EUの食品トレーサビリティ
 高橋 梯二  2009年

はじめに

 フランスでは、かなり古くから食品の取引において、部分的にではあるがトレーサビリティが導入されていた。たとえば、フランスのワイン原産地呼称制度では、1935年の法律制定以来、原産地統制呼称ワインAOC)については、生産、流通の各段階で呼称ワインごとの出入に関する特別の記録を付ける義務が課されていた。また、1960年代から導入された食品の公的品質証明制度においてもトレーサビリティの考え方があったといえる。1986年のBSEの発生を契機として、また1992年末の単一市場形成による加盟国間の動物検疫廃止に対応して、家畜衛生の観点から個体識別を中心とするトレーサビリティ制度がフランスを含む各国で構築されていった。 BSEが深刻になるとフランスでは、牛の固体識別と牛肉表示を結び付ける生産から流通にいたるトレーサビリティ制度が1997年に法制化された。EUにおいても食品安全に果たすBSEの重要性が認識され、2000年に牛と牛肉のトレーサビリティに関する規則を採択して全加盟国の義務とするとともに、同年取りまとめられた食品安全に関する白書(1)において、全産品を対象とするトレーサビリティが食品安全にとっての基本的事項の一つとして認識された

従来、EUは、食品安全に関する措置は、加盟国の権限に属する事項としており、加盟国間の貿易上の紛争は欧州司法裁判所が調整していた。しかし、1992年末の単一市場形成を契機として、EUは指令Directive)という法形式で加盟国間の法律を接近approximate)させる措置をとることとした。BSE感染牛が多くなった1990年頃からは、BSE対策はEUの直接の管轄事項として主として決定(Decision)という法形式で実施され、さらに、2000年頃からは、食品安全に関する多くの措置について、加盟国に直接適用される規則(Regulation)によってEUが規制することとなった()

 EUでは、食品安全に関する白書に基づいて2002年に食品法の一般原則を定める規則(以下「2002年食品安全規則」という(3))が採択され、食品及び飼料について、すべての取引の段階において、直近の出入について記録すべきとするトレーサビリティが事業者の義務として法制化された。2002年食品安全規則は、「高度の食品安全」の確保を目的とし、そのために、トレーサビリティ、表示などリスク評価によらない措置もリスク管理上必要不可欠なものとしての法的位置づけとなっている。

 一方、日本は、2003年に食品安全基本法が制定さたが、リスク分析におけるリスク評価の対象とならない措置は、食品安全措置とはみなされず、トレーサビリティは、民間で実施されるべき自発的な措置と位置づけられている(4)

 アメリカでは、今世紀初頭までは、トレーサビリティは食品安全にとって不可欠なものではなく、かえって事業者のコスト増となり、効率を阻害するものと考えられていた。しかし、2002年に成立したバイオテロリズム法の具体的措置においては、トレーサビリティは、EUとほとんど同じ方式ですべての段階においてすべての事業者の法律上の義務とされた(5)

 EUでは、2002年食品安全規則で、すべての食品及び飼料について、すべての事業者に適用される基本的なトレーサビリティを定め、この法制以来、産品ごとに生産や流通の特徴に応じて、トレーサビリティが整備・拡充されていった。これらの個別産品に関するトレーサビリティをもって2002年食品安全規則による基本的義務は免責にはならない。従って、EUの制度は、基本的トレーサビリティをベースに、産品に共通な水平的トレーサビリティと産品ごとの垂直的トレーサビリティとから成る重層的な構造になっており、農業生産から消費に至るまでの透明性をできるだけ確保する制度となっている。また、民間における自発的なトレーサビリティ制度も公的制度を補完する重要な役割を果たしている。

 これらのトレーサビリティは、①2002年食品安全規則による基本的トレーサビリティ、②GMO食品に関するトレーサビリティ、③家畜の個体識別制度をベースとしたトレーサビリティと魚のトレーサビリティ、④その他の産品のトレーサビリティ、⑤農業生産段階におけるトレーサビリティ、⑥食品の容器包装に関するトレーサビリティ、⑦民間の規格・基準によるトレーサビリティであろう。

以下、各制度についてその内容を解説したい。

1.全事業者、全食品及び飼料に適用される基本的トレーサビリティ

 EUの基本的トレーサビリティ制度は、2002年の欧州議会及び理事会規則(No 178/200218条に定められている。施行は2005年1月からである。

(1)定義

 規則第315に定義が定められており、トレーサビリティとは、食品及び飼料並びにそれらの原材料の生産、加工及び流通のすべての段階において追跡できる能力をいうと規定されている。

