欧米における大手小売業の食品安全と品質確保対策について

元国連食糧農業機関日本事務所所長
髙橋 梯二

 ヨーロッパではBSEの発生を契機として2000年前後に食品の安全に関する法制度と行政組織の大幅な改正が実施された。この制度改革では、安全を確保する責任は事業者にあることが強調され、トレーサビリティの義務化、HACCPの義務化、食肉、水産物の事業所の登録制などが導入された。
 消費者からの安全や安心への強い要請に対応して、事業者としては自らも安全を確保しつつ自発的な対策を導入してきている。これは、政府の定めた措置のみでは食品安全について消費者の信頼を得るには不十分であるとの認識に基づいている。この民間の措置の中で、ヨーロッパの大手小売業は加工食品においても生鮮食品においても食品安全・品質に関する基準を導入し、納入製造事業者に対してこれらの基準の適用と第3者認証と監査を受けるよう要求する制度を発達させてきている。また、これらの基準と認証が各国ごとに行われる非効率を是正するため、国際的な調和(標準化)の努力も行われており、それが日本やアジアの国にも及びつつある。これらのヨーロッパの大手小売業の対策の最近の動向について解説する。

I 基準・認証制度による加工食品の安全確保

 ヨーロッパにおいて小売業のPB商品が発展しそのシェアーが高まっている情況から(1)1990年代から大手小売業は自社ブランドの安全と品質を確保するため製造納入事業者の生産管理に関する基準を導入し、基準が守られているかどうかを監査する制度を導入してきた。2000年のEU指令によってHACCPが義務化され、また、2004年に制定された食品衛生に関するEU統合規則(パッケージ)により、安全確保に関する事業者の責任が強調されたことなどから、大手小売業は連合してHACCPISO9001あるいは22000をベースとした食品の製造管理基準を設定し、製造納入事業者の生産においてHACCP等の衛生管理や品質管理が確実になされているかの確認を行う制度を発展させてきている。

 (1) ヨーロッパにおける小売業のPBのマーケットシェアー(2005年)  スイス42%、イギリス40%、ドイツ35%、ベルギー27%、スペイン21%、フランス20  %、イタリア9% 
    資料: AC Nielsen and Citigroup Investment Research 2005

1 イギリス小売業連合(BRC)グローバル基準

    British Retailer Consortium Global Standard

 1998年イギリスの小売業連合は、小売業の自社ブランドの製造納入事業者の製造に関する評価を行うための基準を導入した。

この基準は、小売業の生産販売物に対する適切な注意義務に対応するためのものであるが、また個々の小売業者がそれぞれ独自の基準の適用と監査を行うよりは、統一された基準で行う方が小売業にとっても製造納入事業者にとっても効率的であることから導入されたもので、イギリスの大手の小売業のほとんどで採用されている。 現在は、小売業の自社ブランド製品の納入業者の基準として使われるばかりでなく、事業者が供給業者として認めるかどうかの基準として使われるようになり、製造業者の適正製造規範として短期間のうちに産業界に広く普及している。さらに、国際的にもこの基準が徐々に普及し、イギリスのほかカナダ、ブラジル及びタイでも使用されている。

 このBRCグローバル基準は2005年に第4版(version 4)が作成され、2008年には第5版に改定されることになっている。この基準の概要は次のとおりである。

   HACCPの採用と実施、②文書化された効率的な品質管理システムの採用及び③工場の環境、製品、製造過程、従業員の適切な管理を基本とし、HACCPによる品質管理システム、内部監査、改善措置、トレ-サビリティ、衛生措置、特定の原材料の管理措置、業務管理、教育・研修などが要求事項となっている。 もし、これらの要求事項のうち一つでも欠けていると認められるときは基準が守られているかどうかの全般にわたる評価(追加監査)が行われることになっている。    

 2 国際品質規格(International Food StandardIFS

 2002年にドイツ小売業連合(Hauptverband des Deutshen Einzelhandels)が食品の安全と品質に関する基準を作成し、それをもとに自社ブランドの食品の製造納入事業者を監査し、認証する制度を導入した。また2003年にはフランスの流通企業連合(Fédération des entreprises du Commerce et de la Distribution)がこの国際品質規格に参加した。

