アメリカの食品トレーサビリティ

            元国連食糧農業機関日本事務所長

高橋 梯二

食品のトレーサビリティは、古くは1935年に成立したフランスの統制原産地呼称法によってワインの原産地表示の信頼性を確保するため生産から消費に至るまでのトレーサビリティが制度化された。以後、フランスの公的品質証明制度などに部分的に導入されたが、1986年に欧州に発生したBSE汚染の深刻化によって、牛肉のトレーサビリティ確保を義務付ける法律や規則が1997年にフランスで、2000年にEUで導入された。さらに、2002年に成立したEUの食品法の一般原則を定める規則では、すべての食品と飼料についてのトレーサビリティが食品安全の確保の基本的事項と位置づけられ、トレーサビリティが事業者の法的義務となった。

しかし、トレーサビリティは食品の安全確保にとって不可欠なものかどうかとの疑問もあり、また、方法によっては、関係事業者に大きな負担を強いるものでもあるので、世界では異論も多く、アメリカは否定的な見解をとってきた。日本では、牛肉以外は、トレーサビリティは法的な義務とはされず、民間の自主的な取り組みで実施されるべきものとの位置づけとなっている。

アメリカでは20019月に発生したテロ事件を契機として、バイオテロリズム法が2002年に成立し、そこでは食品の安全が国の安全を確保するための重要事項と認識され、輸入食品を中心に食品安全措置が強化された。その一つとして食品と飼料に関するトレーサビリティが導入され、2005年から施行された。また、2002年農業法によって食品の原産国表示が義務付けられ、アメリカ国内産を含み原産国表示対象産品についてはトレーサビリティが導入されることになっている。原産国表示の本格的な施行は2008930日の予定である。本稿ではこれらのアメリカのトレーサビリティの概要について解説する。

なお、アメリカのバイオテロリズム法及び農業法並びにそれらの関連規則において、「トレーサビリティ」という表現は使われていないが、両法律に定められているのは、記録を付け、保存し、必要な場合に当局が閲覧・検査して産品の追跡を可能とする制度であるので、本稿では「トレーサビリティ」という表現を用いている。1

I バイオテロリズム法による食品トレーサビリティ

 2002年に成立したバイオテロリズム法(The Public Health Security and Bioterrorism Preparedness and Response Act of 2002)では、食品の安全対策として、輸入事前通報制度、アメリカへの輸出施設登録制度及び記録・保存制度(トレーサビリティ)が導入された。このトレーサビリティ制度については、その後、詳細な規則が検討され、200412月には最終規則(Final Rule on Establishment and Maintenance of Recordsが制定された。この規則は、中小企業と零細企業を除き200512月から施行された 2)。その骨格は、食品(飼料及びペットフードを含む)について農業以降の食品チェーンすべての関係事業者が直前及び直後の事業者との取引の記録を付け、保存することによって、食品の安全が脅かされているときあるいは脅かされそうなときに、当該食品の川上あるいは川下を追跡できるようにし、このため、FDAに対して必要に応じこの記録を閲覧・検査し、あるいはコピーできる権限を与えたことである。

1 記録及び記録保存義務者

 アメリカの事業者及び個人であって、対象産品を生産し、加工し、パックし、輸送し、流通させ、受け取り、保持し、輸入している者が取引にかかる必要事項を記録し、それを一定期間保存する義務がある。外国人であっても食品をアメリカに輸送する者は対象となる。この制度は食品チェーンのほぼすべての者を対象としている。また、食品テロも意識したものであり、食品を輸送する者に対しても記録・保存義務を課しているのが特徴である。

 記録・保存義務の対象から除外される者は、

  農家、外国人(ただし、アメリカに食品を輸送する者は対象となる)、レ ストラン、もっぱら

  USDA所管の食品(牛肉、豚肉、鶏肉等)を扱っている事業者、個人の消費のために生

  産等をしている者、特定の個人消費者のために産品を受け取り、所有している者、商業

  行為を行っていない者などである。

 また、消費者に食品を直接提供している者は、直後の引渡し先についての記録をし、保存する義務はない。また、消費者以外の者に食品を供給している小売事業者は、情報把握が可能な場合には、直後の引渡しに関する記録を作成し、保存しなければならない。

 なお、記録を作成し、保存する義務はないが、FDAの関連資料閲覧・検査の対象となる者は、加工を行っていない漁船、10人以下の雇用の小売事業者、非営利団体、食品の容器包装の生産、流通などを行っている者である。

