主な国のワイン法におけるブドウ濃縮果汁の取り扱いについて

                      高橋 梯二
1.EU

 EUのワインの定義は、次のようであり、ブドウ果汁を発酵させたものはワインとされ、新鮮なブドウとは別建てで原料となっている。しかし、濃縮果汁についての言及がないので、この定義では濃縮果汁の取り扱いはよくはわからない。 

ワインの定義 アネックスIV EUワイン規則479 /2008

ワインとは、もっぱら、破砕されたものかそうでないものかを問わず新鮮なブドウ又はブドウ果汁の完全なあるいは部分的な発酵によるものである。

さらに、EU規則における詳細を見てみると、次の表にあるように、新鮮なブドウ、ブドウ果汁、濃縮ブドウ果汁等ワインまで含めワインの原料となる品目のブドウ産品は第三国原産のものは使えないことになっている。つまり、輸入を禁止している。これはヨーロッパのワインの純粋性を保つことを目的としているのか、あるいは、原料として第三国からブドウ産品が入ってくることは、EUのワイン生産の抑制措置の有効性を減ずるという理由からとられている措置なのかはよくわからない。

規制 アネックスVI EUワイン規則479 /2008

A.一般的規定

1.製造上のすべての方法において、特別の技術上の理由がない限り水の添加は禁止される。

B.新鮮なブドウ、ブドウ果汁(mout)、ブドウジュース(jus)

5.EUが国際的な義務に従うために理事会が別に定める場合を除き、第三国を原産とする新鮮なブドウ、ブドウ果汁、部分発酵ブドウ果汁、濃縮ブドウ果汁、改良濃縮ブドウ果汁、発酵停止ブドウ果汁、ブドウジュース、濃縮ブドウジュース及びワインは、EU域内でアネックスIVに定めるブドウ産品(ワイン、ブドウ果汁、リカーワイン、発泡ワインなど17品目)に変換したり、加えたりしてはならない。

注:EUは、ブドウ果汁(窄汁)(mout)とブドウジュースを区別し、ブドウジュースはワイン製造上使用することが禁止になっている。また、アルコール発酵させることも禁止になっている。

この前提の上で、EUは、濃縮ブドウ果汁が使われる場合を定め、その使用基準を定めている。それによると、濃縮果汁は、補糖、発泡酒の場合のリキュール・ド・エクスベディションとして、またキュベの補糖及びワインの甘味化に使われる産品であることを定めている。ただ、濃縮ブドウ果汁の用途はこれに限るという規定はしていない。これら以外の用途で使用されているかどうかは、正確な情報を把握していない。

また、濃縮果汁を水で元に戻すような形でワインを造ることについては、EUの基本的技術基準として水とアルコール添加が禁止されているので、このようなワインは造ることができないと思われる。また、ブドウが豊富にあるヨーロッパではわざわざ濃縮果汁にしてワインを造る必要はないと思われる。したがって、水で薄めて発酵させるいわゆる濃縮果汁からのワインは生産されていないと思われる。

一定のワイン産地区域における補糖、加酸、除酸 アネックスV EUワイン規則479 /2008

B 補糖の実施

1.Aに定められた天然アルコール容量濃度の増加は次の方法のみによる。

a) 新鮮なブドウ、部分発酵ブドウ果汁、又は発酵途中新ワインについては、砂糖、濃縮果汁、又は改良濃縮ブドウ果汁の添加による。

b)  ブドウ果汁については、砂糖、濃縮ブドウ果汁又は改良濃縮ブドウ果汁の添加又は逆浸透法を含む部分濃縮による。

c)  ワインについては、冷却による部分濃縮による。

発泡酒についての許可された技術及び制限 アネックスII EUワイン規則479 /200

2.リキュール・ド・エクスペディションは次のものからあるいはその混合のみからなる。

砂糖、ブドウ果汁、部分発酵ブドウ果汁、ブドウ濃縮果汁、改良ブドウ濃縮果汁、ワイン

ワインの甘味化の制限及び条件 アネックスID EUワイン規則479 /2008

1.甘味化は次のものあるいはその複数によってのみなされる。

   ブドウ果汁、濃縮ブドウ果汁、改良ブドウ濃縮果汁

3.ブドウ果汁及び濃縮ブドウ果汁は、甘味化されるワインと同じ産地からのものでなければならない。

4.甘味化は、生産及び卸売の段階のみで許可される。 

:これ等の規則では、補糖効果によるワインのアルコール度の増加限度やワインの増量の限度等が定められているが、これ等は除いている。

また、干しブドウからのワインについては、規則上特別の規定はないが、ワインの定義からしても、また、水の添加が禁止になっていることからしてもワインとしては分類されていないと思われる。

