テレフードキャンペーンとテレフード募金(その8)

 

                    元FAO日本事務所長

                  橋 梯二

1世界食料サミットとテレフードキャンペーン

 開発途上国には8億人が日々の食料を十分に取れず、栄養不足である。5人に一人が栄養不足ということになる。また、サハラ以南のアフリカでは食料不足は深刻で3人に一人が栄養不足である。さらに、干ばつ、洪水などの自然災害や内戦などの人的災害で飢餓ともいえる状況が発生し、食糧援助などの緊急支援を国際社会に要請しなければならない国は毎年30数カ国に上っている。

 1996年11月にローマで開催された世界食料サミットに参加した180カ国以上の首脳及び政府代表は、開発途上国のこのような栄養不足の状況を容認できないとして、8億人の栄養不足人口を20年間で(2015年までに)半減させる努力をすることを約束した。この目標が世界食料サミットのローマ宣言に盛り込まれた。 また、食料サミットでは、目標を達成するためには、各国政府のみでなくNGO、民間、一般市民などの理解と協力が不可欠であると認識された。

 FAO本部は、以上のような世界食料サミットの結果に基づき、毎年1016日の世界食料デーを中心に世界的なキャンペーンを1997年から実施することとした。できるだけ多くの人の理解と協力を得るためには、テレビ等のメディアを利用したキャンペーンを行うことが有効であるとの考えから「テレビ」と「フード」を結びつけた用語の「テレフード」と命名された。従って、テレフードキャンペーンは、従来から行われていた世界食料デーの諸行事と一体的に行われることとなった。

 テレフードキャンペーンは、FAO本部が中心となり、FAO加盟国各国で実施されるものであるが、加盟国の社会・経済状況や文化もそれぞれ異なるので、統一的な方式はとらず、各国の判断による方式で実施すればよいとされた。ただ、キャンペーンは、世界の食料不足の状況に対する理解を深め、飢餓からの解放に向けた行動に対する協力と参加を促すため、テレビ、新聞などのメディアの利用、コンサートやシンポジウムなどの開催による広報活動のほか、募金活動も行うこととされた。また、俳優、スポーツ選手などの著名人のテレフードへの参加と協力を得ることも重要なこととされた。

 FAOは、今までこのような広報活動をあまり行ったことがなく、特に募金活動については、UNICEFやWFPなどと違い、恒常的には行っていなかった。FAO内部にもFAOの性格からしてこのような活動に対する反対論があったと聞いているが、世界食料サミットを契機としたテレフードキャンペーンの実施によって、FAOはより多くの人からの理解を得る活動に一歩足を進めることとなった。これは、ディウフ事務局長の判断によるものと思われる。

 テレフードが始まった1997年は、10月に日本事務所ができたばかりであり、本格的な活動を行うことはできなかった。とにかく、キャンペーンは、FAO協会と日本事務所が中心となり実施していくこととした。しかし、何ができるのか皆目見当がつかなかった。

2 JAグループのキャンペーンへの参加

 しかし、その後、日本でのテレフードの実施が比較的スムースに開始できたのは、JAグループの協力が大きい。JA全中は96年の世界食料サミットの際にローマで「家族農業者サミット」を開催することを提案し、EU農業団体連合会、米国ファーマーズ・ユニオンなどと共催で開催した。また、原田会長が共催団体を代表して食料サミット本会議で「家族農業者ローマ宣言」を報告した。このような活動を通じてJAグループは世界の食料問題とFAOの活動に対する理解を深めていた。なお、原田会長はこの機会にディウフ事務局長と親しくなり、ディウフ事務局長は来日の際には必ず全中会長を訪問するようになった。

 JA全中は、1998年に「次世代・消費者・アジアとの3つの共生運動」を推進することとし、この運動の一環としてアジアとの共生発展を目指すためFAO飢餓撲滅草の根募金運動(テレフード)の支援を3ヵ年の計画で行うことを決定した。

3 日本でのキャンペーンへの取り組み

 98年早々にFAO本部より、日本は、アメリカ、ヨーロッパ諸国とともにテレフードキャンペーンの重点実施国に指定されたとの通報を受けた。これは日本事務所もできたのでしっかり実施しろとの指令であった。日本でのテレフードキャンペーンの目標は、農業団体の支援は既に得られているので、農業関係者以外に民間企業、NGO、一般市民の参加と協力を得た幅の広い運動にすることであった。

いくつかのテレビ局を訪問し、また、広告会社などからの説明を受けたが、テレビ番組は膨大な費用をかけなければ実施できないことが判明した。番組の企業スポンサーも検討した。政府広報にも当ってみた。さらに、日本事務所の検討を聞きつけた広告会社から、コンサート、シンポジウム、募金などの企画の提案もあったが、どれも膨大な原資がなければ実現できるものでなかった。原資がなくてもできるという外国系の会社もあったが、危険が大きすぎた。