 2008年時点で、フランスでIFS基準に参加している小売業は、FCDの品質委員会(Quality Committeeに加入している企業すべてであり、カルフール、オーチャン、メトロ、カジノ、モノプリ、ピカール、シュルジュレ、プロブラなどである。ドイツでの参加小売業は、HDEの食品法品質保証委員会(Committee for Food Law and Quality Assuranceに参加している企業すべてであり、メトロ、AG, REWE, EDEKA, アルディ、テングルマン, AVA, グローバス(Globus,マーカント(Markant, Lidl, スパー(Spar, COOP (Schweiz) ミグロス(Migros)などである。

 この国際品質基準は納入製造業者に対する監査の基準を定めたもので、ISO9001の品質規格をベースに適正製造規範とHACCP原則を追加したものである。基準第4版ではEUで法制化されたアレルギー物質及び遺伝子組換物質に関する規制も取り入れている。基本的要求事項は、HACCPの原則、管理義務、トレーサビリティ、改善措置であり、監査の際の325のチェック事項が定められている。2004年から基準第4版が適用されている。

 このIFS基準は、①要求事項、②監査の実施及び評価、③認定機関の基準で構成されている。要求事項については食品製造業者が守るべき最低限の要求事項としての「基礎的要求事項」と「高度な要求事項」とに分類されている。また、「推奨要求事項」も定めており、これは監査を受ける企業の改良の努力を促し評価するものとして定められている。

(1)要求事項

 要求事項は、品質に関するシステム管理、管理の責任、原材料の管理、製造過程及び分析・改善の5項目からなっている。

 「品質に関するシステム管理」では、HACCPに関連した要求事項の明確化、文書化などを定めている。「管理の責任」では、管理者の責任と義務、最適な結果を得るための確認などを定めている。「人的資源の管理」では、従業員に関する要求事項(衛生管理、工場管理、施設管理など)を定めている。「製造過程」では、製造の各段階での詳細な要求事項(衛生管理、工場・施設管理、トレーサビリティ、廃棄物管理など)を定めている。「分析・改善」では、品質評価、物理的、化学的及び微生物の観点からの汚染管理、苦情処理、市場撤去、不適合産品の処理などを定めている。 

(2)監査の実施及び評価

 監査は、要求事項ごとにAからDまでの4段階の評価を行う。Aは要求事項を完全に満たしている場合の評価で、Dは要求事項を満たしていない場合の評価である。AからDの分類の内訳として点数評価もなされる。さらに、監査人は「KO」又は「重要な欠陥」の評価を行うことができ、この評価があると、総合評価が減ぜられ、また、企業の製造自体が不合格になることもある。「KO」に関係する要求事項は「KO」の印がついている。

 監査は原則として1年ごとに行われるが、2回連続して基準が満たされていると認定されれば、監査は1年半ごとに行われる。しかし、KO事項など基準の重要事項が満たされていないことが判明した場合は、監査の間隔は1年ごとに短縮される。

(3)認定機関の基準等

 監査人は認定機関に属していなければならない。認定機関に関する要求事項がIFS規格に定められており、認定機関はEN45011の規格に従って認定される(2)。また、監査人の知識や経験に関する要求事項もIFS規格に定められている。

(2) IFSの認定機関は約70機関(2008年時点)であり、それらのうち9機関がアジアに事務所を設置している。アジアで事務所が設置されている国はタイ、中国、マレーシア、インド、香港及び日本である。 

3 安全品質規格(Safe Quality FoodSQF

 この基準は1994年に農産物及び食品の供給業者が生産する製品の安全と品質をできるだけ経済的に確保する基準を提供するものとして西オーストラリアで作成された。この基準は2003年に食品市場研究所(Food Marketing Institute)の所有となり、SQF2000として発展させてきており、2005年に改定された第5版が最新のものとなっている。この基準は小売業の自社ブランドの製造に適用されるばかりでなく、すべての納入製品の製造に適用されるものである。

 SQF基準は、SQF1000SQF2000の2種類があり、SQF1000は農産物に適用されるもので、SQF2000は加工食品に適用されるものである。またSQF2000にはレベルがあり、レベル1は基本的な食品安全基準、レベル2は、認証HACCP食品安全計画、レベル3は食品安全品質総合発展計画である。レベル1を達成した製造供給業者はSQFに登録され、納入先の小売企業に知らせることができ、その後レベルをあげ、最終的にはレベル3の認証を受けることを目指す。SQF基準が満たされているかどうかはSQF Instituteが認めた国際的認証機関によってなされるが、SQF Instituteに登録された監査人によって行われた監査を認証機関が審査してSQF認証(Certification)を行う。このSQF基準は、製造納入事業者が認定を受け、納入先に安全な食品を製造していることをアピールする制度といえる。