 トレーサビリティの目的などについては、トレーサビリティは食品安全措置そのも

のではないが、リスク管理の一手法であり、安全上の問題が生じたときの原因追求や市場から撤去すべき品目の確定などに役立つものであり、また、多様な目的を持っており、事業者間の公正な競争、表示の信頼性の確保などにも資すると捉えられている(        )。

(2)事業者のトレーサビリティ義務

 規則第18条によれば、食品及び飼料並びにそれらの原材料を取り扱う事業者は、自分の対象産品の販売先及び購入先の企業又は個人を確認して記録しなればならない。また、関係当局の要求があればその記録の閲覧等情報の提供のためのシステムを整えなければならないと規定されている。

 従って、EUのトレーサビリティの基本的義務は、直近の購入先及び販売先を確認し、対象産品と購入先及び対象産品と販売先との関係を確認しておけばよいという比較的単純なものである。なお、小売やレストランなどで最終消費者に販売した場合には販売先を確認しなくてもよいとされる。

 企業内部の原材料の使用、加工製造の過程におけるトレーサビリティ義務は課されていない。EU規則の策定に当たり、フランスはこの企業内部のトレーサビリティ義務がないと事故の原因追求や市場からの撤去対象産品の確定などが正確にできず、トレーサビリティの一貫性を欠くとの意見であったとされるが、規則には取り入れられなかった。しかし、EUのトレーサビリティに関する手引書によれば(6)、企業内部のトレーサビリティを自主的に実施することが奨励されている。

 また、EUでは1995年の指令と2004年の食品衛生パッケージ規則(7)により、HACCPの原則の適用が全事業者の義務となっており、これによって企業内のトレーサビリティがかなり程度確保されると考えられているようである。さらにEU各国ではBRCグローバル基準FIS国際品質規格、SQF安全品質規格、オランダHACCPなど民間の食品安全基準が発達してきており、これらの基準では最終製品に至るまで原材料はトレース可能でなければならないという企業内部のトレーサビリティが重要なチェック項目になっている。

(3)対象事業者

 規則第18条によれば、食品の原料生産から加工、調整、保存を経て流通に至るまでの食品チェーンのすべての段階における事業者が対象となっている。利益を追求しない法人も対象となる。しかし、トレーサビリティ義務の実施は、各国に任されており、各国の事情によって例外となる対象事業者を定めることができるとされている。

 また、対象産品の輸送業者及び保管業者も対象となる。なお、農業者も対象となり、種子、肥料などの購入については記録義務がないが、家畜の購入などについては記録義務があり、生産した食品あるいは食品の原材料となるべき産品の販売については記録義務があると解釈される。また、レストランも対象となり、材料等の購入については記録義務があるが最終消費者への販売に関しては記録義務がない。

 なお、2002年食品安全規則第  条によれば、EUへの輸出産品はEUの要求基準を満たしていなければならないとあるが、EU域外の事業者に対してはトレ-サビリティ義務は及ばない。

(4)対象産品

 規則第18条によれば、食品及び飼料並びにこれらの原材料あるいは原材料として使用されるかあるいはその可能性のあるものがトレーサビリティの対象産品である。ただ、動物医薬品、農薬、肥料は含まれておらず、これらは特別の法律等によってより厳しく規制されているからであるとされる。なお、動物医薬品や農薬については2004年の衛生パッケージ規則により、農業者等はこれらの物質の使用に関する記録をし、それを保存する義務がある。また、作物の種子として使用されるものも含まれない。食品の容器包装も含まれない。容器包装は、2004年の規則によって別途トレーサビリティ義務が定められている。

(5)記録すべき事項と記録保存期間

 トレーサビリティに関する手引書によると、記録すべき事項は、優先度に応じて2つに分類されている。第一の分類に属するものは、記録義務があるとされるもので、購入先及び販売先の事業者の名前及び住所、その取引産品の性質、及び取引の日付である。第2の分類に属するものは、記録することが推奨されるものであり、量、ロット番号、産品に関するより詳しい説明である。

 記録の保存期間については、2002年規則には定められていないが、手引書によると、課税との関連で取引に関する記録の保存期間が5年であるので、この期間が原則である。従って、保存期間の定めがないものは5年である。しかし、保存期間が5年を超えるものについては、それに6ヶ月加えた期間が記録の保存期間となる。生鮮産品については、賞味期限が3ヶ月以内あるいは賞味期限の定めがないものは、記録の保存期間が最低6ヶ月とされている。

(6)監視及び実施

 トレーサビリティの実施に関しては、EUの食品及び家畜衛生局(Food and Veterinary Office)が食品安全に関する規則を事業者が遵守しているかどうか定期的な検査を行うこととしており、トレーサビリティ義務の遵守についてもこの中で検査される。また、加盟国の関係当局は、トレーサビリティが実施されているかどうか食品及び飼料の生産、加工、流通を監視することになっている。また、加盟国は、EUの要求事項に従っていない事業者に対しては、加盟国の法律に基づいて罰則を課すことができる。

