの形成も試みた。

2005年になって、アメリカに対してシダモの商標登録の申請がなされたが、スターバックスから既に「シルキナ天日乾燥シダモ(Shirkina Sun-Dried Sidamo)」の商標登録申請がなされていたのである。アメリカ特許局は、エチオピア政府の申請する「シダモ」はこれと著しく競合するとの認識を示した。これに対しエチオピア政府はスターバックスのこの商標登録に強く反対した。2006年になってスターバックスは「シルキナ天日乾燥シダモ」の登録申請を取り下げたので、競合の問題はなくなった。

しかし、同年アメリカ特許局は、「シダモ」は識別性のない記述的用語であるという理由から商標登録申請を拒絶した。また、アメリカ特産コーヒー協会(Speciality Coffee Association of America)は、「シダモ」は、コーヒーのタイプを表すものであり、記述的で商標の対象にはならないという意見を提出し、また、証明商標により地理的表示とする方が適当であろうとの意見でもあった。

この間、オックスファム等の国際NGOがエチオピアを支持して、スターバックスに圧力をかける大々的なキャンペーンを展開した。スターバックスはエチオピアのコーヒー生産地域の人々の経済的及び教育的条件を改善するためのプログラムを支援するため、NGOの「CARE」に対して50万ドルの支援を表明している。

エチオピアはあくまでも普通商標としての登録を主張し、証拠等を提出するなどして登録が認められるよう努め、その結果2008年2月にアメリカ特許局はようやくシダモの商標の登録を認めた。

この問題に関する日本での状況はどうであったであろうか。エチオピア政府は、2005年に「シダモ」及び「イルガッチェフェ」について日本に対しても商標登録の申請をし、2006年に登録が認められたが、業界から無効審判の請求があり、特許庁は無効との審決を下した。これに対しエチオピアは知財高裁に提訴し、20103月に同高裁は特許庁の審決を無効とする判決を下した。その理由は、専門家でないと理解するのが難しいが、日本の業界の強い反対があったにもかかわらず、既に、アメリカ、EU、オーストラリア、カナダで商標登録が認められていたという事実が大きかったのではないかと想像される。 なお、日本の30を超える企業がエチオピア政府(知的財産局)とライセンス契約を締結している。

エチオピアに比べ、ジャマイカの「ブルーマウンテン」コーヒーは比較的早くから、主要輸入国(日本を含む33カ国)に商標登録をし、名称(Jamaica Blue Mountain, Jamaica High Mountain Supreme)の使用権を確保している。コーヒー産業委員会(Coffee Industry Board)が主要な貿易業者に対して商標使用権を与えるライセンス契約を結び、輸出先国におけるブルーマウンテンコーヒーの名称の適切な使用が図られるようにしている。

 しかし、すべてのコーヒーがこのように名称使用権が確保されているかというとそうではなく、産地名称が長年広く使われ、一般名称になっているとして、商標や地理的表示が認められていないことも多いのである。この場合は、生産国の産業界あるいは政府が組織した機関が貿易業者等と輸出契約を結び、輸入国において適切な名称使用が行われるよう措置しているのが現状である。

一方、ドミニカ共和国など多くの生産国では、カリブ海諸国の高地のコーヒーであるピコ・デュアート(Pico Duarte)のような有名な産地の名称のほとんどが個々の私企業によって商標登録されており、地域の生産者全体の財産として品質を高めていこうとする努力の障害になっているともいわれている(Belletti, G.et al, 2007)。私企業の産地名称使用の独占を排除して、関係生産者皆が利用できる地理的表示登録も考えられるが、地理的表示と商標との併存が認められ、地理的表示が成立するかどうかはその国の法制によることとなる。

       産地名称のあるコーヒーの国際価格

          20068月―12月の間の国際市場におけるローストコヒーの価格

      産地名

 

価格

ドル/ポンド

  平均小売価格

 コロンビア・シュープリーム

  ガティマラ・アンティカ

  コスタリカ・タラズ

  タンザニアン・ピーベリー

  スマトラ・マンデリン

  パプアニューギニア

  エチオピア・ハラール

  ジャワ・エステイト

エチオピア・イルガッチェフェ

  スラウェシ

  ケニアA4

  100%コナ

  ジャマイカ・ブルーマウン テン

3.17

9.92

10.07

10.09

11.14

11.16

11.22

11.28

11.36

11.45

11.91

12.0

29.87

43.44 

       出典:Teuber R,2007.

