日本事務所の予算・支出等の管理(その6)

          元FAO日本事務所長

           橋 梯二

 日本事務所の予算・会計の処理方法やその他の管理事項は、日本事務所という小さな地方機関としての特殊性はあるが、FAOはもとより国連機関の処理方法と基本的には同じである。従って、日本事務所の処理方法を通じて国連組織の予算・会計処理制度を窺い知ることができると思う。今回は、日本の政府機関の制度との違いに焦点を当てつつ、日本事務所の予算・会計及び管理について6年間の経験をもとに説明することとしたい。

1FAO日本事務所の予算

FAOは多くの国連機関と同様、2年ごとに予算が作成される。従って、日本事務所も2年間の予算年度である。予算年度が始まるほぼ1年前に本部に対して予算及び定員要求を行う。本部では、審査のうえ、約6ヵ月後に日本事務所に対し、定員要求に関する決定の通知を行う。また、予算に関しては、翌年(予算年度開始年)の初めに決定額の通知がある。

FAOの予算は、総会決定事項である。FAO本部は、各局及び地域事務所、国別事務所、連絡事務所からの予算要求を取りまとめ、検討の上、次年度の事業予算計画(Programme of Work and Budget)を作成する。それを理事会の下部機関である事業委員会(Programme committee)と財政委員会(Financial committee)に諮問する。両委員会は加盟国のメンバーの中から理事会で選出された国の常駐代表の委員で構成されている。11カ国の委員で構成される事業委員会は、主として事業計画を審査し、また、同じく11カ国の委員で構成される財政委員会は、主として予算について審査し、意見を作成し、理事会に提出する。委員会の審査に当っては、FAO本部の各部局から詳細な説明を受ける。なお、現在、日本の常駐代表は財政委員会の委員となっている。

通常11月初旬に行われる総会の前に理事会で、次年度の事業予算計画が審議される。理事会は、意見、勧告を取りまとめ、これを総会に提出する。理事会及び総会で大きな問題になるのは予算総額であり、実質ゼロ増額、名目ゼロ増額などのオプションが議論される。総会の決定は投票による多数決で行うことができるが、事業予算計画は、コンセンサス方式つまり全会一致で採択されるのが通例である。日本事務所の予算についても事業予算計画に概要が記載されている。

日本事務所の予算は、@人件費、Aコンサルタント経費、B 現地雇用人件費、C旅費、D備品費、E消耗品費、F一般経費、G研修費及びH交際費からなっている。人件費を除き、2002/03年度予算で約30万ドルである(1年間で約15万ドル)。A及びBの予算からアルバイト、コンサルタントの人件費をまかなわなければならず、この年間15万ドルの予算金額だけでは、イベント等の費用を捻出できないので、テレフードキャンペーンについては、民間企業や農漁業団体から協賛金をお願いしている。正規の職員の人件費は、国連本部で決定する等級に応じた給与表に即して本部が算出する予算額である。

2予算の支出

 毎年年初に本部より、その年の予算項目ごとの額及び総額(allotment)が通知されてくるので、この範囲内で支出することとなる。予算項目間の流用は自由であり、最終的に支出が予算総額の範囲内であればよいことになっている。ただし、職員の研修費は他の予算項目に流用してはならず、また、交際費については、他の項目からの流用は認められず、割当て額の範囲内に止めなければならないと定められている。

 支払いは、原則として小切手で行うことを前提として会計と予算に関する規則(manual)が定められており、現金で支払いできる限度額は,一回につき50ドルまでに限定されている。また、現金の保有も極力少なくしなければならないとされ、500ドルまでとなっている。上記の現金支払い限度額等は、開発途上国や現金をほとんど使用しないアメリカ等を想定した金額なので、日本の取引の実態が考慮されておらず、再三、本部と協議した結果、日本事務所については現金支払い限度額が100ドル、現金保有限度額が1,000ドルに認められた。しかし、なお、日本にとって不自由な限度額である。さらに、マニュアルでは銀行振り込みは想定されていないが、日本では、小切手を受け付けない会社があり、一部の支払いについて銀行振り込みを行っている。国連機関は条約により免税となっており、日本ではできる限り消費税免税取扱登録をしている業者と取引を行わなければならない。

 支出は出金伝票(disbursement voucher)を作成し、予算所有者(budget holder)である所長が署名して確認する。従って、いわゆる支出負担行為担当官は所長である。支払を行ったことを確認するのは所長とは別の支出官(disbursement officer)である。日本事務所は専任の会計担当官がいないので、秘書が支出官に任命されている。支払いを小切手で行う場合には、所長以外にもう一人が小切手に署名する必要がある。これは、二重署名(double signatory)といわれ、所長の行為をチェックする機能を果たすものである。