 たとえば、フランスにおいては、トレーサビリティ義務違反に対しては、次のような罰則が適用されうるとしている(8)

 ① 消費法典L.213-1条に基づく商品における虚偽の情報に対する2年以下の禁固及び/又は37,500ユーロの罰金

 ② 食品の衛生規則あるいは動物の原産規則に対する違反については、農業法典第R.237-2条によって第5クラスの違反と規定されている。

 ③ EU域内取引において、農業法典第L236-5条に定められている事業所又は個人が登録証明書又は書類がない場合は、2年の禁固及び15,000ユーロの罰金(農業法典第L236-8条) 

2.GMO食品と飼料のトレーサビリティ

 EU諸国においては、GMOに対する消費者の受容性は低く、イギリス当局が従来否定していたBSEの人間への感染の可能性を認めた1996年以来、GMOに対する消費者の不安あるいは拒否反応は、一段と強くなった。従ってGMOについて2002年食品安全規則の目的である高度の食品安全の確保と消費者の信頼の回復に即して、その安全確保対策が整備・強化されることとなり、2003年にGMO食品等の販売許可に関する規則とGMOの表示及びトレーサビリティに関する規則が採択された。これによって、GMO食品と飼料には基本的トレーサビリティほか追加的な特別トレーサビリティ義務が課されることとなった。しかし、このEUGMO規制は非常に厳格でEU市場におけるGMO食品の販売と流通を禁止する効果を持つものではないかとの批判もある

 GMOのトレーサビリティ及び表示に関する規制は、2003年の欧州議会及び理事会規則(No1830/2003)で定められている(9)

(1)目的等

 この規則によると、GMOトレーサビリティ規制は、事故の場合の原因追及や、市場撤去の産品の確定などに資するほか環境に対する潜在的な影響を監視することにも資するとされている。また、GMO表示の基礎となり、表示の信頼性を高めることであるとしている。また、予防原則との関連で、リスク管理に資するとしている。これは、科学的証拠が必ずしも明らかになっていなくても、GMOの危害が予見される場合、予防措置をとることができることを意味していると思われる(前文(3)及び(4))。

(2)対象産品

 規則の対象はGMOを含む産品とGMOから作られる食品及び飼料であり、それぞれ別々に規制が設けられている。

(3)GMO含む産品を販売する事業者の義務(第4条)

 ① GMOを含む産品を最初に市場に出した事業者は、次の事項について産品を受け取る事業者に対して書面で伝達しなければならない。

  ・ GMOを含むかGMO構成されていること。

   そのGMOを正確に認識するため番号や、記号によって表されるGMO一識別記号unique identifier(10)

 ② 上記以降のすべての事業者は、上記によって受けた情報をその産品を受け取る事業者に書面によって伝達しなければならない。

 ③ 事業者は、上記情報を保存するシステムあるいは標準化された手続きを定め、各取引について5年間保存しなければならない。

   上記トレーサビリティは、食品や飼料に直接使用される場合、あるいは加工される場合において、意図的でなく、かつ避けることができないGMOの混合率が0.9 %以下である場合は、適用されない。

(4)GMOから作られる食品や飼料を販売する事業者の義務(第5条)

 GMOら作られる食品や飼料を市場に出す事業者は、次の事項について産品を受け取る事業者に対して書面で伝達しなければならない。

 ① GMOら作られている各食品原材料

 ② GMOから作られている各飼料の原材料及び添加物

 ③ 原材料のリストが存在しない場合は、その産品がGMOら作られていること。

 また、上記(3)の③及び④は、この場合にも適用になる。

 このトレーサビリティ義務が定められているのは、食品や飼料についてどの原料にどのGMOが含まれているか確認し、それを購入者に伝達しないとトレーサビリティが途切れてしまうからである。

EUのこのトレーサビリティ義務によれば、偶発的で避けられないGMO混入でない限り、GMOがいくら少なくてもトレーサビリティ義務と表示の義務があると解釈される。また、食用油のようにGMOが検出されないものについても対象になるとされる(森田倫子氏による)。

(5) 管理

 加盟国は、この規則が遵守されているかどうかを確認するため、サンプル検査や試験を含む管理及び検査を実施しなければならない。また、EU委員会は、加盟国の当局と協議しつつ、サンプリング検査や試験に関する技術的な指針を作成し、公表する。

