食品の原産国表示の意義と国際貿易上の問題点

                        

髙橋 梯二

この資料は、平成22年10月「フリシス情報」食品関連産業国際標準化システム・食品トレーサビリティ協議会に掲載されたものである。                   

はじめに

 食品に対して原産国表示を義務付けることは、最近、日本をはじめいくつかの国で採用されてきている。原産国表示の目的は、食品の安全の確保と消費者の選択の拡大が目的とされるが、消費者が原産国を知ることにどのような意義があるのか誰もが納得できるような説明があるわけでもない。かえって、輸入制限効果があるので貿易障害になるのではないかとの意見もある。

 しかし、世界の多くの消費者は、食品に対する原産国表示を要求し、支持している。これはBSE発生後、消費者が高度な食品安全措置を要求するようになり、科学的な根拠による措置のみでなく、消費者が安心あるいは信頼できる措置の重要性が高まってきていることと、消費者の知る権利に対する認識が高まってきたことになどに由来するのであろう。

しかし、原産国表示はその裏に輸入を抑制しようとする意図があるので貿易障害となり、WTOのTBT協定等に違反するのではないかと主張する国もある。しかし、世界の傾向は徐々に原産国表示義務を導入する国が増えてきている。ちなみにEUでは、2010年5月、欧州議会で食品品質政策の見直しに関するスコッタ報告が採択され、原産国表示の導入が提言されている。一方、カナダとメキシコがアメリカの原産国表示は、TBT協定、SPS協定、原産地規則等に違反するとWTOに申し入れをし、2010年5月パネルの設置が決定されている。

原産国表示は、現在、以上のように世界的に議論が白熱する兆しがあり、本稿では、原産国表示の各国の導入状況、その現代的な意義、貿易阻害効果と国際協定との関係、原産国表示の問題点等を分析し、今後、原産国表示についてどのような議論が展開されていくか考察してみたい。

1 原産国表示についての各国の動向

国際的に取引される産品に原産国あるいは原産地を表示することは古くから行われていた。この場合は原産国等を表示することによって優良産品であることを印象付けることが主な目的であった。したがって、原産国や原産地を偽って表示するいわゆる偽装表示が生じるようになり、これに対して国際条約としては1883年のパリ条約及び1891年のマドリッド条約(1)が締結され、各国においては、不正競争防止法などにより不正の防止が図られてきた。知的所有権としての地理的表示制度もこの延長線上にある。

 しかし、近年、食品の安全などにも関連し、消費者の商品選択に当たって情報を提供することを主な目的とする食品の原産国表示を義務とする制度がいくつかの国で導入されるようになり、今後、さらに導入する国が拡大すると予想される。

(1) 日本

日本は、1990年代後半から、野菜の輸入が増加し、野菜生産者は原産国表示をすれば特に低価格の野菜輸入を抑制できるのでなないかと期待し、政府に対して原産国表示を導入するよう要請した。これを受け、政府は1996年にしょうが、にんにく、さといも、ブロッコリ, しいたけにつて原産国表示を義務付けた。また、1998年には対象品目をさらに4品目追加した。

一方、輸入食品の品質や安全性に不安を感じていた消費者は原産国表示を支持し、対象品目の拡大を要求するようになった。政府は、2000年に全生鮮食品(農産物、水産物)について原産国表示を義務付けることとし、生鮮食品品質表示基準を策定した(2)。これにより、国産品については原産地の県名(産地名も可)を、外国産については原産国名を表示することになった。

その後、加工食品についても国産であっても原料の多くの部分を輸入に依存している食品があるのでこのような場合について原料の原産国表示を義務付けるべきではないかとの消費者の意見が強くなった。政府は、このような事情から2002年に4品目の加工食品について原料原産国の表示を義務付け、さらに、2004年に加工食品品質表示基準(3)を改正し、20の食品群の加工食品について義務付けた。その後若干の改正が行われ,