4 新聞及び雑誌でのキャンペーン

 そこで、新聞を利用したキャンペーンができないかどうか検討を始めた。読売新聞社の協力で紙面に世界の食料問題の現状を記事にし、併せて募金広告も紙面で行うという構想である。新聞広告費用については、スポンサーとして民間の企業から協力を得ることとした。食品会社を中心にお願いに回った。当時バルブの崩壊で日本経済は停滞し、企業収益は一般には良くなかったにもかかわらず、いくつかの企業はテレフードキャンペーンに理解を示し、協力を得ることができた。新聞紙1ページを使うこの紙上キャンペーンは、FAO協会が毎年開催する世界食料デーのシンポジウムに合わせて行うこととした。これによって民間企業の支援(参加)によって、多くの市民に世界の食料問題への理解と協力(募金)を訴えることができる足がかりが得られた。

 雑誌では、FAOの職員が国際会議で訪日した際に農村婦人問題について取材記事を掲載してもらった。以後、記事やニュースになりうることがあればその都度、雑誌社、新聞社、テレビ局等に依頼した。

1998年のキャンペーン開始以来2003年までに新聞広告に対する協賛を得た民間企業及び団体は、味の素、伊藤ハム、カーギルジャパン、カゴメ、キッコーマン、キューピー、JAグループ(JA女性組織、JA−Youthを含む)、JFグループ、大日本水産会、日清製粉、日清オイリオ、日本ハム、日本ソムリエ協会、ハウス食品、ホンダ、明治乳業、山崎パン、雪印乳業などで、これらの企業などがテレフードキャンペーン全体の協賛団体となっている。20016月ディウフ事務局長が来日した際は、協力に対する感謝を伝えるため、これらの企業などの代表者との懇談の機会を持った。

5 テレビでのキャンペーン

 テレビでのキャンペーンは、政府広報番組以外は、1998年中は実現しなかった。民間のテレビ局に打診してみたが、ニュース番組以外は、膨大な費用がかかり、日本事務所の能力を超えるものであった。1999年になってから、NHKに対してモンゴルにおけるテレフードプロジェクトによる学校菜園の取材番組を提案した。また、同年ディウフ事務局長訪日の機会に、海老沢NHK会長を訪問してもらうこととした。このようなこともあり、1999年に初めてテレビ放映が実現した。以後、NHKからの協力が次第に得られるようになり、日本政府支援の東チモールでのFAO種子生産プロジェクト、カンボジアのテレフードプロジェクトなどを取材した番組が放映されるようになった。

 また、1999年及び2000年には、FAO協会が行う世界食料デーシンポジウムの討論の模様がテレビ放映され、また、2001年及び02年には日本事務所とFAO協会主催の飢餓からの解放市民フォーラムのシンポジウムの模様が1時間番組として放映されるようになった。 さらに、テレフードコンサートについては2001年から毎年1時間番組で放映されている。2002年に行われたFAO本部主催のモナコでのルチアーノ・パバロティのテレフードコンサートも放映された。

合計すると、毎年2から3時間テレフードキャンペーンに関する番組の放映がNHKで行われるようになった。さらに、政府広報の支援もあってテレビ神奈川で時々FAO日本事務所の活動などが全国ネットで放映された。

6 シンポジウムの開催

 シンポジウムの開催は、新聞紙上キャンペーンとともにテレフードの中核である。FAO協会主催の世界食料デーシンポジウムをキャンペーンの中心的な行事とし、ここで、農林水産大臣の祝辞及びディウフ事務局長のメッセージが伝えられる。このシンポジウムに参加するのは、どちらかといえば、農業関係者が多いので、日本事務所は、NGO、民間企業、農漁業者、一般市民など市民社会を対象としたシンポジウムを開催することとした。

2000年までは、地方都市で行われる食の祭典などの機会にシンポジウムを開催し、98年は、富山市で行われた「食祭とやま‘98」でバンコクのFAO地域事務所から講師を招いてシンポジウムを行った。

2000年の横浜市でのFAOアジア・太平洋地域総会が終了した頃から、日本事務所で本格的なシンポジウムの開催を計画した。その結果、2001年にFAOと日本の市民社会との連携の構築を主なテーマとしてNGO、民間、アジア諸国のプロジェクト担当者などが参加する「草の根レベル飢餓からの解放シンポジウム」をプレスセンターで開催した。また、2002年には、テレフード募金の資金による開発途上国でのマイクロ・プロジェクトの実施を日本のNGOが担当できるかどうかを中心に「飢餓からの解放市民フォーラム」を読売ホールで開催し、テレフードを通じた民間レベルの飢餓からの解放運動を推進することとした。両シンポジウムともテレビ放映が行われた。

2002年の後半には、地元の横浜市民との連携を強めるため、「よこはま国際子ども食料会議」を2003年に開催することを計画し、準備に入った。子供による会議は、事前学習と体験が必要であった。横浜市、教育委員会、小中学校、NGOの協力を得て、児童・生徒の春の田植え、夏の合宿農業体験、秋の大使館の協力によるアジア、アフリカ4カ国の日常食の料理と試食などを行い、12月に子ども会議を行った。会議では「横浜子ども食料会議 子ども宣言」がまとめられた。この機会に子供向けの小冊子「大きな地球のテーブルで」を作成した。 