さらに、EU委員会は許可されたGMO及び許可になっていないGMO関する登録リストを作成し、加盟国の管理と検査に資するようにする(第9条)。

3.家畜の固体識別によるトレーサビリティと魚のトレーサビリティ

 家畜については1992年末の単一市場の形成に伴って、EU域内取引においては検疫が原則として廃止となったため、家畜の衛生上の管理を維持・強化する目的から、各国は家畜の固体識別制度を整えてきた。また、BSE汚染の深刻化に伴って、消費者の信頼を回復し牛肉産業を安定させるためには、生産から消費に至るまでのトレーサビリティが必要と認識され、フランスでは  年に牛と牛肉のトレーサビリティが法制化された。

また、2000年には、EUはすべての加盟国に適用となる牛と牛肉のトレーサビリティ規則を採択し、加盟国に対して直接規制することとした。さらに、トレーサビリティの食品安全確保に果たす役割の重要性が認識され、EU2002年食品安全規則において全食品及び飼料に適用される義務に発展していった。

 EUは動物(魚を含む)由来の食品安全を重視しており、2002年食品安全規則の目的である「高度の食品安全」を確保し、消費者の信頼を回復するため、家畜の固体識別を核とするトレーサビリティ制度を整備し、2004年の衛生パッケージ規則(2006年施行)と連動して、動物由来の食品の安全措置を一段と強化している。

 この家畜の固体識別制度については、EU員会は、1998年に電子識別制度に関するプロジェクトIDEA)を発足させ、20024月に最終報告が行われた。現在、この報告に従って加盟国及びEUレベルでの電子識別制度が整えられつつあるが、詳細は、今後の調査に待ちたい。

 なお、EUは、国境を越えて動物をトレースするTRACESTRAde Control and Expert System2004年に設立し、EU域内と域外からの動物の移動を把握する中央のデータベースによって、事故が起きた場合は、影響を受ける動物を早期に確定し、必要な措置をとれるようにしているとのことである(EUトレーサビリティ ファクトシート)(11)

牛の登録及び牛肉のトレーサビリティ

 牛及び牛肉のトレーサビリティは、2002年食品安全規則の制定の前に採択されたものであり、このトレーサビリティ規則は、EUでトレーサビリティに関して規則として最初に定められたものである。この規則は、欧州議会及び理事会規則(1760/2000)(1)によって定められ、その概略は以下のとおりである。

(1)牛の個別登録制度

 加盟国は、牛の識別と登録システムを構築しなければならない。そのシステムは、以下の要素から構成される。

 ① 牛を個別に識別する耳標

 ② コンピュータ化されたデータベース

 ③ 牛のパスポート

 ④ 各施設で記帳される個々の登録簿

 耳標は、当局によって認可されたもので、牛の両耳に装着される。耳標は、動物の出生から加盟国で決定される一定期間内に装着されるものとする。耳標等によって牛が識別されない限り、施設から移動させてはならない。EU域外諸国から輸入された牛についても耳標が装着され識別される。

 加盟国の当局は、識別された牛に対して出生通知から14日以内にパスポートを発行するものとする。牛がどこに移動される場合でも、動物にはパスポートが付属していなければならない。域外諸国に輸出された場合、パスポートは輸出される場所で最終取扱者により当局に引き渡される。

 すべての牛取扱者は、牛の登録簿を維持するものとする。また、また、当局の要求に応じて取扱者が所有、管理、輸送、販売、屠畜している牛の出自、識別等の情報を当局に提供するものとする。

(2)牛及び牛肉製品の義務的表示

 流通の各段階で、牛肉について表示しなければならない。表示は、食肉や、その包装材にラベルを貼付するか、包装されていない場合は、販売時に文書で、あるいははっきり見える形で、消費者に提供されなければならない。

 表示すべき事項は、①牛あるいは牛群との関連を確保する番号、あるいはコード、②屠畜場の認可番号及びそれが設置されている国名(域外の国名を含む)、③牛肉の解体場の認可番号及びそれが設置されている国名(域外の国名を含む)

 200211日からは、事業者は、ラベル上に①牛の出生国、肥育が行われたすべての国名(域外の国名を含む)、②屠畜が行われた国名(域外の国名を含む)を表示しなければならない。

(3)自発的表示

 (2)の義務的表示事項以外に、事業者は、牛肉の生産や販売が行われている加盟国の当局に表示基準書を届け、認可を受けることによって、表示することができる。自発的表示事項は、①ラベルに含まれる情報、②情報の正確さを確保するために講じられる措置③当局や第3者機関による管理システムなどである。

(4)管理

 加盟国は、規則の事項の遵守を確実にするためのあらゆる措置を講じるものとする。取扱者に対して課せられる罰則は、違反の大きさに比例するものとする。罰則は、取扱者の施設への、あるいは施設からの移動に対する規制を含めてもよいことになっている。