品目が追加されているが、消費者にはさらなる対象加工食品の追加の意見が強く、現在、検討が行われている。

なお、米(コメ)については、政府が非食用用途として売り渡した輸入汚染米が食用として流通していた事実が2008年秋に発覚し、政府は、食品の安全と消費者の信頼を確保する観点から、コメ及びその加工品についてトレーサビリティと原産国表示を義務付ける法律(コメトレーサビリティ法)を翌年制定した(4)。原産国表示義務は2011年7月1日に施行になる。原産国表示の対象米穀等は、コメのほか米粉、ミール、弁当、おにぎり、米飯、包装米飯、もち、だんご、米菓、清酒、焼酎、みりん等かなり広範囲の品目である。消費者に対する原産国表示をしなければならないのは、小売業者、レストラン等であり、コメ、及び原料としてのコメが国産の場合は国産であることか国内の産地名を、外国産については原産の国名を表示しなければならない。このように主食のコメについてはJAS法による義務よりも厳格な原産国表示義務が課されることとなった。

(2)韓国

韓国では、1991年の対外貿易法によって、公正な取引の秩序と生産者及び消費者の保護のため、農産物・食品を含む指定輸入産品及び輸出産品について原産国表示を義務付けている(農産物・食品についてはHS分類4桁のコードで約170品目)。この制度は、原産国についての虚偽表示などの不公正取引の防止が主な目的であると思われる。したがって、原産国の判定基準と手続きが詳しく定められている。また、1994年から農産物品質管理法など(5)により、国内で流通する食品の原産国表示の規則が定められ、加工食品の原料の原産国表示の基準も定められた。これらの法令により、輸入食品及び国産食品の原産国表示と国内で加工される一定の食品の原料の原産国表示が義務となっている。現在、211の国内加工食品について50%以上を占める主要原料あるいは50%以上のものがない場合は上位二つの原料の原産国表示が義務付けられている(6)

(2)アメリカ

アメリカでは食品の原産国についての消費者への情報提供を行い、消費者の選択の幅を広げるため、2002年農業法(2002年農業保障・農村投資法)(7)において牛肉、羊肉(lamb)、豚肉、魚、生鮮食料品(野菜及び果実)及び落花生について小売段階での原産国表示を義務付けた。また、この表示の信頼性を確保するため、直接であれ間接であれ小売業者に表示義務対象産品を供給する者は、その取引における直近の出入に関する記録を行い、また、原産国について供給先に通知することも義務付けられた。さらに、農務省に対してこれらの記録を必要に応じて閲覧できる権限を付与した。

この規則は、事業者に大きな負担を強いる制度でもあるので、異論も多く、魚及び貝類については2004年9月から実施されたが、全対象品目について実施されたのは2008年9月であり(8)、最終規則ができたのは2009年1月であった。また、2008年農業法(2008年食料・保全・エネルギー法)(9)では、原産国表示義務の対象産品を拡大し、鶏肉、山羊肉、朝鮮人参、ペカンの実及びマカダミアナッツが追加された。また、現在乳製品を対象に追加することが検討されているといわれている。

加工食品の原料原産地表示については、アメリカでは、表示義務対象農産物であっても加工食品の原料になっていれば表示義務がないこととされている。加工とは物理的あるいは化学的変化がある場合で、たとえば調理されたもの、スモークされた場合などであり、また他の対象産品と混合されている場合あるいはトマトソースなど他の主要な材料が加えられている場合などと規定されている。したがって、この加工の定義に当たらない対象産品は原産国表示が必要となる。日本のように対象加工食品があらかじめ明示的に決められておらず、以上のような加工の定義に照らして表示義務があるのかないのかが決められる制度となっている。

(3)オーストラリア

 オーストラリアでは、2006年の「オーストラリア・ニュージーランド食品規格基準(10)の改正によって、原産国表示が導入された。ただし、オーストラリアのみに適用され、ニュージーランドには適用にならない。

表示の対象は、すべての容器包装入り食品(packaged food)及び容器包装に入っていない一部の食品(魚及びその加工品、豚肉及びその加工品の一部及び野菜・果実及びそれらの加工品の一部)並びにプラスチックあるいはメッシュの包装など中身が見える包装に入った生鮮及びカット野菜・果実である。

表示すべき事項は、容器包装入り食品については、生産・製造された地域名又は小売用に生産され、又は包装された国の名前、また、その原料がその国に輸入されたものであればその事実である。したがって、国産品にあっては、国内の産地名でもよく、国産であることのみの表示でもよいが、原料に輸入品がある場合は輸入原料使用であることを示さなければならない。また、輸入産品については、生産・製造地域を特定する表示又は輸出国名でもよいが、原料がその輸出国以外からのものがある場合もその旨を表示しなければならないと解釈される。 容器包装に入っていない魚、豚肉、野菜・果実及びそれらの一部加工食品並びに中身が見える容器包装に入った野菜・果実については、原産国の名前又は輸入産品と混合されている場合はその事実を表示しなければならない。