 2008年時点でSQF基準を採用している企業は約5000社といわれ、アメリカのほかアジア、ヨーロッパ、ラテンアメリカ及び中近東の企業である。

SQF基準の概要は次のとおりである。

(1)管理基準

  製造供給事業者の所有者又は管理者は、食品の安全、品質、それらの継続的な改善及びこれらの目的達成のための資金的・人的資源の投入などに関する約束を文書にし、署名した上で、全従業員に知らしめなければならない。また、この約束は毎年見直されなければならない。

(2) 管理マニュアル

   この基準を満たすための方法・手段に関するマニュアルを文書で作成しなければならない。

(3) 組織

  製造供給事業者の食品安全と品質確保及びそれらの継続的な改善に関する責任及び役割機能を管理基準において明らかにしなければならない。そのため組織の業務内容を文書で確定しなければならない。

(4) 教育・訓練

 食品安全、品質計画の達成上重要な過程を担当する従業員に対する教育・訓練が用意されなければならない。また、教育訓練を受けた従業員のリストを保存しなければならない。

(5) 供給者の仕様

  最終製品の安全及び品質に影響を与える原材料の仕様について文書で明らかにしなければならない。

(6) 原材料の入手

 最終製品の安全と品質に影響を与える原材料は、使用前に検査されるか、承認された供給機関から購入しなければならない。

(7) 最終製品の仕様

 最終製品の仕様を文書で明らかにしなければならない。また、必要があれば納入先の承認がなければならない。

(8) 生産の管理

 食品安全計画における食品安全及び品質計画における食品の品質を管理し、確かなものとするための方法・手段について文書で明らかにしなければならない。

              食品安全計画において適用となる前提条件プログラム(prerequisite programs)を文書で確定しなければならない。

              前提条件プログラムがSQF専門家によって実施され、確認され、維持されることを確保しなければならない。

              食品安全計画ではすべての重要管理点を記述し、HACCPの方式によって作成されなければならない。

              食品安全計画はSQF専門家によって、作成され、実施され、確認され、維持されなければならない。

(9) 矯正及び予防措置

 矯正及び予防措置の手続きを文書で確定しなければならない。

手続きには、問題となった事項の原因と解決策の責任を明らかにし、その調査と確認の手法を定めなければならない。

(10) 基準に合致していない産品の取り扱い

 受入れ、加工、包装、保存等の段階での不適合物の確認と隔離の手続きを定めなければならない。

(11) 内部監査

 内部監査の手続きと、内部監査の計画を樹立し、実施する責任者を定めなければならない。

(12) 供給先の苦情処理

 供給先の苦情を処理する手続きを定め、原因を調査し、解決策を見出す責任者を定めておかなければならない。

(13) 食品規制

 供給先に配送する前に、当該国並びに原産国及び輸出国において適用となる法令に合致していることを確認しなければならない。

(14) 抽出検査及び分析 

 最終製品の抽出検査及び分析の責任と方法を文書で確認しなければならない。

(15)トレーサビリティ

 最終製品は納入先までトース可能でなければならない。産品のトレースの手順は文書化されなければならない。最終製品に至るまで、原材料はトレース可能でなければならない。

(16)リコール

 リコールの責任、管理、手続きなどのリコールシステムを文書化しなければならない。このシステムは最低1年に一回はテストされ、確認されなければならない。

4 国際的な調和

 以上のように国ごとあるいは国郡ごとに発展してきた食品安全基準は、国際的に事業を展開している小売業及び製造業にとって、国ごとに基準が異なることは2重あるいは3重に監査・認証を受けなければならず、効率が悪いこともあり、現在、国際的な調和の努力が行われている。

 国際食品小売業委員会(CIES) (3)の傘下にある世界食品安全イニシアティブ(GFSI : Global Food Safety Initiative)が現在これらの民間の食品安全基準の国際的な調和の努力を行っている機関である。GFSI2000年に設立され、その目的は、消費者に安全な食品を提供することによって信頼を確保する食品安全管理システムの改善を図ることであるが、そのための主な業務はベンチマーキング手法によって各種の食品安全基準の標準化(国際調和)を図り、特に小売業の基準を共通に認め合うことで食品のサプライチェーンのコストの効率化を推進することである。