Linking people, places and products, FAO, 2009-2010

(2)インドのバスマティ米

 バスマティ米は古くからインドとパキスタンで栽培されていた長粒種の芳香のある米で、ヒマラヤ山間部で栽培されるものが上質とされ、特に、ハルヤナ(Haryana)地域のバスマティ米が最良とされる。

1990年代の後半から2000年代にかけ「バスマティ」の名称の保護に関する二つの問題が生じている。アメリカの企業が1997年バスマティ米の系統の米の特許を取得しことから、インド政府は2000年6月農民、地域及び国際的なNGOを動員してアメリカ特許局(US Patent Office)によって認められた特許の見直しを申し入れた。特許権に対する伝統的知識の権利として対抗したのである。 多くの法的な手続きをとったにもかかわらず、特許は無効にならなかった。インド国内では、アメリカのライステク会社(Rice Tec Corp)のもつ特許は無効となったが、ライステクは、バスマティ米からの3つの米の品種に関する特許を維持した。それらには「Texmati」などの名前が使われている(Ted Case Studies 1998)。その後もアメリカではバスマティタイプの米の開発が進められ、Kasmati (1994, Calmati 201 (1999, Calmati 202 (2009などの開発が行われている。

 第2の問題は、バスマティの名前のインド人の独占的使用に関するものである。アメリカの議論は、たとえば、「アメリカで栽培されたバスマティ」のように、消費者に生産の場所が知らされていれば有名な名前も使うことができるということを主張した。原産に関する総合的な情報があれば、特定の産品を認識するのに十分であり、アメリカの制度においては、特定の原産が明示されている限り、商標及び証明商標の認定を受けることができるとの主張でもあった。

したがって、「アメリカンバスマティ米」の表現は、アメリカ特許局によって保護され、追加的保護はアメリカでは適用とならない。国際的には、イギリス、サウジアラビアなどいくつかの国は、インド大陸のものでなければこの品種名での輸入はしてはならないとしているが、イタリアなどの国では、自国のバスマティ米を販売している。これらの国は、この名前は、輸出、文化交流、用語の使用などを通じて共通的に使用されていると主張している。したがって、バスマティ米の名前が一般名称になっているとの意見である。このように、「バスマティ米」の名称がいろいろなところで使用されている現状ではインドはその完全な名称保護には今のところ成功していない。さらに、インド国内での地理的表示としての登録についてもバスマティ米の品種の定義の複雑さと産地の確定の難しさがあり、まだ実現していない。

また、バスマティ米についてはもう一つの生産国であるパキスタンとの関係が問題となる。パキスタンとインドとでは地理的表示の定義が異なるうえ、インドは、新しく開発されたSuper basmatiを正式なバスマティに追加したが、これはパキスタンで開発され、かつては同国のみで栽培されていた米である。 インドはバスマティ米を地理的表示として国内で登録し、さらに、EUの地理的表示制度への登録を検討しているが、現在のところ実現していない。また、パキスタンと共同でEUへの登録申請をしようという動きもあるが、その前に両国間の調整が必要になっている。

(3)タイの香り米

タイには、独特の香りを持つ香り米がつくられている。いくつかある香り米は、「ジャスミン米基準(Thai hom mali (jasminrice standard)でカバーされる米(Khao kao dawk mali, kdml 105 及びRD15と「タイ香り米基準(Thai aromatic rice standard)でカバーされる13種類の米に分類されている。第一の分類はジャスミン米、タイ語で「カオ・ホム・マリ、Khao Hom Mali」と呼ばれ、うるち米で、感光性であることから年一回しか栽培できない。ほとんどが東北タイのやせた土壌で栽培され、単収は2.2トン/haと低い。しかし、タイの米の栽培面積の34%はジャスミン米で(2008)、米の輸出額の32%を占めている(2011。また、第2の分類の香り米にはもち米も含まれているが、うるち米のパトム・タニー  (Pathum Thaniが良質とされ、タイ中央部の肥沃な土地で栽培される。

ジャスミン米の適地は、東北タイの塩分濃度が高く、砂地の、地味があまり豊かでない土壌の地域とされ、タイ中央部の穀倉地帯では香りが際立たないとされる。これらのタイのジャスミン米は高級な米として海外市場での評価が高く、輸出価格も普通のコメに比べ1.5倍ほどであり、アメリカ、香港、ガーナ、中国、シンガポール等に輸出されている。