(4)EU

EU委員会は、2008年10月食品の品質政策の見直しを検討に関する緑書(Livre vert, COM(2008)641 final)を取りまとめた後、関係方面から広く意見を求め、2009年5月に、食品の品質政策に関するヨーロッパ議会等に対する報告書(Communication, COM(2009)1234final)をまとめた。これに基づきヨーロッパ議会は、2010年3月イタリアからの議員であるスコッタ(Giancarlo Scotta)報告書を採択し、EU委員会に対して見直しの方向を示した(11)

この報告書で原産国表示については、トレーサビリティの確保及び消費者の選択の観点から、生鮮食品についての原産地表示及び加工食品についてその原料の原産地表示を導入することが適当であるとし、この場合、食品産業経営体、特に、中小の経営体の負担を軽くする観点から加工食品については主要な原料(たとえば乾物重量で50%以上のもの)の原産地あるいは産品の名称の由来となっている特徴ある原料の原産地のみに表示を限定することも検討すべきであると提言されている。

2 原産国表示の現代的な意義

以上のようにいくつかの国で原産国表示制度が導入されてきているが、その目的は何かということである。各国の法令においてはその目的が必ずしも言及されておらず、政府による説明等がなされているのみである。日本ではJAS法では原産地表示について規則を定めることができると規定されているのみで、2010年の政府の表示に関する共同会議で、原産地表示は消費者の商品選択に資することはもとより消費者と事業者の良好な信頼関係の構築に結びつくと説明されている(12)。また、アメリカの農務長官が2009年に発した業界への書簡では、食品の原産地についての追加的な情報を消費者に提供し、生産者にとっては自分の産品を差別化するのに資するとしている(13)

確かに、原産国を表示と食品の安全確保との関係は間接的で漠然としたものである。したがって、原産国表示の中心的な目的は消費者が商品を選択するに当たっての情報の提供であろう。この場合、原産地の情報が消費者にとってどれほど必要かということである。日本やアメリカなどの各国の調査によれば消費者の80%以上は原産国表示を望んでいるという結果が出ている(14)。これは、特にBSE問題以降、食品の安全と品質確保にとって消費者の信頼を得ることが重要になってきたことを背景としている。消費者は食品に対して安心感(信頼)を得るためには、科学的原則に基づく食品安全措置のみでなく産地や生産方法(どのように作られているのか)なども知る必要があるとの考え方を強めてきている。マリオン・ネスルはその著書において「食品は自分の体内に入れるものだけに、相性やアイデンティティを問いたくなるし、食べ物の素姓を知らないと不安も覚える」(15)と述べている。食品行政としても最近、消費者の知る権利を重視し、このような消費者の要求に対して対応するようになってきている(16)。たとえば、遺伝子組み換え食品の表示義務にしてもリスク評価によって安全でない商品が市場に出回るはずはないので、遺伝子組み換えであることの表示は食品安全にとって意味がないということになるが、多くの消費者は表示を望み、行政も表示を義務化し、消費者の安心感を確保している国が多い。原産国表示もこのような消費者の知る権利の尊重の流れの中でその意義を見出すことができるであろう。

3 原産国表示の貿易阻害効果

原産国表示を義務づけることは、一面では、貿易を阻害する効果を持つことがある。この効果の一つとして、国産品一般と外国産品一般との比較における貿易阻害要因がある。おおおよその国、特に先進国において食品については国産品の方が外国産品より品質がよく、より安全であると国民が信じているという事実に由来する。また、国産品を愛用すべきという愛国主義的な思想もある。たとえば、カナダの2003年の報告書では、原産国表示は国産品の方が良質であると国民が信じているという仮定で導入されていると指摘している(17)。日本においても食品については国産品信仰には根強いものがある。したがって、消費者は、一般に国産品を選好することになるので、この意味で原産国表示は貿易阻害要因となる。もう一つの効果は、特定の国あるいは、特定の国の特定の産品に対する貿易阻害効果である。たとえば、ある国である食品について許可されていない薬品などが使用され、輸出されていたという事実が判明すると、さらには、それによって健康被害が生じたとなると、消費者は予防的な目的でその国のその産品を購入しなくなる。また、このような事態が重なり、その国は一般に衛生管理がしっかりしていないとなると消費者はその国からの産品の購入を控えるようになる。