注:「大きな地球のテーブルで」はFAO協会から500円で発売されている。

また、2003年には第3回東京アフリカ開発会議(TICADIII)のサイドイベントとして、日本大学生物資源科学部との共催で、「アフリカの食料安全保障に関するシンポジウム」を10月に開催した。

7 テレフードコンサートの実施

テレフードコンサートは、199912月に横浜ララポートではじめて行われた。日本事務所ではコンサート開催の経験がなかったので、小規模なものから実施した。2000年になると、新進気鋭のピアニスト西本梨江さん、中国人の二胡奏者ジャー・パンファンさんなどのグループからの申し込みがあり、テレフードコンサートとして位置づけ、  20013月と10月に横浜でコンサートを開催した。以後毎年テレフードキャンペーンの時期にこのグループのコンサートを開催している。2001年にはゲストとして浜美枝氏、2002年には見城美恵子氏、2003年には葉祥明氏をお願いした。このテレフードコンサートは年々充実してきており、200311月にみなとみらい大ホールで開催したコンサートには1200人を超える来場者があった。

なお、200110月のコンサート以来このテレフードコンサートは、1時間ほどにまとめられたテレビ番組がNHKから毎年放映され、横浜市の市民のみでなく、全国の多くの人に対して飢餓からの開放の努力への参加が呼びかけられている。

2003年には、ピアニストの西本梨江氏をテレフードキャンペーンの準親善大使に任命した

8 テレフード募金

 テレフード募金は、世界各国で行われ、募金はFAO本部にすべて送られ、低所得・食料不足国で実施される一件当たり1万ドル(110万円)を限度とする比較的小型のマイクロ・プロジェクトに投入される。FAOの国別代表がその国の政府などと協議してプロジェクト案を作成し、本部に提出する。本部から承認されたものに資金が配分される。

 注:マイクロ・プロジェクトがどのようなプロジェクトかについては、11月号を参照されたい。

 日本では、JAグループとJFグループ(全漁連グループ)内でテレフード募金活動を実施してもらっている。その他は、前述の新聞キャンペーン、コンサート、その他のイベントなどで募金を呼びかけている。一般市民からの募金は、主として郵便局を通じてFAO協会に振り込まれる。FAO協会は特定公益増進法人として所得税及び法人税の免税措置ができるので募金と協賛金はすべてFAO協会に振り込まれる。 

テレフードキャンペーンを始めてから、日本では食料がありあまっているが、開発途上国では、多くの人が食料不足であることについての理解が徐々にではあるが高まってきていると思われ、募金が次第に増加してきている。日本の募金は協賛金も含めると2003年までに2億円を超えており、全世界からの募金の約2割に達している。200212月までに承認されたプロジェクトの数は、アジア・太平洋で249、アフリカ513、中東・北アフリカ145、ラテンアメリカ・カリブ諸国223、ヨーロッパ71で、世界合計は約1200である。従って、日本の募金はアジア・太平洋地域のほぼすべてのプロジェクトの資金をカバーしていることになる。

募金がどのように使われているか丁寧な報告をすべきであるが、2002年度で一般から募金に応じてくれた人の数は、 人に達しており、募金者に対する報告はまだ十分でないと感じた。今後の課題である。

       テレフード募金及び企業協賛金                                                       単位 千円

 

1998

1999

2000

2001

2002

2003

 募金及び 協賛金

35,481

 

45,727

 

74,660

 

44,823

 

53,337

 

38,663

 

 9 おわりに

以上のように、テレフードキャンペーンは、農漁業団体、民間企業、NGO、一般市民のほかメディアの協力を得て、日本事務所とFAO協会が共同で実施してきた。また、政府からの支援も受けてきた。日本での募金が世界の20%になっているところを見ると、日本のキャンペーンはそれなりに充実したものになっていると思われる。しかし、テレフードを含む日本事務所の広報はまだ十分でないと感じられる。

開発途上国のうちでも、サハラ以南のアフリカなどの最貧国では、貧困と食料不足は、いっこうに改善されず、むしろ、グローバリゼーションの進行のなかで、世界の進歩から取り残されるようになっている。このことがテロを生み、世界の平和を乱す要因にもなっている。日本政府は、農業の開発と食料援助に莫大なODA(政府開発援助)を投入しているが、これは国民の税金であり、国民の十分な理解の上になされなければならない。また、貧困と飢餓に対処し世界の安定と平和を維持していくことについて市民社会は、政府のみに任せ、無関心でいることはもはやできなくなっている。現に、NGOの貢献は重要になっており、民間企業もいろいろな形で世界に貢献している。

募金の金額は、政府のODAに比較すると少額ではあるが、個人の募金がたとえ100円であったとしても、その人が世界の食料問題に関心を持つきっかけであり、大きな意味を持つものと思う。

テレフードキャンペーンは、このような考え方で実施してきており、貧困と飢餓からの解放の世界的な努力と日本の市民社会を結びつける有効な手段であり、今後とも一層充実していくべきものと思う。

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