                           

(3) CIES、国際食品小売業委員会Comité International d’Entreprises à Succursales    – International Committee of Food Retail Chains)

CIESは55年の歴史を持つ、世界の小売業界と食品業界の企業の情報及び意見交換の場である。小売業のメンバーの経営している店舗数は約20万であり、その販売額は1兆5000億ユーロとなり、会員食品製造企業の販売額は6400億ユーロとなる。CIES フード・ビジネス・フォーラム には、150カ国以上の400に及ぶ小売業者と製造業者の会員の経営幹部が参加する。CIESCFSI委員会が置かれている。本部はパリでワシントン、シンガポール、東京及び上海に支部がある

 2008年までにGFSIが認めた(recognized)した食品安全基準はBRC基準第4版、IFS基準第4版、SQF基準2000、オランダHACCPoption B及びニュ-ジーランドGAPである。

 2007年2月、ヨーロッパとアメリカの大手の小売業、カルフール、テスコ、メトロ、ミグロス、アフォールド、ウオールマート及びデルヘイズはGFSIがベンチマーク(認定)したBRCIFS、オランダHACCP及びSQFの4基準について共通のものとして承認することによってサプライチェーンにおける重複を減少させることに合意した。

 ウオールマートは、2007年2月にアメリカで販売される自社ブランド製品及びその他のいくつかの製品についてはBRCIFSSQFなどのGFSI基準によらなければならにことを決定し、試行期間の後2009年には本格的に適用することとした。また、生鮮食品の一部については後述するグローバルギャップを適用することとした。なお、イギリスではASDAが、日本では西友がPB商品についてGFSI基準を既に導入している。

5 意義と問題点

  以上の加工食品に関する認証制度は、HACCPの原則を基礎としている。EU指令及びEU規則においてすべての食品企業がHACCP原則に基づく生産が義務化されたが、生産の現場においてはHACCPの適用の程度はまちまちで、厳密に適用・実施されているのかという問題があったとされる。特にPB商品のシェアーの高い小売業は、自社ブランド製品の安全性について消費者の信頼を得るためには、政府が定めた規則や監査のみでは不十分であると判断し、民間企業が自ら上乗せの基準を定め、第3者の監査と認証を行って安全な生産を確実なものにする制度を発展させてきた。

 これらの基準は、HACCPの原則を基礎としているが、それに加え、原材料管理から製品販売に至るまでの高度の要求事項を詳しく定めている。また、トレーサビリティも要求事項の重要な要素となっている。このトレーサビリティでは工場の生産過程で原材料がどのように使われたかのトレースも必要としている基準もあり、EU規則によるトレーサビリティよりも厳格なものとなっている。ISO22002005年に発行されたが、これらの民間基準の内容はISO2200と類似している。したがって、ISO2200はこれらの民間基準を参考として作成されたということもできる。

 これらの基準の特色は、1社のみの基準ではなく、小売業が連合した共通基準であり、かつ、基準内用も公表で、さらに、第3者の認証を導入して、より透明性の高い客観的なものとしていることである。また、基準の実行を確実なものとするため、第3者による監査を重視している。また、EU内では貿易も頻繁で、単一市場制度の下では貿易障害を極力取り除くことになっているので国際的な調和の努力がなされており、国ごとの基準の相違は認めつつも、ベンチマーク方式による相互承認の努力がなされている。さらに、これらの基準は、EU域外からの輸入産品についても適用することができ、輸出国の工場製造管理にも要求事項を適用し、監査することが可能である。

 これらの基準がどの程度普及しているかについては正確に調査していないが、西欧の主要国では小売業のPBのシェアーは高く、また、これらの基準が一部の他の製品にも適用されていることから、かなり普及していると思われる。

 しかし、問題点としてはこのような基準を遵守していくためにはかなりの追加コストが必要であるが、追加コストを誰が負担するかという問題がある。欧米の流通業は取引上強い立場にあり、コスト負担は製造納入業者にしわ寄せされやすい。取引上の優越的地位の乱用にもなりかねない。さらに、輸出国の製造納入業者にとっても大きな負担になので、特に開発途上国では、貿易障害ではないかと問題にしている国もある。 