食品の原産国義務表示の最初の導入は、食品安全に関連して、以上のような輸入抑制効果に着目したことが契機となっている。特に、1990年代に中国からの野菜輸入の増大に悩んでいた日本の農業生産者は、日本の消費者が中国産品は低価格ではあるものの安全性に疑問を抱いていたことから、原産国表示を義務付ければ輸入が減少すると期待してその導入を政府に強く要求した。一方、食品安全に関する関心が高くなり、また、輸入食品の安全確保に関する政府のそれまでの対応に不安を感じていた消費者は、食品の原産国表示を支持した。

3 原産国表示の国際協定との関係

原産地表示は、このような貿易阻害効果を持つので、自由貿易の観点から国際協定に反する制度とみなされるのか、そうでないのか、国際協定との関係を考察してみなければならない。最も関係する国際協定は1994年にウルグアイラウンドの付属書として採択されたWTOの「貿易の技術的障害に関する協定(TBT協定)」である。

本協定第2条2・2によると、政府の強制規格は貿易に対する不必要な障害をもたらすことを目的として、また、これらをもたらすような結果となるように制定されないようにしなければならないとある。また、強制規格は正当な目的を達成するうえで必要である以上に貿易制限的であってはならないとあり、正当な目的として列挙されている中に「人の健康の保護」や「欺瞞的な行為の防止」などが挙げられている(18)

この場合問題となるのは、原産地表示の目的が正当といえるかどうかということと、不必要に貿易制限的かどうかの2点であろう。正当な目的に関しては、原産国表示の目的が必ずしも食品安全の確保というわけでもなく、原産国を知ることにどのような目的と効果があるのか必ずしも明確ではないが、先に述べたような消費者への情報の提供の意義はある。

この場合注意しなければならないのは、TBT協定では「正当な目的」を掲げていることである。SPS協定(19)においては「正当な」という用語は見当たらない。それは、食品安全措置は科学的根拠のみに基づくものでなければならないからである。したがって、食品安全措置をとるに当たっても社会的な事情、消費者の懸念、文化的・歴史的な要素などいわゆる「リスク評価以外のその他の正当な要素」の考慮は、SPS協定上は事実上排除されている、あるいは不明確と解釈される。(20)。 しかし、TBT協定においては、「正当な目的」が明示され、正当な目的が「特に」ということで例示されている。この例示は限定的に解釈されるものではなく、先に述べているような原産国表示の目的である消費者の関心への配慮あるいは消費者の利益の確保は、TBT協定で最初のWTO係争となったイワシ缶詰事件でパネル報告が示しているように(21)、この正当な目的の中に入ると解釈することができよう。

また、不必要に制限的かという点については、原産国の表示を行うことは、費用がかかりすぎて、あるいは技術的に困難で事実上輸出や輸入ができなくなるということはなく、また、それ以外のより制限的でない代替措置があるわけでもないので、それ自体は、不必要に貿易制限的とはいえないであろう。たとえば、トレーサビリティを外国産品に要求した場合は、それを導入していない国からの輸入は事実上不可能となり貿易制限的となる恐れはあるが、原産国表示にはこのような効果はない。また、原産国表示は、確かに結果として貿易制限になることはあるが、通常の取引においても各種の関連情報をもとに商品の品質や安全を判断し購入するかどうかを決めているのであり、原産国を情報として提供することが一概に不必要に貿易制限的とするのは疑問であろう。

ただ、原産国表示がTBT協定で言う「正当な目的」に当たるのか、また「不必要に貿易制限的」であるかどうかについては、国際的な判断はまだなされていない。2001年から03年までコーデックスの食品表示部会でイギリス等の提案をもとに原産国表示について議論された(22)。議論の過程で、原産国表示の必要性についての疑問が参加国からなされたことと、TBT協定に違反するのではないかとの懸念が表明され、参加国のコンセンサスは得られず、2003年の食品表示部会においてこれ以上の検討は行わないとの決定がなされている。 なお、TBT協定では第2条2.5において、自国の制度が関連する国際規格に適合している場合は、国際貿易に対する不必要な障害をもたらさないとの推定を行うと定められているが、このような国際協定はまだ成立していない。