豚のトレーサビリティ

 豚の登録制度

 豚の登録制度については、2008年のEU理事会指令(2008/71/EC)(1)で定められて

おり、これに関する権限は、加盟国に残している。従って加盟国は指令に即して国

内法を整備しなければならない。

 この指令による登録制度の概要は、次のようである。

加盟国は以下の事項が確保できるよう措置しなければならない。

(1)豚を保有している施設についての最新のリストを作成しなければならない。リストには、取扱者の氏名及び豚を認識するマークを明らかにしておかなければならない。

(2)取扱者が豚の頭数に関する登録を維持し、登録には、豚の移動、必要な場合は、出自及び移動先、これらの移動の日付を登録する。

(3)取扱者が当局の要請に応じて、豚の出自、識別番号、必要に応じ、販売や屠畜等の目的のため異動させた先に関する情報を提供する。

(4)識別マークが、豚が生まれた施設から出る前までに適用されなければならない。このマークは、耳標又は入れ墨によって行われる。また、輸入された豚については、輸入から30日以内に識別され、マークが適用されなければならない。

(5)必要な管理措置及び罰則が適用されなければならない。 

羊及び山羊のトレーサビリティ

 羊及び山羊の登録制度

  羊及び山羊の固体登録制度はEU理事会規則(No 21/2004(1)で定められている。

 豚の場合と異なりEUが直接規制する制度になっているのは、羊及び山羊はTSE汚染の可能性がある動物であるからであると思われる。固体識別及び登録制度の概要は次のとおりである。

(1)加盟国は、羊及び山羊の識別及び登録制度を確立しなければならない。この制度には、次の事項が含まれていなければならない(第3条)。

  ①各羊及び山羊を識別する方法

  ②各施設で維持される最新の登録

  ③移動に関する書類の異動 

  ④中央登録及びコンピュータによるデータシステム

 EU委員会及び加盟国の当局は、この規則に基づくすべての情報にアクセスできるものとする。

(2)2005年7月9日以降生まれた家畜は、耳標、刺青、あるいはpastermへのマーク(山羊カプリンヌの場合)によって識別される。また、輸入された家畜も識別され、原産国の識別については輸入国の施設において記録される。識別表示は当局から配分され、当局の許可なくして識別表示を取り外すことはできない(第4条)。

(3)家畜取扱者は最新の登録を維持しなければならない。登録は当局から許可された様式に従って書面あるいはコンピユータによってなされ、要請に応じて当局に提供されなければならない。また、取扱者は、要請に応じて、原産、識別に関する情報、また必要な場合には過去3年間における家畜の販売先に関する情報を当局に提供しなければならない(第5条)。

(4)加盟国内の施設間を家畜が移動する場合は移動に関する書類が付随していなければならない。また移動先の取扱者は少なくとも3年間移動に関する書類を保管しなければならず、(第6条)。当局の要請に応じてその書類の写しを提供しなければならない(第6条)。

(5)加盟国は、すべての施設に関する中央登録制度が当局によって設置されるようにしなければならない(第7条)。また、2005年7月9日以降、コンピュータによるデータベースを構築しなければならない(第8条)。さらに2008年1月以降電子的家畜識別制度が適用されなければならない(第9条)。

水産物のトレーサビリティ

 漁業及び養殖業から得られる産品の消費者への情報提供を強化するため、2001年に委員会規則(No 2065/2001(1)が制定され、2002年から施行になっている。同規則第3章(トレーサビリティと管理)第8条によって、魚等の商業上の名称、魚等の学名、その漁獲海域や生産方法(養殖か天然かなど)についての情報が各取引の段階で入手可能でなければならず、産品のラベルや包装、又はインボイスなど取引上の書類によってこれらの情報が提供されなければならないと規定されている。

 なおEU2002から2年間ノルウェーの魚に関するトレーサビリティ・システムFish trace)を参考として、コンピュータシステムを利用し、統一名称(番号)によるトレーサビリティ制度を研究した。しかし、この結果はEUの具体的制度にはならなかったようである(1)

4.その他個別産品の特別トレーサビリティ

 今まで述べてきた産品以外についても、産品の特質や生産・流通の特徴に応じて、個別の産品の流通・販売に関するや規則や指令において、トレーサビリティに関連する規制が定められている。本資料ではこれらのトレーサビリティの全貌を把握できなかった。

例示として、

卵について、販売基準について理事会規則((EEC No1907/90(17)によって定められており、数次にわる改正により、トレーサビリティが強化されてきた。この規則によると、①当局はパッキングセンター等に対して卵を等級分類できる許可を与え、許可を受けたパッキングセンターは卵の供給者の最新の記録を保持すること(第5条)、②上級クラスAの卵には、生産者の識別番号、飼養方法を確認できるようなコードが印字されるものとする(第7条)。③卵のパックにはパックした企業名と識別番号、卵の品質、飼養方法、原産等を外面に表示すること(第10条)などが規定されている。