 支出の管理については、原則として、4月、9月及び11月に予算項目ごとにその時点で既に支出した額と年末までの支出見込み額を計算し、さらに予期せぬ支出や大きな支出があった場合、また、予算項目の予算額の変更の必要がある場合は、理由を添えて本部に提出し、承認を得ることになっている。これは、PBR(periodical budget review)とよばれる予算管理であり、PBR用のデータベースにアクセスして今後の支出見込みを入力し、変更等の理由についてメールで本部に送る。

25000ドル以下の支払契約は所長が締結できるが、それを超える契約は本部が相手方と行うことになっている。調達及び契約は、競争入札、指名競争入札又はコンペ方式などで行わなければならず、随意契約は、極力避けるべきとされている。

会計年度の第1年目の終わりにはその年の12月末時点での予算・支出の締めを行う。この場合、12月までに支払いは行っていないが、すでに契約をしたりするなどして当該年度予算で支払いを行わなければならない額は、未払い額( unliquidated obligation)として、その理由と契約書の写しなどの関係書類を添えて本部に報告することになっている。しかし、最近では未払い額をたてず、12までに支払いを行った金額のみで締めの計算を行う方式になっている。2年目の会計年度の終わりには予算・支出の最終的な締めを行なう。従って、現在は予算・会計の締めもすべてコンピュータで処理できる。

3経理処理

支出については、支出ごとに伝票をコンピュータ処理し、入力したデータを定期的に本部に送信する。本部は受信したデータなどをもとにコンピュータで集計・整理し、予算・会計に関するFAO地方機関及び本部各部署の必要データを整備する。このコンピュータによる会計処理は、FAOではFASシステムとよばれ、1999年から本格導入した。FAOの会計処理のコンピュータ化は国連機関の中で早いほうであったが、今では他の国連機関も次第に導入してきていると聞いている。FASシステムの最大の効果は、本部の会計事務職員が各部署、各地方機関から送られてくる膨大な会計書類のデータ入力をしなくてすむことである。地方機関にとってはコンピュータ処理のほうが手書き処理よりは多少時間が少なくて済む程度である。基礎データの入力が地方機関の義務となっているということである。このコンピュータ処理により、本部で作成される各機関の予算の支出状況はコンピュータで検索でき、自ら作成する必要はない。FASの導入当初は、システムが不備であり、手書きより不便な点も多かったが、5年間で徐々に改良され、現在ではより使いやすいものとなっている。

なお、FASシステムは、備品管理、休暇などの人事管理にも適用することが予定されており、将来、より広範な分野をカバーして、コンピュータによる総合的な管理が行われていくと思われる。

支出については、毎月、一ヶ月の出納簿を、銀行が発行する当座預金の銀行取引明細書(bank statement)を添えて本部に書面で報告する。本部に報告すべき月ごとの出納簿は、FASシステムのコンピュータから打ち出すことができる。

なお、日本事務所を含むFAOの地方機関は、自分の機関の業務に関する支払い以外に本部などの他のFAO機関の業務のための支払いと経理処理をすべきことが義務付けられている。たとえば、本部の主催する会議に日本在住者が招待された場合、日本事務所が航空券を購入し、本人に手渡すことなどである。この場合は、本部の会計部局等から支払依頼書(field disbursement request)送られてくる(旅行費用の支払はメールによる依頼のみ)。日本事務所は支払いを行った後、FASシステムに入力する。日本事務所の銀行口座は、本部の銀行口座であり、日本事務所は、それを管理しているにすぎない。口座の開設も本部が行うことになっている。日本でのFAOの口座には常時5万ドルの残高を保有していれば、足りるとされ、毎月の会計報告の際に5万ドルと残高の差を算出し、その金額を日本の口座に送金するよう本部に依頼することになっている。それよりも多額の支出が予想されるときはその額の送金を本部に依頼する。

国連機関全体が同じと思われるが、FAOの経理処理には、貸借対照表や損益計算書の概念がない。従って、減価償却の概念もない。1,500ドル以上のもの及びコンピュータ、カメラなどのattractive itemsで500ドル以上のものは備品( non expendables )として登録し、それを本部に報告し、本部の備品台帳に登録される。備品の処分については不正を防止する観点から詳細な手続きが定められている。それ以下の金額のものは消耗品(expendables)として扱われる。

4監査及び評価

 FAOには3種類の監査があり、内部監査、外部監査及び地域監査(local audit)である。内部監査は、FAO本部の監査官室の指示に従い、本部あるいは地域事務所の監査官が特定の事務所及び部署の監査を実施するもので、不定期である。日本事務所は、1999年にバンコクの地域事務所の監査官による内部監査を受け、主として適切な会計処理が行われているかどうかの監査を受けた。ローカル監査は、地方機関に対してその国の監査法人が定期的に監査を行うもので、日本事務所のローカル監査は、本部と契約した日本の監査法人が原則として1月と7月に会計処理について監査を行う。日本事務所の半年分の伝票などをチェックし、FAOの会計基準に即した適切な処理がなされているかどうか監査する。所長の意見も添えた上で、監査報告書がFAO本部に提出される。外部監査は、本部が契約した監査会社が特定の事項、たとえば、本部のテレフード募金の使途などについて監査するものである。日本事務所が外部監査を受けたことはない。