2.アメリカ

アメリカでは次の表にあるようにワインの定義において、濃縮ブドウ果汁でワインを造ることができることが明示されている。さらに、技術基準において水を添加し、元の果汁の状態に戻して発酵させワインにすることの基準が定められている。さらに、これ等の基準では輸入濃縮果汁であってはならないという規制は見当たらない。

このことから、アメリカでは濃縮ブドウからワインを造ることは認められており、報道等からは輸入濃縮果汁からのワインも造られているという。ただ、どのくらいの量が造られているのか資料が見つかっていない。

なお、報道等によるとロシアやカナダも輸入濃縮果汁を使ってワインを造っている。

アメリカ      ワインの定義(第4.21条)連邦アルコール管理法規則 

(1)  ブドウワイン

  健全で熟したブドウの果汁(juice)(純粋な濃縮果汁(must)を含む)のアルコール発酵によるもので、発酵の後に純粋な濃縮ブドウ果汁を添加してもよい。また、ブドウによるブランデー又はアルコールを添加してもよいが、他のものの添加は許されない。

さらに、発酵の前、途中あるいは後に次の方法により改良(ameliorate)できる。

以下略

アメリカ  濃縮果汁及び非濃縮果汁の使用 (第24.180条)連邦アルコール管理法規則 

 水で元の濃度に、又はBrix 22度に、あるいは元の濃度と22度の間に戻された濃縮果汁(concentrated fruit juice)及び水で22度を下回らずに薄められた非濃縮果汁はワインの生産の目的に適合した果汁と認められる。水で薄めても22度を超えている濃縮果汁はさらに水を加えて元の濃度と22度の間にすることができる。生産者は、濃縮果汁を使用する前に、果汁の種類及び濃縮の前後の果汁の総乾物重量の証明(statement)を得なければならない。濃縮果汁はBrix80以上に濃縮されたものは使用できない。

なお、干しブドウからのものはワインといえるかどうかについては、連邦アルコール管理法の規則において、第6分類のその他の農産物ワインと定義されており、いわゆるブドウワインには属さない。清酒(sake)もこの分類に属する。

アメリカ  ワインの分類の基準(第4.21条)、連邦アルコール管理法規則

(f)第6分類(Class 6

 (4)「干しブドウワイン」は、乾燥ブドウから造られるこのクラスのワインである。


3.オーストラリア

 オーストラリアのワインの定義は次の表のようであり、やや分かりにくい面もあるが、濃縮果汁を含むブドウ果汁からのものもワインと認められていると思われる。この場合、濃縮果汁がどのように使われるべきかについて、EUやアメリカのような詳しい基準が見当たらない。

なお、干ブドウからのワインについても、オーストラリアはワインとして認められていると思われる。

 定義(オーストラリアワイン公社法第一部)

「ワイン」とは、新鮮なブドウ若しくは新鮮なブドウのみによってつくられる産品の完全なあるいは部分的な発酵によるアルコール飲料をいう。また、本法の目的のためワイン規則によって定められるブドウ産品を含む。

「ブドウ産品」とは、次のものをいう。

(a)     オーストラリアにおいて指定産品からつくられるワイン

(b)     オーストラリアにおいて上記ワインから蒸留されるブランデー

(c)     オーストラリアにおいて指定産品からつくられるグレープスピリッツであって、酒酒精強化ワイン又はブランデーの製造に適するもの

(d)   ワイン法の目的のためブドウ産品に関する規則に定められた産品

「指定産品」とは、次のものをいう。

(a)       新鮮なブドウ

(b)       乾燥ブドウ

(c)       ブドウ果汁(juice)(濃縮されたものを含む)

4.ワインに関する貿易協定

 EUは、ワインに関する貿易協定を主なワイン生産国と個別に締結しており、アメリカとオーストラリアとの協定においてワイン製造上の技術基準については、法律に基づくものは、衛生基準を除き相互承認をしている。したがって、濃縮ブドウ果汁で造るこれ等の国のワインをEUは認めている(EUへの輸出も可能と思われる)。協定を締結している南アフリカ、チリ、カナダ等も同様であると思われる。

                   高橋 梯二

          東京大学農学生命科学研究科非常勤講師