有機農産物について、理事会則(No2092/91(1)によって、有機農産物・食品の卸売り事業者及び小売事業者への輸送に当っては、梱包の表面に生産者と加工業者又は輸入業者の名前と住所と産品の名称を記載し、有機農産物であることを明記しなければならないこと、また、産品を受領した者は、梱包が閉じているかどうか、規則どおりに表示されているかどうかを確認し、産品受領に関する会計書類に記載しなければならないことが定められている(第  条)。

なお、EUのトレーサビリティに関するファクトシートには、以上のほか、果実・野菜、蜂蜜、オリーブオイルについてもトレーサビリティが定められていると説明している。

5.農業生産段階におけるトレーサビリティ記録義務)

 2002年食品安全規則の制定後の食品安全に関する具体的な強化措置として、2004年に食品衛生パッケージ規則が制定され、2006年から施行されている。これは、今まで「指令」によって加盟国間の法律の接近が行われてきたものを集大成し、EUが直接規制する「規則」としてまとめるとともに、動物由来の産品を中心として衛生措置を大幅に強化したものである。この衛生パッケージ規則では農業生産段階での衛生措置も盛り込まれており、トレーサビリティに関連しては、生産段階における記録義務と産品の供給先に要求に応じてそれを開示する義務が課されている。

 欧州議会及び理事会規則(No 852/2004(1)の付属書Iによって、次のように記録がなされなければならいと規定されている。

(1)動物(魚を含むと思われる)を飼育したり、動物由来の1次産品を生産する事業者は、特に

 ① 動物に与える飼料の性質と出自

 ② 動物医薬品の使用とその他の処置、その日付及び処置終了日

 ③ 食品の安全に関連する病気の発生

 ④ 動物のサンプリングテストの結果(人間の健康に影響がある場合)

 を記録しなければならない。

(2)植物生産物を生産し、収穫する事業者は、特に

 ① 農薬等の使用

 ② 食品安全に関連する病疫等の発生

 ③ 作物等のサンプリングテスト結果(人間の健康に影響のある場合)

 を記録しなければならない。

(3)以上の記録について、事業者は管理当局の要請に応じてこれらの記録を提供しなければならず、また、産品を受け取る事業者の要求に応じてこれらの記録を提供しなければならない。

6.食品の容器包装に関するトレーサビリティ(20)

7.民間の規格・基準によるトレーサビリティ

 EU諸国では、民間の食品安全に関する規格・基準が普及しており、生鮮農産物や加工食品の生産の管理基準を定め、第3者の認定や監査によって規格・基準が遵守されているかどうか確認する制度である。いずれも、政府で定められた規制の遵守を確かなものとし、さらに上乗せの基準を設け、より高度に食品安全を確保して、消費者の信頼度を高める目的を持っている。

ISO規格もあるが、注目されるのは大手小売業が主導する農産物の生産を対象としたグローバルGAP基準や加工食品の生産を対象とした基準であり、加工食品については、レーサビリティの手法を文書化し、生産段階の記録を行うことによって最終製品に至るまで原材料がトレースできることを重視している。これらの基準は、基準ごとに要求事項が異なり国際的な取引を行う事業者にとって非効率になるのを避けるとともに、透明性を高めるため、世界食品安全イニシアティブGFSI : Global Food Safety Initiative)などによって国際的な調和の努力がなされている。これらの基準にはヨーロッパの生産者はもとより、アフリカやアジアの輸出国の生産者の参加が多くなりつつあり、国際標準になっていく可能性を持っている(21)

これらの民間の規格・基準のうち主なものは次のとおりである。

(1)農産物の生産管理に関する基準 

 グローバルギャップ基準

  1997年にヨーロッパの大手小売業が連合し、青果物などの農産物について食品安

 全や環境配慮などの観点から納入農業生産者の生産管理のために設けた基準である。

 この基準では、農業生産において、農薬の使用の記録義務や出荷記録からそれが生産された圃場が特定できることあるいは圃場ごとに生産物の出荷先が特定できることなどのトレーサビリティが重要項目となっている。

(2)加工食品の生産管理に関する基準

 イギリス小売業連合(BRC)グローバル基準British Retailer Consortium Global Standard

  1998年イギリスの小売業連合が小売業の自社ブランドの食品製造納入事業者の製造に関する評価を行うため設けた基準である。 

 国際品質規格International Food StandardIFS

  2002年にドイツ小売業連合(Hauptverband des Deutshen Einzelhandels)が、自社ブランドの食品の製造納入事業者を監査し、認証するため設けた基準である。2003年にはフランスの流通企業連合(Fédération des entreprises du Commerce et de la Distribution)この国際品質規格に参加した。