II 基準・認証制度による生鮮食品の安全確保

 グローバルギャップGlobal Good Agricultural Practices

 西ヨーロッパの大手小売業者の主導で野菜及び果実に関する認証制度が1997年に開始された。有機農産物以外は、品質証明制度がフランスやイタリア等を除いて十分整備されていなかったことなどをから、民間主導で、安全な食品の提供のほか持続可能な農業に基づく産品の提供を推進することを目的として形成された。制度設立の動機としては、BSE問題の発生以降、消費者の食品安全に関する関心は、生産・流通のプロセスの確認までに及んでいること、また、消費者の環境保護、動物福祉、景観維持などに関する関心も次第に高まっており、流通業としてもこれらの消費者の要求に応える産品を提供することが販売の促進につながると考えられたことである。

 制度の仕組みとしては、ヨーロッパ数カ国の大手流通業者とこれらの国及び輸出国の生産者からなる会員で安全で環境や動物福祉などにも配慮した農産物の生産の管理に関する基準を作成し、会員である生産者は、あらかじめ定められたグローバルギャップ基準に即して生産を行い、それを第3者機関が認証し、グローバルギャップの会員である流通業が買取り、販売する制度である。認証はグローバルギャップと契約した外部の認証機関が行い、監視も行う。認証された産品にはグローバルギャップのロゴマークを添付することとし、このロゴマークは商標として登録し保護される。しかし、消費者への販売の時点ではロゴマークは貼付してはならないことになっている。

 グローバルギャップは、青果物から始まったが、その後花卉やコーヒーを追加し、現在では畜産物や水産物のグローバルギャップも運営している。特に、青果物についてはイギリスやオランダの大手小売業はそのほとんどについてグローバルギャップ基準を適用しているといわれ、さらに、アフリカやアジアなどからの輸入産品についてもこの基準が適用されている。

 アメリカではこの基準が独占禁止法違反になるのではないかとの懸念があったことなどから、従来、アメリカの小売業はグローバルギャップには参加していなかったが、2007年にはウオールマートが自社の仕入れる生鮮食品の一部にこの基準を導入することを決定したので、今後グローバルギャップはアメリカでも次第に普及していくものと思われ、世界的な標準になっていく勢いとなっている。このようなことから、以前はユーレップギャップという名称であったが2007年からグローバルギャップに変更した。      

2 野菜及び果実に関するグローバルギャップ

 1997年イギリス、ドイツ、オランダなどのヨーロッパの大手小売企業の主導によって設立された。西ヨーロッパのほとんどの国の大手流通業者が参加しているが、現在フランス及びイタリアの小売業は参加していない。

 流通業の会員は、2005年末で、イギリス、ドイツ、スペイン、スイス、オランダ、アイルランド、ベルギー、ノルウェイ、フィンランド及びオーストリアの約30企業であるが、最近ではさらに10社ほどが新たに参加している。イギリス企業ではテスコ、ドイツではメトロ、スペインではエロスキなどが小売企業の会員である。

 野菜及び果実に関するグローバルギャップ基準は、2007から新しい規格が適用になっている。この規格は、食品の安全に関するHACCP原則に基づく基準、農業の環境に与える悪影響を最小限にする環境保護基準、労働者の安全及び福祉に関する健康及び安全基準、動物福祉に関する基準から構成されている。また、トレーサビリティも重視されている。

 認証機関は、ISO65EN45011によって認証された機関あるいはグローバルギャップが特別に認めた機関となっており、グローバルギャップの国際事務局であるEHIが設立したFoodPLUSが認証することになっている。

 西ヨーロッパ諸国のほかにブラジル、アルゼンチン、エジプト、オーストラリア、ニュージーランド、ギリシャなどの輸出国の機関もグローバルギャップの認証機関となっている(2005年末現在で約80機関)。

 グローバルギャップニュースレターによると、約40の小売業(08)がメンバーになっており、認証された農家及び団体は30,000以上(5)で、関連する農地面積は約1,000,000ha05年)になっている。輸出農産物を生産している日本の生産者も認定されている。栽培面積では、イギリス及びオランダが多く、次いで、スペイン、イスラエル、ベルギーに多い。