WTOの場においては、アメリカの原産国表示(USCOOL)に対して、メキシコとカナダがWTOのTBT委員会でその貿易制限効果について懸念を表明していた。2008年末にはアメリカとの協議を申し入れ、さらに、パネル設置要求に発展し、2010年5月にパネルの設立が決定された(DS384DS386)。さらに、WTOは、2010年9月16日にパネルでの議論をオープンで開始することとしている。カナダ及びメキシコはアメリカの原産国表示制度(US COOL)は、いくつかの品目に関してSPS協定第5,第7及び第2条並びにTBT協定第2条、原産地規則第2条等に合致していないと申し入れている。第3国としてパネルに参加するのは中国、EU、韓国、オーストラリア等である。

4 原産国表示の信頼性の確保

 小売の段階での原産国表示の信頼性を確保するために、流通段階でのトレーサビリティを義務付けるかどうかという問題がある。アメリカでは、原産国表示対象産品について輸入段階から小売段階までのトレーサビリティ(取引の記録と売り渡し先に対する原産国の伝達)が原産国表示制度に組み込まれていた。 日本においては、制度導入当時はトレーサビリティの義務はなかった。しかし、その後、加工食品原料取引における偽装問題が発生したことから、業者間取引においても、業務用加工食品についてはその名称、原材料名など、原産国表示対象産品については原産国名の表示(伝達)義務が導入され、また、業務用生鮮食品についてはその名称と原産地/国の表示が義務付けられ、両者ともJAS法の体系の下で2008年4月から施行となった。これにより、日本でも原産国表示についてのトレーサビリティはほぼ成立している。また、コメについてはトレーサビリティと原産国表示が一体となった法制度である。このように、原産国表示の信頼性を高め、また、問題が発生した時の原因究明を容易にするための措置が手当てされるべきであろう。

5 原産国表示の技術上の問題点

原産国表示は、いくつかの技術上の問題を抱えている。その一つは加工食品の原料の原産国表示である。生鮮食品と異なり、すべての加工食品についてこれを適用するのは、技術的な面、コストの面からみて不可能とも思われるので、原料の原産地を表示すべき加工食品は各国の制度において何らかの制限が設けられている。日本や韓国では対象となる加工食品を定め、限定している。アメリカでは、原産国表示対象農水産物に一定の加工を加えたものは対象から除くという方式がとられている。日本のコメの原産国表示もアメリカ方式に近いといえる。それはコメに着目し、加工により原料となったとしてもどこまでコメの原産国表示を義務づけるかという方式であるからである。日本や韓国の方式は表示義務となる加工食品は明確であるが、農水産物のうち加工段階になると全く対象とならないものが出てくる可能性がある。また、アメリカ方式では原理としてこのような漏れはないが、どのような加工食品が対象になるのかあらかじめ明確になっていないという問題がある。 いずれにしても、原産国表示制度を採用したその国の実情に応じて原料の原産国表示の対象となる加工食品はさまざまであり、表Iにみられるように一様でない。

加工食品の原料の場合、途中段階での輸入などにより原産地を特定することが困難な場合もあり、また、果汁や食用油のように品目によっては原料原産国が頻繁にかわる場合もある。したがって、対象の加工食品を拡大していくと、生産者側に過大な負担がかかるということの問題のほか、生産者側が負担の増大、あるいは不正確な表示を恐れるなどしてそのような原料の輸入を行わなくなるという効果を生じる。また、輸出国の事業者に原産地の把握などについて過大な負担をかけ事実上輸出を制限するなどの効果も生じる恐れがある。このような貿易制限効果は、TBT協定でいう「不必要に貿易制限的」と解釈される恐れもある。かかる事態を回避するため、「輸入」などの大括り表示でもよいなど原産地の特定を行わない、あるいはあいまいな表示を許す緩和措置で対応すると、原産国表示の本来の意味がなくなる可能性もある。

なお、原産地表示にはコストの問題もある。加工食品の原料原産国表示との関係では、表示することに過大なコストがかかる産品については、表示を義務付けると、その産品を生産している者にとって競争上不利となる恐れはある。食品は互いに競合しているからである。このような視点からのコスト分析は必要であろう。