 安全品質規格 (Safe Quality Food : SQF)

  1994年に農産物及び食品の供給業者が生産する産品の安全と品質をできるだけ経済的に確保する基準を提供するものとして西オーストラリアで作成された基準である。この基準は2003年に食品市場研究所(Food Marketing Institute)所有となり、加工食品についてはSQF2000として発展させてきている。この基準は小売業の自社ブランドの製造に適用されるばかりでなく、すべての納入製品の製造に適用されるものである。

おわりに

 この資料は、EUのトレーサビリティ制度の全貌を把握することを主な目的としたものである。しかしながら、EUの制度はかなり複雑であり、全貌を正確に把握できたのか不安も残っている。EUBSEの深刻化によって、従来の食品安全対策に対して消費者の信頼が大きく失われたことが、現在の食品安全制度構築の基本的背景になっている。 従って、2002年食品安全規則は、「高度の食品安全」を確保し、消費者の不安を取り除き、信頼を確保することを目的としている。このため、科学の原則に基づく措置を基本としつつも、リスク分析手法からは導かれないトレーサビリティや消費者の知る権利を尊重した表示の強化なども食品安全の確保にとっての基本的な事項と位置づけている。従って、日本でいう「安心の措置」あるいは「消費者の信頼を得る措置」もこの「高度の食品安全」の措置に含まれていると見ることができる。

 一方、日本では2003年の食品安全基本法において、食品安全に関する措置は、リスク評価を受けなければならないと規定され、食品安全措置はリスク評価の対象になるものに限定されているように見える。従って、日本では、トレーサビリティなどは食品安全確保にとって絶対必要なものでなく、民間で自主的に行われるべきものと位置づけられたと思われる。

 EUのトレーサビリティ制度を見ると、生産から消費までの各段階において情報を把握し、記録し、伝えることにより安全が確保され、さらにはそれらの情報が消費者にも見えるようにすることによって消費者の信頼が高まるとの思想に基づいている。これは市場に出される最終産品についてその安全を確認すれば足りるという従来の食品安全確保の手法とは異なっている。また、消費者が生産や流通がどのように行われているのか知らないとその安全性について信頼できないとの消費者の要求に応える制度でもある。また、EUでは、トレーサビリティは、商業的な宣伝に利用されてはならない、つまり、原産地呼称や地理的表示制度などと異なり、産品の差別化による追加的な付加価値valorisation)を求めるものでないと認識されている(フランスCNA報告)。それゆえに、すべての関係事業者に等しく適用される法的義務とし、そのための追加費用は最終的には消費者価格に転嫁されるべきものとされている。HACCP同様の考え方に基づいている。

 このようにして生産・流通までに法的にかなりの程度介入して、透明性を高めることが、食品安全確保にとってどの程度の効果があるのか、また費用がかかりすぎるのではないかなどの疑問はあり、その評価は今後の経験を待たなければならない。

 しかし、日本やアメリカで、なお、食品事故や不正などが頻発していることや事故発生における事業者の損害額が大きいことなどを考えると、EUこのような食品安全に関する思想とそれに基づく制度については検討に値すると思われる。

1)食品安全に関する白書(White Paper on Food Safety)
  12 January 2000 COM (1999) 719 final

2)EUの規則(Regulation)、指令(Directive)、決定(Decision)等について  規則は、一般的な適用性を有する。規則は、その全体において拘束力があり、すべての加盟国において直接適用することができる。

  指令は、達成すべき結果について、これが向けられたすべての加盟国を拘束するが、方式及び手段については、加盟国の権限に任せる。決定は、その向けられた者に対して全体として拘束力を有する。

  勧告及び意見は、なんら拘束力を有しない。

  規則の直接的な適用とは、加盟国において追加の行為を必要としないことで、そのままの状態で実施を確保しなければならない効果を持つ。

  また、指令は加盟国を名宛人とし、特定の日時までに達成されるべき特定の結果を規定する。しかし、指令をどのように実施し、国内法に置換するかは加盟国に任せられている。個人に対する権利義務は原則として指令ではなく国内実施措置により発生する。また、国内措置と指令との間に不一致がある場合、国内裁判所は、可能な限り 指令に効果を与えるよう国内措置を解釈及び適用しなければならない。

  「EU法の手引き」によるデイヴィッド・エドワーズ及びロバート・レインの解説による。

3)Regulation (EC) No 178/2002 of the European Parliament and  of the Council of 28 January2002 laying down the general principles and requirements of food law, establishing the European Food Safety Authority and laying down procedures in matters of food safety

4)食品安全基本法

 (食品健康影響評価の実施)

