日本のNGOとFAOとの連携の構築(その7)

               元FAO日本事務所長

                 橋 梯二

2000年9月初旬の横浜市での第25回FAOアジア・太平洋地域総会が終了した頃から、FAOと日本のNGOとの連携について検討を開始した。1996年の世界食料サミットにおいて、非政府組織や民間部門と積極的な協力を進めるべきことがローマ宣言に盛り込まれ、その後、本部ではNGOとの連携強化に関する政策と戦略のペーパーが作成されていた。

日本では、国際協力に携わるNGOは主なものだけでも240ほどある。オイスカ(設立61年)、アジア学院(71年)シャプラニール(72年)日本国際ボランティアセンター(80年)飢餓対策機構(81年)など大手で比較的早く設立されたNGOの多くは、食料・農業協力を中心的な業務にしている。これらのNGOはそれぞれの立場から農民研修、自然を重視した農業(有機農業、パーマカルチャー)、生活改善、マイクロクレジット、植林などの分野で活動してきた。

日本のNGO活動の歴史は浅く、従来は、国際協力に果たす役割が、一般市民からも政府からも十分には認められていなかった。従って、政府の行うODAとの連携などもそれほど意識されず、ODA資金がNGOに流れ、ODA実施の一端をNGOが受け持つということも基本的になかった。

一方、欧米においては、NGO活動が活発で、政府や国連との連携も進んでいた。ちなみに、アメリカではODA予算の約40%がNGOを通じて実施されているといわれており、オランダは経済協力予算の約10%が、スエーデンでは2国間無償の約20%がNGOを通じていた。また、NGO予算のODA予算との比率は、イギリスでは約12%、ドイツ7%(日本0.4%)であった。また、開発途上国でもインド、バングラデッシュ、アフガニスタンなど多くの国でNGOが政府に匹敵するような大きな役割を果たしている。

しかし、このような日本の情勢は1990年代に入ってから急速に変化してきた。政府のODAは金額的に世界一であったが、その実施に携わる日本人の数が少なく、受け入れ国での日本の存在感が極めて低かったこと、さらに、ODAの実施においてきめの細かい指導・協力による効率化が求められていたことなどから、近年活動を活発化させてきたNGOとの開発援助における連携の重要性が認識されるようになった。

2外務省のNGO対応の変化

外務省は、1996年にNGO・外務省定期協議会を設立し、2000年には難民支援などに日本のNGOが機動的に参加できるようNGOの団体組織であるジャパン・プラットフォームに5億円の緊急無償資金を供与することとした。難民支援や災害救済などについてはNGOが大きな役割を果たすが、日本のNGOにはいち早く活動を開始するための初期的な資金が不足していたことから、外務省と民間でNGOに対する資金支援をすることとしたものである。また、2000年度の予算として2.5億円のNGO活動支援整備のための資金を手当てし、農業国際協力に関するNGOのグループである「農業・農村開発NGO協議会(JANARD)」を200012月に組織して支援することとした。主としてNGOの情報交換や能力開発に対する支援である。さらに、教育及び保健・医療に関する国際協力を行うNGO団体も組織された。2002年度には今までのNGOに対する支援資金を整理して20億円のNGO支援無償を予算化してNGOのプロジェクトに対する無償資金の供与を行うこととした。さらに、2004年度には従来の草の根無償などを整理して草の根・人間安全保障無償(150億円)とし、海外のNGOにも資金援助できるようにした。

3日本のNGOとFAOとの連携の検討

日本事務所では、テレフード募金が順調に伸び、世界各国から寄せられる募金額総額の約20%を占めていた。この募金は、一件あたり100万円を上限とする開発途上国の貧困地帯におけるマイクロプロジェクトに投入されている。アジアでは1998年以来300を超えるプロジェクトが承認されているが、金額的には日本の募金がアジアの全てのプロジェクトをカバーしていることになる。比較的小型の草の根レベルのこのマイクロプロジェクトについてその計画作成や実施を日本のNGOに受け持ってもらうことが、日本のNGOとFAOとの連携の第一歩になるのではないかと考えた。

また、FAOでは、災害時の農業緊急救済・復興事業では、他の国連機関と同様にNGOの協力が不可欠であり、従来、ヨーロッパや国際NGOから種子の配布や、農業指導について協力してもらっていた。しかし、日本のNGOの参加は皆無であった。2000年からの東チモールの復興プロジェクト以来、日本政府はFAOのアジア、アフリカの緊急救済・復興事業や食料安全保障特別事業などの開発プロジェクトに人間の安全保障基金や無償資金から資金供与を始めた。これに応じて、日本政府の資金援助によるFAOプロジェクトに日本のNGOに参画してもらうこともNGOとの連携につながるのではないかと考えた。外務省も日本政府支援プロジェクトへの日本のNGOの参加を奨励していた。