2トレーサビリティ対象産品

 バイオテロリズム法に基づくトレーサビリティの対象産品はFDA(食品・医薬品局: Food and Drug Administration)所管の農産物・食品及び飼料である。つまり、対象産品は連邦食品・医薬品・化粧品法Section 201 (f)に定められた「食品」であり、その法律上の定義は「人間及び他の動物に対する食品又は飲料、チューインガム及びこれらの産品の原材料として使用されるもの」となっている。従って、農務省所管の肉類及び肉製品は対象になっていない。これらの農務省所管産品についてはFDAに記録閲覧・検査の権限を付与することができず、農務省FISIS(食品安全検査局)が対応することになっているからと思われる。なお、飼料やペットフードも対象になっていることに注目しなければならない。トレーサビリティの具体的な対象産品の例示は、次のとおりである。

 補助食品及び栄養食品材料

   乳児用粉ミルク(infant formula)

   飲料(アルコール飲料を含む)

   果実及び野菜

   魚及び海産物

   乳製品及び殻つき卵

   食品あるいは食品の材料として使われる農産物

   缶詰及び冷凍食品

   ベーカリ食品、スナック食品及びキャンディ類(チューイ   ンガムを含む)

   生きた食用動物(家畜及び捕獲された狩猟動物)(live   food animal

   家畜飼料及びペットフード

3 記録事項 

(1)輸送業者以外の記録・保管義務対象事業者は、

ア.輸送業者を除く直前の供給業者に関して、事業者名、住   所、電話番号、ファク
ス番号、Eメールアドレス、ブラン   ド名や特別の種類を含む食品のタイプ(たとえばブラン   ドXのチェダーチーズ、ロメインレタスなど)、受領した   日、量、容器包装のタイプ(12オンスボトルなど)を   記録しなければならない。直前の供給に関する輸送業者   に関しては、企業名、住所、電話番号を、また、情報把握   が可能であるならば、ファックス番号、Eメールアドレス   を特定し、記録しなければならない。なお、食品を生産   し、加工し、パックしている者は、ロットやコード番号   、その他産品を特定できる事項をこれらの記録に含めなけ   ればならない。

イ.直後の受け取り業者に関して、事業者名、住所、電話番号、ファックス番号、Eメールアドレス、ブランド名や特別の種類を含む食品のタイプ、引き渡した日、量、容器包装のタイプを特定し、記録しなければならない。また、直後の引渡しの輸送業者に関しては、企業名、住所、電話番号を、また、情報把握可能であるならば、ファックス番号、Eメールアドレスを特定し、記録しなければならない。

なお、食品を生産し、加工し、パックしている者は、ロッ   トやコード番号、その
他、産品を特定できる事項を記録   に含めなければならない。また、これらの記録には、最   終製品の各ロットを作るために使われた各原材料の出所を   特定しなければならない。

(2)輸送業者は、食品の所有者又は管理者がアメリカ人であろうと外国人であろうと、対象産品について、輸送の出発地及び輸送先地、輸送業者の直前の対象食品の発送者の名前、直後の受取人の名前、荷の受け取り及び配送の日付、容器の数、輸送運賃についての記述などを含む記録を付けなければならない。

4 記録の方法

 記録の仕方は特定されておらず、必要な記録がなされていれば、書面、あるいは電子ファイルなどどのような方法でもよいことになっている。したがって、既存の記帳で要求されている事項が記録されていれば、それで足りるとされている。

5 記録の保存期間

 記録の保存期間は、原則として対象産品の日持ちの程度に応じて決められており、次のとおりである。

(1)60日以内で、腐敗(spoilage)、栄養価(value)の低下、風味(palatability)の劣化

      の危険が高い食品については、輸送業者以外は6ヶ月、 輸送業者は6ヶ月

(2)60日以上6ヶ月以内で、腐敗、栄養価の低下、風味の劣化が生じる食品については、輸送業者以外は1年、 輸送業者は1年 

(3)6ヶ月を超えて、腐敗、栄養価の低下、風味の劣化が生じる食品については、

   輸送業者以外は2年、 輸送業者は1年

(4)ペットフードを含む飼料については、

   輸送業者以外は1年、 輸送業者は1年

6 FDAの記録閲覧・検査

FDAがある食品が人間あるいは動物に対して深刻な健康上の脅威となると信じる合理的な理由がある場合は、FDAが閲覧・検査できる記録や情報が用意されていなければならない。これらの記録や情報はFDAの要請があったときから24時間以内に用意されていなければならないことになっている。これによれば、FDAは、記録を閲覧できるばかりでなく、必要に応じてその他の関連資料を閲覧及び検査できることとなる。また、FDAは、記録作成義務のない者に対しても、一定の範囲内で資料閲覧・検査することができる。