  第11条 食品の安全性の確保に関する施策の策定に当たっては、人の健康に悪影 響を及ぼすおそれがある生物学的、化学的若しくは物理的な要因又は状態であって、食品に含まれ、又は食品が置かれるおそれがあるものが当該食品が摂取されることにより人の健康に及ぼす影響についての評価(以下「食品健康影響評価」という。)が 施策ごとに行われなければならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。

 一 当該施策の内容からみて食品健康影響評価を行うことが明らかに必要でないとき。

 二 人の健康に及ぼす悪影響の内容及び程度が明らかであるとき。

 三 人の健康に悪影響が及ぶことを防止し、又は抑制するため緊急を要する場合で、あらかじめ食品健康影響評価を行ういとまがないとき。

5)「アメリカの食品トレーサビリティ」フリシス情報(食品関連産業国際標準システム・食品トレーサビリティ協議会)2008.9 No36 

6)Guidance on the implementation of  articles 11, 12, 16, 17, 18, 19 and 20 of regulation (EC) N° 178/2002 on general food law, conclusions of the standing committee on the food chain and  animal health 

7)2004年採択の食品衛生パッケージは、主として次の規則から構成される。

Regulation (EC) No 852/2004 of the European Parliament and of the Council of 29 April 2004 on the hygiene of foodstuffs

 Regulation (EC) No 853/2004 of the European Parliament and of the Council of 29 April 2004

laying down specific hygiene rules for food of animal origin

 Regulation (EC) No 854/2004 of the European Parliament and of the Council of 29 April 2004

laying down specific rules for the organisation of official controls on products of animal origin intended for human consumption 

8)Note de service DGAL/SDRRCC/SDSSA/N2005-8205 du 17 août 2005, Ministère de l'agriculture et de la pêche 

9)Regulation (EC) 1830/2003 of the European Parliament and of the Council of 22 September 2003 concerning the traceability and labelling of genetically modified organisms and the traceability of food and feed products produced from genetically modified organisms" and amending Directive 2001/18/EC. 

10) 統一識別記号(Unique identifier)とは、許可された組み換えを基礎としてGMOを特定するための数字あるいはアルハベットによるコードである(規則第3条)。 

1) Factsheet on traceability, June 2007 

12)Regulation (EC) No 1760/2000 of the European Parliament and of the Council of 17 July 2000 establishing a system for the identification and registration of bovine animals and regarding the labellingof beef and beef products and repealing Council Regulation (EC) No 820/97 

    Commission Regulation (EC) No 911/2004 of 29 April 2004 implementing Regulation (EC) No 1760/2000 of the European Parliament and of the Council as regards eartags, passports and holdingregisters

13)Council Directive 2008/71/EC of 15 July 2008 on the identification and registration of pigs 

14)Council Regulation (EC) No 21/2004 of 17 December 2003 establishing a system for the identification and registration of ovine and caprine animals and amending Regulation (EC) No 1782/2003 and Directives 92/102/EEC and 64/432/EEC 

15)Commission Regulation (EC) No 2065/2001 of 22 October 2001 laying down detailed rules for the application of Council Regulation (EC) No 104/2000 as regards informing consumers about fishery and aquaculture products 

16)Traceability of Fish Guidelines

 EAN International 25 Years 7th November 2002

17)卵の販売基準に関する1990年6月26日付理事会規則(EECNo 1907/90 

18Reglement(CEE) No 2029/91 du Conseil du 24 juin 1991 concernant le mode de production biologoque de produits agricoles et sa presentation sur les produits agricoles et les denrees alimentaires 

19)Regulation (EC) No 852/2004 of the European Parliament and of the Council of 29 April 2004 on the hygiene of foodstuffs 

20)Regulation (EC) No 1935/2004 of the European Parliament and of the Council of 27 October 2004 on materials and articles intended to come into contact with food and repealing Directives 80/590/EEC and 89/109/EEC

21)髙橋梯二「欧米における大手小売業の食品安全と品質確保対策について」明日の食品産業(食品産業センター)200878月号

参考文献

・新山陽子「欧州における牛肉トレーサビリティ・システムの現状と日本への導入の課題」(平成13年度の農林水産省総合食料局補助事業)

・森田倫子「「農場から食卓まで」の食品安全」レファレンス 平成162月号

Commission Regulation (EC) No 504/2008 of 6 June 2008 implementing Council Directives 90/426/EEC and 90/427/EEC as regards methods for the identification of equidae (Text with EEA relevance)

Council Directive 2002/99/EC of 16 December 2002 laying down the animal health rules governing the production, processing, distribution and introduction of products of animal origin for human consumption


この資料は、食品トレーサビリティ協議会フリシス情報 No37,2008年12月に掲載されたものである。

トップページに戻る