日本では、食品の表示に関する共同会議で以上のような点も考慮し、対象加工食品の拡大の検討が行われているが、なお、結論は得られていない。

           加工食品の原料の原産国表示

基本的考え方

表示の対象となる原材料

対象加工食品例示

日本

加工度が比較的低い指定された20品目群及び4品目の原材料を対象

 

コメ加工品、清酒等米を使用している指定された産品の米を対象

指定された加工食品の原料のうち50%以上の原材料の原産国を表示

 

 


指定されたコメ加工品のコメについて原産国表示

乾燥、塩蔵、冷凍の野菜・果実、漬物、複合カット野菜・果実、こんにゃく、加工落花生、簡単な調味食肉、塩魚、干魚、簡単な調理の魚、ウナギ加工品、緑茶、緑茶飲料、

 もち、弁当、おにぎり、米菓、清酒など

韓国

指定された211品目の原材料を対象

 

指定された加工食品の原料のうち50%以上のもの、50%以上にならない場合は上位二つの原料の原産国を表示、

原産国が頻繁に変わるもの等は「輸入」などの大くくり表示を認める。

パン類、スナック菓子、チョコレート、乳加工品、食肉製品、果実缶詰・瓶詰、食用油、飲料、麺類、調味料、キムチ製品、弁当類、穀類・野菜・果実、豆類。畜産物などの単純加工食品

米国

表示義務対象産品で加工食品の原材料となったものは表示義務から外れる。

 

加工食品の定義に当てはまらない対象農産物原材料について原産国表示

加工食品の定義

・特定の加工によって対象農産物の性質が変化したものは加工食品

・対象農産物に他の農産物が混合され、対象農産物の性質が変化しているものは加工食品

・対象農産物に他の対象農産物あるいは相当量の対象外の農産物が混合されているものは加工食品

特定の加工とは、

揚ること、焼くこと、ボイル、ベーキング、ローストすること、乾燥、塩づけ、砂糖漬け、燻製 などである。

表示の対象とならない食品の例示は

 

ミトローフ、炒った落花生、パン粉をまぶした鶏肉、パン粉をまぶした魚の切り身、調理され燻製された肉、コーンビーフ、塩蔵のハム・ソーセージ、複数のメロン類が入ったフルーツカップ、複数種類の野菜ミックス

 

 

豪州

魚、豚肉、野菜、果実の一定の加工品のうち、容器包装に入っていない加工産品を対象

次の加工食品(原材料になっている場合も含む)について原産国表示

1)調理、燻製、乾燥、酢漬け、他の食品をまぶすこと以外の加工を施された魚

2)乾燥、燻製、調味料(酢など)漬け、又はそれ以外の方法で保存された豚肉

ただし、表示対象となっていない食品と混合である場合は除く。

3)保存、酢づけ、調理、冷凍又は乾燥された果物・野菜

ただし、表示対象となっていない食品と混合である場合は除く

4)透明の容器包装に入った果物・野菜

同左

 加工食品品質基準、コメのトレーサビリティ法施行令、第41回食品の表示に関する共同会議21年2月10日 資料3:韓国の食品表示の概要, Final rule January 15 2009 7CFR parts 60 and 65Interim Final Rule August 1 2008 7CFR 65, The Australia New Zealand Food Standards Code ,Standard 1.2.11 Country of Origin Requirementsより作成

 第2の問題は、原産国の確定の問題であろう。

穀物、野菜、果実などの農産物について原産国の特定で問題になることはあまりないが、牛肉、豚肉,羊肉など大型家畜の食肉と養殖の魚の原産国の特定である。日本では家畜の場合、飼育した期間の長さに応じた原産国の決定方式をとっている。一方、アメリカは、原則としてアメリカのみで生まれ、飼育され、と殺された動物からの肉でなければ国産とせず、養殖の魚及び貝類についても、アメリカのみで孵化され、養育され、収穫され、加工されたものでなければならないとしている(23)。表IIのように、原産国表示における原産国の決定方式も国によりかなり異なっている。原産国の決定方法については、各国により、また国内の産業によっても異なっているのが現状である。1994年採択されたWTO原産地規則に従って、国際調和の努力が行われているが、2010年3月時点でまだ半分の作業しか終わっていないとされる(24 )