さらに、FAOの特定の事業、制度について評価を行い、理事会(加盟国)に報告する制度もある。この評価は関係国にミッションを派遣してその意見を勘案して取りまとめるのが一般的である。日本には2002年にコーデックスに関する評価ミッションが、また、2004年には日本事務所等の地方組織の活動と役割についての評価ミッションが来日している。評価ミッションの代表にはFAO職員ではなく、外部の者が任命される。

5文書処理

文書処理は、日本の政府関係機関の方式とは根本的な違いがある。書面で届いた文書は、秘書が事項ごとの分類番号を付して、所長に提出する。所長は、それを、所員の誰に回付するかを決め、また、処理する必要のあるものは担当者を指定して回覧する。メールはFAO機関からのものはほとんど所長宛あるいは日本事務所宛のアドレスに届くので、所長は、少なくとも毎朝、メールを確認し、必要に応じ所員に転送する。また、秘書は事務所宛のメールを少なくとも毎朝確認し(screening)、所長と所員に転送する。所長及び秘書はメールをどの所員に転送するかはそれぞれの判断で決める。本部の部長クラス以上は一日に400ほどのメールが送られてくるといわれており、部長が読むべきメールは秘書が選別し、その他は担当者に転送していると聞いている。

文書の保管については、文書の回覧終了後、本部が作成する事項ごとの分類番号にしたがって分類し、保管する。また、日本事務所が作成した文書で文書番号を付した正式書類は分類番号にしたがって保管する。この文書保管は所長の責任であり、取り扱い注意以外の書類は、所員がいつでも閲覧できるようにしておかなければならない。また、メールでの文書を印刷して保管するかどうかは、特別の規則は定められていないはずであり、ハードにして保管するメールは所長の判断で決めていた。

6コンピュータシステム

 FAOの全機関及び全部署はインターネットを通じた一種のWANシステムになっており、FAOの機関間の交信は、外部の者が読み取ることが非常に難しいシステムになっていると聞いている。FAO以外の外部の機関との交信は通常のインターネットで行われることになる。コンピュータは、時々故障するが、保守契約は日本では高額なので現在では行っていない。簡単な故障は秘書が補修し、それが不可能な場合はバンコクの地域事務所の専門官に修復を依頼している。

7出張旅費と前途資金

出張費用は、交通費、出張日当(daily subsistence allowance,ターミナル(terminals)で構成されており、国連組織全体に共通の制度となっている。交通費は、実費であり、飛行機を使用する場合、FAOでは、9時間を超えるフライトの場合は、ビジネスクラスの費用が支給され、それ以外は場合は、エコノミークラスである。ファーストクラスを利用できるのは事務局長のみである。一般的には、事務所で航空券等を購入し、出張者に手渡す。出張日当はDSAとよばれ、世界の主要都市ごとに物価水準などを勘案して都市ごとに異なる支給額が国連本部で定められている。DSAは、宿泊費と食費などのその他費用から構成され、都市ごとに多少違いはあるが、DSAのおおよそ50%が宿泊費となっている。しかるべき理由があって、DSAで算定されている宿泊費より高いところに宿泊した場合は、その差額を精算(travel expense claim)の際請求できる。また、ターミナルは、発着地の空港又は駅から宿舎のある都市の中心までの交通費であり、一回の移動につき一定額が定められており、都市ごとに金額の違いはない。DSAとターミナルは事前に支給され、travel advanceとよばれる。出張先で支出が予想されるその他の費用についても前途資金であるアドバンスが支払われる。出張終了後、証拠書類を添えて精算を行うが、出張報告書がないと精算を行わないことになっている。出張報告を確実なものとするため、アドバンスが少なめに支給されることになっていると思われる。

また、日本事務所の職員の海外出張はすべて本部の許可を得なければならず、旅行命令(travel authorization)は本部から出され、精算も本部で行われる。 日本事務所は、FAOの日本大使館的な要素を持っており、任務はあくまでも日本で行われるべきことから、職員の海外出張はあまり許可されないのが実情である。

8その他

 予算・支出及び管理の手続きは、諸事情が異なる世界各国に散らばる地方機関でできるだけ不正が生じないように工夫されており、その結果、本部への報告事項も多く、煩雑である。さらに、これらの手続きは管理担当の専門の職員とそれを補佐する複数の一般職で処理することを前提としており(小さな国別事務所でも管理専門職及び2から3人の一般職が配置されている)、日本事務所のように職員が所長、次長及び秘書の3人しかいない組織にとっては、きわめて負担の大きな業務である。特にこれらの業務のすべてを担当しなければならない一般職(秘書)への負担が大きくなる傾向にある。また、これらの手続きを業務の遂行に支障がない程度に理解するのに、日本事務所では開設以来、ほぼ1年半を要している。

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