特に、テレフードマイクロ・プロジェクトへの日本のNGOの協力は、農漁業組織、民間企業及び一般市民の協力による募金という市民社会からの資金をもとにNGOが国際協力の実施を担当することであり、いわば、民―民協力といえる。FAO協会は、政府間ベースでおこなわれるODAとは異なるこの民―民協力を推進すべきであると提案した。

以上の方針のもとに、日本のNGOとFAOとの連携の具体化を図るため、まず、食料、農業・農村開発に関する国際協力を実施しているNGOと定期協議をFAO協会及び国際農林業協力協会と共同で開催することとし、また、NGOと海外の受け入れ国との意識を高めるためシンポジウムを年内に開催することを決定し、準備に入った。

シンポジウムは121日に日本プレスセンタービルで開催し、ミヤンマー、ラオス、東チモール、タイ、などから招待した担当者から、カラモジャ、ワールド・ビジョン、JVCなどのプロジェクト及びFAOマイクロプロジェクトの紹介をしてもらい、その後、高島国連広報センター所長の司会で討論会を行った。このシンポジウムの模様はNHKの教育テレビ金曜フォーラムで放映された。

 

テレフード・マイクロプロジェクト

世界の食料問題についてできるだけ多くの人々の理解を深めるため、毎年1016日の世界食料デーを中心にFAO加盟国でテレフードキャンペーンを実施しており、このキャンペーンで募金活動も行っている。世界各国での募金がFAO本部に送られ、その資金は、管理費等に一切使われることなく、開発途上国の貧困で食料が不足している地域の所得向上と食料増産のためのプロジェクトに配分される。このプロジェクトは、一件当たり1万ドル(約100万円)を上限とするものでマイクロプロジェクトとよばれる。FAO国別事務所からプロジェクト申請が本部に提出され、本部が承認する。プロジェクトは、低コスト灌漑施設の導入や雨水の灌漑利用、小規模な養鶏や養豚、庭先野菜栽培、淡水魚の養殖、スクールガーデン、農村女性への技術指導や地位向上対策、環境保全のための農業技術普及などを目的とするものが多い。200212月現在までに、1,198件のプロジェクトが承認され、アジア・太平洋地域では690承認されている。

日本では、民間企業、農漁業団体、一般市民の協力により1998年度から2002年度までに約2.5億円の募金と協賛金が得られ、日本の募金額は世界全体のほぼ20%に達している。

 

 

4NGOとの連携強化に関する本部からの訓令

この結果を受け、日本のNGOとかかる連携を構築していくためには、FAO本部、アジア・太平洋事務所、アジア各国のFAO国別事務所の理解が必要と考え、本部と相談した。その結果、2002年12月に、カルサラード技術協力局長名で次のような趣旨の訓令がFAOのアジアの各地域機関に発せられた。

@   FAO国別事務所は、FAOテレフードマイクロプロジェクト及びその他のプロジェクトの原案作成を行う機関であるので、日本のNGOからそれらのプロジェクトへの協力及び参画について申し入れがあった場合は積極的に対応すること。

A日本政府がFAO提案のプロジェクトに資金供与をするかどうかは日本の現地大使の意見が重んじられるので、FAO国別事務所は日本大使館及びJICA現地事務所との連絡を緊密にすること

B   このような日本との連携を進めることが、FAOのプロジェクトに対する日本からの資金支援を増大させることとなる。

5NGOとの連携の問題点

また、2002年6月にはタイに、9月にはカンボジアにNGOと共同で

テレフードマイクロプロジェクト及びその他のプロジェクトの現地視察を行った。NGOとの定期協議や現地視察を通じて明らかになったのは、@テレフードマイクロプロジェクトは人件費や管理費に対する費用は計上していないことから、それらの費用はNGOの負担となること、AFAO本部から承認してもらう年間3件ほどのプロジェクトうち1件を日本のNGOのものとなってしまうのは、FAO国別事務所にとっては好ましくないこと、B緊急支援や開発大型プロジェクトでは、実績のある能力の高いNGOでなければ参画が難しいことなどであった。

 日本のNGOは、それぞれ得意の国、地域あるいは分野で長年にわたる現地に密着した協力を実施してきており、徐々にではあるが着実に実績を積み上げてきていた。FAO国別事務所の規模からすると現地との密接な接触には限界もあることから、草の根型のマイクロプロジェクトに対する日本のNGOの協力は不可欠と考えられた。また、これが日本のNGOの能力を高めることにもなると思い、困難を克服し、とにかく連携の実績を示す必要があった。