このように原産国の決め方は、まだ、統一したルールがあるわけでもないだけに、決め方いかんによっては貿易障害として輸出国からクレームが出る可能性がある。現にアメリカの原産国表示制度についてその内容はまだよくわからないがパネルの設置に関してカナダからWTO原産地規則第2条に合致していないとの申し出がなされている。


表II       家畜についての原産国の決め方

日本

国内における飼養期間が外国における飼養期間より短い場合はその外国の国名を表示すること、その場合飼養された外国が二つ以上ある時は飼養期間が最も長い国の国名を表示すること

アメリカ

・アメリカで生まれ、飼育され、屠殺された家畜からの肉でなければ「アメリカ産」と表示してはならない

・アメリカで直ちに屠殺する目的でX国から輸入された家畜の肉については、「X国及びアメリカ産」としなければならない。

・X国で生まれ、アメリカで飼育され、屠殺された家畜からの肉は、「アメリカ及びX国産」としなければならない。

韓国

・牛 当該国で6カ月以上飼育された場合その国を原産国とする。

・豚 当該国で2カ月以上飼育された場合当該国を原産国とする。

・その他の家畜 当該国で1カ月以上飼育された場合当該国を原産国とする。

  生鮮食品品質表示基準韓国対外貿易法施行令Final rule January 15 2009 7CFR parts 60 and 65より作成

おわりに

 以上、食品の原産国義務表示について各国の制度の内容を概観し、国際貿易上の問題点等を分析してきた。原産国表示制度は、韓国とともに日本がいち早く制度化し、その後、アメリカ、オーストラリア等が導入した。最近では、EUも導入に積極的になっている。日本が導入し始めたころは、原産国表示制度にどのような目的と効果があるのか分かりにくかったこともあり、限定された国の独自の制度とみられていたが、今では、比較的多くの国が採用する世界標準になりつつある。

 この制度は、一面で貿易制限的効果を持つので、多くの国が導入すると、農産物輸出国を中心に自由貿易の観点から問題視する国も出てきている。2010年にはWTO提訴までに発展している。このような新たな情勢の中で、日本としては、制度の充実を図っていく場合、国際貿易との関連を今まで以上に考慮していかなければならないであろう。たとえば加工食品原料原産地表示についても、行き過ぎると貿易制限となる恐れもあり、あるいは、表示が不正確になるという可能性もある。制度そのものはその必要性は否定されないと思われるが、運用いかんによっては不必要な貿易制限とされる恐れもある。これとの関連でWTOのパネルの議論は、今後の原産国表示制度の在り方に決定的な影響を及ぼすと考えられ、注意深く見守っていかなければならない。また、コーデックスでの検討も再開されるかもしれない。本稿で述べた国際貿易に関する問題点は私見であり、WTOでの紛争処理機関によってこれらの点についての正式な見解が示されるはずである。

いずれにしても原産地表示制度をいち早く導入した日本としては、今後は、日本国内の消費者、事業者及び農業者の利益の調整のみの問題としてではなく、国際調和を含め、グローバルな視点からどのようにしていくべきかの検討も重要になっていくと思われる。

                                 



(1)  工業所有権の保護に関するパリ条約1883

虚偽の又は誤認を生じさせる原産地表示の防止に関するマドリッド協定 1891

(2)生鮮食品品質表示基準(平成12年農林水産省告示514号)

(3)加工食品品質表示基準(平成12年農林水産省告示513号)
(4)米穀等の取引等に係る情報の記録及び産地情報の伝達に関する法律(平    成21年法律第26号)
(5)農産物および農産物加工品の場合、農産物品質管理法第15条(原産地の表示)
    水産物および水産物加工品の場合、水産物品質管理法第10条(原産地の表示)
(6)第41回食品の表示に関する共同会議21年2月10日 資料3:韓国   の食品表示の概要
(7)Farm security and Rural Investment Act of 2002
(8)Interim Final Rule August 1  2008 7CFR 65, Final rule January 15 2009 7CFR parts 60      and 65
(9)Food Conservation and Energy Act of 2008
(10)The Australia New Zealand Food Standards Code Standard 1.2.11 Country of  
     Origin Requirements

(11)Proposition de résolution du Parlement européen, Commission de l’    agriculture et du développement rural, Rapporteur : Député Giancarlo     Scotta, 2009/2105(INI)
(12)第45回食品の表示に関する共同会議2009年8月28日
(13)Secretary Vilsack’s Letter to Industry, February 20, 2009
(14)米国農務省の原産地表示の最終規則Interim Final Rule on Mandatory  
     Country of Origin Labeling AMS
LS070081September 30, 2008に対する消    費者連合のコメントに次のように報告されている。