野菜及び果実グローバルギャップの加盟流通業

          資料: website of EurepGAP 2005

3 グローバルギャップの国際調整

 グローバルギャップは、西欧数カ国で作物ごとに統一された基準が採用されており、当初からかなりの程度国際調整された基準である。しかし、この基準をさらにその他の国にも普及させるため、ベンチマーク方式で他の国の基準も同等のものと認める制度を採用している。現在 農産物に適用されるアメリカのSQF1000との調整の努力が行われている。また、農産物のヨーロッパに対する輸出が多い国ではこのギャップ基準を満たしていないと輸出が不可能になる場合もあり、関心が高い。したがって、自国のギャップ基準をべンチマークマーク方式によって同等のものと認められるよう努力している国も多い。中国は2006年にグローバルギャップと協定を締結し、中国ギャップ基準をベンチマークする作業を開始した。また、日本でも日本GAP協会(4)が、中国にやや遅れてベンチマークのための協定をグローバルギャップと締結し作業をおこなってきており、2007年に青果物に関する第2.1版はグローバルギャップと同等と認められた。しかし、中国はまだ同等と認められたものはない模様である。

(4) 日本GAP協会(JGAP)
日本での民間によるギャップ基準普及のため2005年に設立。2006年からJGAP2.0を採用し、適用。同年EurepGAPとのベンチマーキング作業を開始、2007年青果物に関するJGAPが同等と認められる。2007年時点で認定農家100を超える。

4グローバルギャップの意義と問題点

(1)グローバルギャップの特色 

 アメリカ及び日本においてもギャップ基準が政府によって定められており、またコーデックスにおいて定められているが、これらは、農業者のための参考として作成されたもので強制力を伴っていない。しかし、グローバルギャップは、購入者である小売業がグローバル基準を適用していないと購入しないという意味で供給農業生産に対する強制力を伴っている。

 グローバルギャップは、政府の品質証明制度にたよらず、民間の主導によって、生産の過程における管理を通じて安全な農産物を確保しすることを基本としている。しかし、また、近年における消費者の環境に対する関心の高まりなどいわゆる社会的な価値観を農業・食品に求める消費者の要求が強まっており、環境配慮のほか、生物多様性の維持、動物福祉などに関する生産管理基準も同時に導入されているのが特色である。これは食品の社会的品質といわれている。

 また、グローバルギャップによる製品には、消費者への販売の時点においてロゴマーク表示することが禁止されており、差別化によって製品価格を高めるという方針はとられていない。これは、食品の安全を達成するのは、民間の事業者の基本的な義務であり、そのコストは内部化されるとの考えに基づいていると思われる。

 なお、グローバルギャップには、フランスやイタリアの小売業が積極的でなく、主としてイギリス、ドイツ、オランダなどのいわゆるアングロサクソン系の諸国の小売業が中心的な役割を果たしている。フランスやイタリアなどのラテン系のヨーロッパ諸国は100年にわたって原産地呼称やラベルルージュなどの公的品質証明制度を発展させてきており、国民の中にかなり普及している。グローバルギャップはこれらの公的品質証明制度と重複するからではないかと思われる。

(2)グローバルギャップの問題点

 グローバルギャップの大きな問題点は、基準遵守に伴う農業者の追加コストが産品の価格を通じてカバーされるのかということである。この場合、大手小売業の強力なバーゲニングパワーによって、しわ寄せが生産者(農業者)に行きやすいことと、さらにコストを負担できない小農に不利に働きはしないかという問題がある。ヨーロッパラテン系の国で発展してきた品質証明制度は消費者に価値を提案し、証明して、製品価格を高めるという原理(差別化)に立脚している。しかし、グローバルギャップは製品に付加価値をつけるという考え方をとっていないので、追加コストが流通業、生産者および輸出国間で公平に負担されうるのかという問題を抱えている。

 また、この制度は、輸出開発途上国に大きな影響を与えると考えられ、制度が普及していくと、輸出に際してグローバルギャップ基準が要求され、この基準を満たしていないと輸入を拒否されるおそれがある。開発途上国は、アメリカ、オーストラリアやニュージーランドなどの先進輸出国に比較し、技術的にも資金的にも劣っており、開発途上国にとって不利に作用しかねない。また、ギャップ制度を通じてヨーロッパ資本による開発途上国支配が強化される可能性もある。現に、ブラジル及びエジプトを含む開発途上国連合はこのような民間の基準は世界の貧しい人にとっての不公正な貿易障害であるとしてWTOに問題提起している。WTOはこれに対してWTOが取り扱う事項かどうかまだ明快な回答を示していないが、識者の間ではWTOSPS協定(衛生及び植物衛生措置の適用に関する協定)にはこのような民間基準も取り入れるべきではないかとの意見もある。