 2002年には、現地調査のほか、2回NGOとの定期協議を開催し、連携の方向を検討したほか、11月1日に、現地調査の報告などを行う「飢餓からの開放市民フォーラム」を読売ホールで開催し、再度、NHKの協力を得てテレビ放映もするなどして市民社会の理解を一層深めるよう努力した。

 さらに、農林水産省からは日本のNGOの能力開発とFAOとの連携強化の

ためのFAOに対するトラストファンド(5年間の事業)が供与された。

6NGOとの連携の実現

2003年になると、実現可能な連携は、日本のNGOが現地での活動をすでに行っている分野や地域で、それを拡大する形でFAOマイクロプロジェクトを実施することであり、また、FAOが2002年の世界食料サミット5年後会合以来重点を置いているスクールガーデンプロジェクトなどへの協力であると判断した。2003年早々、以上のような方向でマイクロプロジェクトに対する協力を希望するNGOを募り、具体的な協力計画を提出してもらった。そのうち下記の4プロジェクトが適当と思われ、NGOの現地調査と打ち合わせに対する費用を補助することとした。

@   ハンガー・フリーワールドによるバングラデッシュでの養蜂事業

A   オイスカによるフィージーでの子規模養鶏普及事業

B   サパによるギニアにおける有機農法を取り入れたスクールガーデン事業

C   21世紀協会によるフィリピンミンドロ島におけるパーマカルチャー事業

また、FAO大型プロジェクトに対する日本のNGOの参画は、アジアでは多くはないもののある程度の実績はあり、アフリカではもう一歩まで近づいているNGOがあった、アフガニスタンやスリランカに対しては、多くのNGOが積極的であった。従って、日本のNGOに対してはFAOのプロジェクト構想の情報をNGOにできるだけ早く伝えるとともに、興味あるNGOに対してはFAO現地事務所への積極的な接触を勧め、また、FAO日本事務所から本部や、現地事務所に協力依頼を行うこととした。

上記の4つのマイクロプロジェクトについては、各NGOがプロジェクト原案を作成し、現地を訪問して関係機関との打ち合わせを行った。その結果、2003年の後半までには、各FAO国別事務所長は、FAO本部に対して承認申請を行い、2004年初までに4プロジェクトすべてが本部から承認された。この間、ある国別事務所は、プロジェクトが日本に奪われてしまうのではないかと心配し、消極的であったこともあるし、有機農業についての理解が十分でなかった国もあったりして、承認までに至るまで日本事務所がかなり仲介をした。

7NGOとの連携の将来の方向

FAOの国別事務所は、平均して10人程度の事務所であり、開発プロジェクトの計画作成、実施についてはその国の政府の協力が不可欠であり、各地域の事情を詳しく知っているわけでもない。従って、特定の地域ではあるが現地と密接な関係を築いている日本のNGOにマイクロプロジェクトの計画作成と実施について協力してもらうことは、FAOのプロジェクトの効率的・効果的な実施につながる。しかし、必要な資金すべてをNGOに供与するわけでもなく、NGOの負担もかなりある。さらに、マイクロプロジェクトに関する最終的な権限と責任はFAO国別事務所にあり、日本のNGOにとって決してやりやすいものではない。このような制約はあるが、実際の協力の例を積み重ねつつ、問題点を改善していけば、多くのNGOが参加できるようになり、日本の市民社会とFAOとの連携による貧困と飢餓軽減のための大きな活動に発展していくと思う。

 

サパ(西アフリカの人たちを支援する会)によるアフリカギニアにおけるマイクロプロジェクトの実施

 

プロジェクト名

  マディナ小学校菜園の運営支援

実施地区

  アフリカギニア共和国ドウブリカ県タネネ郡マディナ村

実施者

  FAOギニア事務所: 全体計画の作成及び運営管理

  サパ: 有機肥料の生産技術及び最新栽培技術の提供

  マディナ村及び小学校:菜園場所の提供及び栽培に伴う労力の提供   

目的

  小学校生徒たちの農業知識習得

  学校菜園で得られる農作物による食料不足の補完と生徒の健康増進

   収穫増に伴う(単位当たり面積20〜30%の増収が期待できる)農作物の売却による現金収入の確保

 間接目的

  最新栽培技術の導入による村内及び周辺村の焼畑での増収

対象者

  第1受益者:マディナ小学校生徒約100

  第2受益者:マディナ村及び周辺の村民約500人 

栽培作物と面積

  稲:1000u、トウモロコシ:1000u、オクラ:500u、

トウガラシ:500u、ナス:500u

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