「2007年6月に実施された消費者連合の1000人以上を対象とした調査では92%以上の人が輸入食品について原産国表示をすべきとしている。また、2007年3月に「食品及び水監視」が実施した調査でも82%がUS COOLに賛成している。また、同年7月Zogbyが実施した4,500人に対する調査では、88%の人が小売食品につて原産国表示をすべきとしている。より重要なのは、94%の消費者が購入する食品の原産国を知る権利があるとしているとしている。」

 日本では、「加工食品の表示」に関する消費者調査 20年10月 農林  水産省」で加工食品の原料についても産地表示すべきとの回答が81%で  あった」と報告されている。

(15)Safe Food-Bacteria, Biotechnology, and BioterrorismMarion Nestle 2003,  
    University of California Press Berkley
「食の安全」マリオン・ネッスル 久保    田裕子、広瀬珠子訳、2009年 岩波書店
(16)La sécurité et la qualité des denrées alimentaires, Etude comparée,    Japon, -UE-Etats-Unis Teiji Takahashi, Thèse , Université  de  
   Toulouse, 08

(17)
Jill E. Hobbsは、2003月モントリオールで開催された ワーク    ショップ Policy Dispute Information Consortium 9th Agricultural and Food      Policy Information Workshopで次のように述べている。

「生産者グループは食品の原産国表示の導入についてロビー活動を行ってきた。このロビー活動は国内の消費者が品質や安全という点であるいは国内産業を支持するという観点から国産の食品を好むであろうとの仮定に基づいている。」

(18)TBT協定第2条2・2

「正当な目的とは、特に、国家の安全保障上の必要、詐欺的な行為の防止及び人の健康若しくは安全の保護、動物若しくは植物の生命若しくは健康の保護又は環境の保全をいう。」

(19)衛生植物検疫措置の適用に関する協定(SPS協定)1994
(20)「正当な要素」の考慮に関連しては、EUの「食品法の一般原則を定   める規則(N0 178/2002)」では、第6条第3項において、リスク管理措置につ   いて正当性を持つその他(リスク評価以外)の要素を考慮できると規定され   ているが、SPS協定では、リスク評価及びリスク管理措置をとる場合   において「正当な要素」の考慮には言及していない。しかし、SPS協   定の解釈として、保護の水準を決定するのは加盟国の自律的な判断であ   るとされている。したがって、山下一仁氏及び藤岡典夫氏の著書(「食   の安全と貿易」日本評論社、「食品安全性をめぐるWTO通商紛争」2   007年、農文協)において消費者の懸念なども当然考慮されうるとし   ている。しかし、この考慮は、リスク評価において示されたリスクの程   度をどの水準にとどめるか(保護の水準)を決めるに当たって、国民の   懸念などを考慮して決めることができることと解釈される。したがって   、SPS協定上は、食品安全措置の決定に当たり、リスク評価に基づけ   ない非科学的要素であるその他の正当な要素がどのように考慮され得る   のか必ずしも明確でないといえる。

(21)ECの鰯表示に関するWTO上級委員会報告(WT/DS231/AB/R, 2002年1   0月23日採択)では、「正当な目的」はTBT協定第2・2条を参考   に解釈されるべきであるが、これに列挙されているものに限定されるわ   けではないとした(パラ 285-286)。

(22)REPORT OF THE THIRTY-EIGHTH SESSION OF THE CODEX COMMITTEE ON      FOOD LABELLING Quebec City, Canada, 3 – 7 May 2010

REPORT OF THE THIRTY-FIRST SESSION OF THE CODEX COMMITTEE ON FOOD LABELLING Ottawa, Canada, 28 April - 2 May 2003

(23)「アメリカの食品のトレーサビリティ」フリシス情報 No36
     2008 食品関連産業国際標準化システム・食品トレーサビリテ     ィ協議会

( 24 ) WTO: 2010 NEWS ITEMS, Rules of origin, Outgoing chair says 55%     rules of origin agreed

 

                       平成22年9月

                       髙橋 梯二

                  東京大学農学生命科学研究科

                  非常勤講師

 

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