 しかし、開発途上国がギャップ基準を採用し、安全で良質な食品の生産ができるようになれば輸出の拡大も期待できる。従って、現在FAOは、開発途上国におけるギャップの普及に努めており、ギャップに関するシンポジウムの開催などによる啓発のほか、ブラジルとギャップ基準の作成を共同で行っているほか、14のラテンアメリカ諸国と共同の普及事業を実施している。

III 結論

欧米の小売業が主導している食品安全に関するグローバル基準は、政府が定め、実施している食品安全措置のみでは、消費者の十分な信頼を得ることができないとの認識に基づき、また、BSEの発生後、食品の安全を確認するためには、どのような生産が行われたのか生産過程のチェックが必要であるとの消費者の考え方が強まってきたことを背景として生まれてきた。

また、欧米では、安全な食品の確保は第一には事業者の責任であるとの考え方が法制度的としても社会的通念としても日本より徹底していることもとこのような食品安全に関する民間基準が発達してきた理由である。

さらに、ECが1985年の理事会決議により、安全などの基本的事項以外はEUの法制による加盟国間調整は行わず、民間の基準によることとし、そのためにISO等を奨励したこともこのような民間の基準が発展してきた大きな理由であろう (5)

日本でも事業者の食品安全確保の責任を果たすため、企業としての食品安全措置は実施されている。しかし、欧米の民間基準は、一企業単位でなく多くの企業が採用することができる共通の基準であり、また、国際的な調整もかなりの程度なされている。さらに、基準の内容は原則公表で内容の透明性は高くなっている。また、欧米の民間基準は、政府の規制を補完する基準の導入が可能であり、さらに、輸出国の企業にも適用できるという点で輸入食品のより高度な安全確保にも貢献できる制度でもある。

政府の規制を上回るかなり詳細な基準を遵守していくためには、追加的コストが必要であるが、これが生産から消費者への販売までの過程で関係業界がどのように負担すべきかという問題があり、取引上の交渉力の強い業界は弱い業界に追加コストをしわ寄せすることになりやすい。したがって、開発途上輸出国の一部はこのような基準は貿易障害であるとして問題にしている。

WTOSPS協定では、科学的な根拠を説明できない食品安全規制はとってはならないとされており、また、その他の規格・基準についはTBT協定が合意されているが、欧米の食品安全基準はWTO合意を超えた基準が適用されている面もあり、これらの基準が世界的に広く普及していくと、WTO合意の意味がうすれていくという問題もはらんでいる。

日本は、食料品を多く欧米に輸出していないのでかかる欧米の基準を導入する必要性は今のところ高くはない。ただ、このような基準が次第に世界標準のようになり、さらに、日本に進出した欧米の流通業が日本でも採用するようになると、日本にも普及していく可能性はある。

(5) 1985年のEC理事会決議の方針に基づき、1997年の食品法の一般原則に関するEU緑書では、食品の定義、構成等に関する品質基準は、EUの法制によらず民間主導で行われるべきとされている。

参考文献

-    OECD (2006). Working Party on Agricultural Policies and Markets, Private standard schemes and developing country access to global value chains: challenges and opportunities emerging from four case studies (AGR/CA/APM(2006)/20), Paris, 27 September 2006.

-   World Bank policy research working paper 3348 Jaffee.s and Henson S.J.(2004) Standards and Agri-food Exports from Developing Countries

-   Background Note by the UNCTAD secretariat for the FAO-UNCTAD Regional Workshop on Good Agricultural Practices in Eastern and Southern Africa: Practices and Policies, Nairobi, Kenya, 6-9 March 2007

-   Food Quality Certification Adding value to farm produce. Brussels, 5/6 February 2007.    COLEACP

-   European Food Law, O’rourke, Palladian Law Publishing, 1999 update

-   Wall street Journal, 11 March 2008

-   FAO

-   Web sites of BRC, FQS, IFS, GFSI,CIES and Globalgap

この資料は、(財)食品産業センター「明日の食品産業 2008年7,8月号」に掲載されたものである。

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