2001年ごろからタイ政府は、中国への香り米の輸出を含む米の輸出奨励策をとり、これと併せて、不正混入と商標違反に対応するためジャスミン米ついての輸出基準規則を導入した。さらに、2007年には最良のThung Kula Ronghai Khao Hom Mali が、地理的表示として登録された。この米はタイの東北地方のThung Kula Ronghai地方でできるジャスミン米で、これは「嘆きのKulaの台地の米」という意味で、Kulaは昔の少数民族の名である。荒れた土地と塩分が高い土壌とその気候が高い香りを生み出すとされている。他の5つの香り米ではない米も地理的表示登録されている。また、2011年にKula Ronghai Khao Hom Mali Rice EUの地理的表示への登録を試みたが、イギリスやフランスなどの5カ国からKhao Hom Mali の語句は普通名称になっているので使用できないとの意見と特定の場所で袋詰めされるのかとの質問があり、EUでの地理的表示の登録には成功していない(Orachos Napasintuwong)。

                  タイの香り米の輸出価格

 

タイ・ホム・マリ

タイ・パトム・タニー

タイ普通白米100%

1998

2000

 2002

 2004

 2006

 2008

576 USドル/トン

541

312

484

482

914

 

 

 

 

398

790

340

227

201

201

327

720

    出典: タイ商務省外国貿易局

タイではジャスミン米のブランドの偽装の防止はかなり難しいしいようである。一つには、 タイ・ホム・マリとそれより品質が落ちるタイ・パトム・タニーなどとの見分けが難しく、タイ国内でも混合されて売られるという偽装がある。また、中国などの輸出先国においては、混合されて売られることもあれば、その国の低級米と混合される。さらに、海外の国の米がジャスミン米のブランドで売られる偽装もある。これらの偽装に対して、小袋にして輸出したり、海外に小袋詰めをする工場を建設するなどの対策をしようとしているが必ずしも成功していないようである。

さらに、中国、カンボディア、ヴェトナムなどでも良質の香り米が開発され、生産されてきており、また、最近ではミヤンマーが肥沃な土壌でも香りのよい米pearl paw san riceを開発してきている。この米は単収が高い米である。

さらに、問題があるのはアメリカの香り米の開発である。先に述べたように1970年代以降バスマティ米タイプの米の開発がすすめられたが、最近ではジャスミン米タイプのJasmine85(1989, (2010Jasmati(1993 Jazzman(2009, J E S (Jasmine early short (2010が開発されてきており、ジャスミン米を連想するような名称で販売されるようになっている。このようにジャスミン米に関する国際的競争は益々激しくなってきている。タイでは生物多様性条約による遺伝資源として利益を確保する努力もなされているが遺伝資源の原産地が複雑であり、この条約での権利の確保もなされていない(Orachos Napasintuwong

注:Jazzmanはルイジアナ州の農業センターで開発された米で、同州のニューオーリンズ出身のジャズミュージシャン、ルイ・アームストロングとジャスミンをつなげた名称といわれている。

(4)インドのダージリン紅茶

ダージリン紅茶は、インドの西ベンガル州北部のヒマラヤ山脈の麓の高地で生産される紅茶で、高品質なことから世界的に有名となり、現在では、輸出量が年間約850万キロで、輸出額は約3000万ドルに達する。インドの経済にとっても重要な産品である。この紅茶は中国の茶を導入してイギリス人が開発したこともあり、世界中で有名になるにつれ、多くの国でダージリンの名前が使われるようになり、ダージリンを原産としないダージリン紅茶が現在でもかなり出回っているといわれている。

 インドでは比較的早くからまがい物の防止に努めるようになり、1953年に茶葉法が制定され、インド紅茶局の設立によって、産地証明商標章が導入された。また、世界の多くの国で商標登録して名称の保護に努めた。オーストラリア、カナダ、インド、アメリカ及びイギリスにおいては、証明商標として、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク及びEUにおいて団体標章として登録されており、ロシア、カナダ及び日本でも登録されている。

1983年にダージリンの認証マークが作られ、世界の主要市場で、国ごとの法令に基づき、商標登録された。2000年からは、ダージリンの名前で輸出される紅茶全てについて、ダージリン紅茶としての認証を受けることを義務付けるシステムが構築され、全てのダージリン取扱業者は紅茶局とライセンス契約を結ぶこととなった。これにはインド紅茶局が品質をチェックするために、製造工程や販売を監督することも、契約に盛り込まれ、また、契約者はダージリンの生産と加工及び販売に関する資料を提供しなければならない。これによってインド紅茶局は、ダージリン紅茶の全販売量を把握でき、偽装のダージリンがどのくらい販売されているか推計できるようになっている。
 また、2003年にインドで地理的表示に関する法律が施行されてすぐに、地理的表示としても登録され。さらに,EUの地理的表示制度にも登録された。地理的表示として登録されると国によっては追加的保護が適用され、ダージリンの語句の不正使用が広範囲に防止できることと、ダージリンの語句を使用し真正な原産地のダージリンでない紅茶を販売する商標の無効の訴えを起こすことができるなどのメリットがある。

このように不正を防止する努力が長年行われているが、不正を十分に防止するまでには至っていないようである。

なお、インド紅茶局は、ダージリンの語句が他の語句を加えて使用されることや紅茶ばかりでなく、衣服、レストランサービス等について使用されるのを防止することにも力を入れている。フランス、アメリカ、日本にもこのような商標の登録の申請に対して異議を申し入れてきている。しかし、関係国の法的解釈においてインドの異議が全部認められるわけではない。従って、国際的に地理的表示の追加的保護をワインや蒸留酒以外にも適用して保護の水準を高めることを望んでいる(S.C.Srivastava)。

(5)カカオ及びチョコレート

 カカオ及びチョコレートの輸出額は、それぞれ98億ドル、167億ドル(2007年、国連)であり、アフリカや中南米にとっては経済的に重要な産品である。チョコレートの生産は暑い気候のもとではあまり適していないこと、比較的大規模な製造装置が必要なことなどから主として先進国で生産が行われ、市場開拓も先進国企業主導で行われてきた。このような事情から原料のカカオの生産地がチョコレートの最終市場において意識されることはあまりなかった。

しかし、カカオは本来香りや特色が品種により異なり、また、土壌や気候による違いも見られるブドウと同じような産品であるといわれている。一般には、バルクカカオといわれるガーナやコートジボワールなどで生産されるものとファインカカオと呼ばれる中米などで生産されるものとに分かれる。近年、地理的表示が注目されるようになったことと、消費者が産地について興味を示すようになってきたこともあり、チョコレートのついてもカカオの産地と品種を結びつけた表示は販売戦略としても考えられるとのことである(Justin Hughes、)。

 現に、日本では、45年前から、カカオの含有率が高い無垢のチョコレートで、ファインカカオの生産地域である中米の産地を表示したチョコレートを数社が販売し始めている。アメリカの大チョコレートメーカーは主としてバルクのカカオを使用しているので、このような産地表示は見られないが、ヨーロッパでは多少販売されているようである。

 日本で販売されている産地表示のチョコレートには次のようなものがある。

@     産地ドミニカ、ドミニカ産豆100%使用、the Premium single,カカオ61%

A     産地ヴェネゼラ、スー・デル・ラゴ、単一品種豆使用、カカオ53%

B     産地ヴェネゼラ、エビラール豆使用、カカオ70%

D     産地ヴェネゼラ、ヴェネゼラブレンド・ノワール、カカオ63%

  注:チョコレートのカカオ豆使用割合は一般には45%

参考文献

・富田敏之、RIETI Discussion Paper Series 11-J-005, 独立行政法人経済産業研究所、2011

S.C.Srivastava, WTO Case Study 16, Protecting the Geographical Indication for Darjeeling Tea

Sidamo, A Teaching Case for WIPO by Intellectual Property Research Institute of Australia, 2009

Justin Hughes, Report prepared for the Intellectual Property Institute, Washington D.C. 2009 

Orachos Napasintuwong, Breeding for the best: Jasmine rice market competition and protection, Kasetsart University, Bangkok 

Orachos Napasintuwong ,Survey of recent innovation in aromatic rice, Kasetsart University, Bangkok 2012

・橋梯二訳、「地理的表示は有効な所有権か」、畜産技術協会、

  Helene Ilbert, Michel Petit,Are Geographical Indications a Valid Property Right ?- Global Trends and Challenges-,Overseas Development Institute, 2000

・北村陽子訳、「チョコレートの真実」英治出版、2007
  Carol Off, Bitter Chocolate,2006

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