FDAが閲覧・検査できる情報から除外されるものは、レシピ、資金に関するデータ、価格決定に関するデータ、個人に関するデータ、販売データなどである。レシピとは、ある食品を生産するための方法に関するもので、原材料や、量、その他の必要な情報である。従って、単なる原料に関する情報や量に関する情報は閲覧対象となる。

FDAの閲覧・検査の手続きとしては、FDAの検査官や資格を与えられたFDA職員が事業者に対して検査通知(FDA482)を行う。また、FDAは、問題となっている食品に関する追加情報の提供を後に受けることができる。また、閲覧・検査によって得た情報は、企業の秘密に属するものもあり、どの程度公共に開示できるかが問題となる。公共への情報開示については、「取引機密法18U.S.C.」、「連邦食品・医薬品・化粧品法 21 U.S.C.331(j)」、「情報自由法(5 U.S.C. 552)及びFDA情報開示規則(21 CFR Parts 20 及び21)によって規制されている。従って、FDAの職員は、取引上の秘密事項や商業上の秘密情報などを保持し、許可なくしてこれらを公表することに対する規制などを遵守しなければならない3)

7 罰則 

 バイオテロリズム法は、記録を付け、保存しなかったり、FDAの閲覧・検査等を拒否したりした場合は、法律違反としている。連邦政府は、違反行為を行った者に対して連邦裁判所に対して民事訴訟を行うことができる。また、連邦政府は、違反者に対して連邦裁判所において刑事責任を追及できる。 

8 施行

 この規則は2004年12月9日から12ヶ月以内に中小及び零細企業を除くすべての事業者に対して発効する。中小企業(11から499人のフルタイム相当従業員)に対しては、この日から18ヶ月以内に発効する。また、零細企業(10人以下の従業員)に対しては、24ヶ月以内に発効する。

                             

1) アメリカは、トレーサビリティについては、食品の安全確保にとって絶対必要というものでなく、かえってコストを増大させるという理由から、否定的な態度をとってきた。しかし、食品の安全を確保し、消費者に安心感を与えるため、あるいは原産国表示のような表示の信頼性を確保するには、トレーサビリティが必要であると判断したと思われる。

2) 適用法律:The Public Health Security and Bioterrorism Preparedness and Response Act of 2002,   Section 306
   適用規則:Final Rule on Establishment and Maintenance of Records 69 FR 71561
本規則の和訳は、JETROのサイトに公開されている。

3) 取引機密法:Trade Secret Act, 18U.S.C.1905
   連邦食品・医薬品・化粧品法:Federal Food, Drug and Cosmetic Act, 21 U.S.C.   情報自由法:Freedom of Information Act, 5 U.S.C.

4) 実施命令12866(Executive Order 12866)に基づき、費用・便益分析が行われた。これによれば、制度習得、記録、記録保存などに係るコストは、年間約14億ドルと推計され、関係する企業100万社と見積もられている。  なお、この制度から得られる便益は、早く問題ある食品を追跡して、食品による健康被害が軽減できることが主なもので、価値にすると約800万ドルから2,500万ドルと推計されている。

                                 

参考資料

Public Health Security and Bioterrorism Preparedness and Response Act of 2002
Final Rule on Establishment and Maintenance of Records, 69 FR 71561
Fact Sheet on FDA’s New Food Bioterrorism Regulation: Establishment and Maintenance of Records

参考

 バイオテロリズム法トレーサビリティ該当条文概要の翻訳

Section 306 食品に関する記録の保存及び検査

  食品に不正(不純物等の混入)があり、人間や動物の健康に深刻な悪影響や死の危険があると合理的に信じる理由がある場合は、記録にアクセスできる権限を長官に付与するようChapterIVを改正する。これは、食品の製造、調製、包装、流通、受領、保持、又は輸入に関するすべての記録に適用する。また、これは、レシピ、資金に関するデータ、人事に関するデータ、試験研究に関するデータ、及び販売に関するデータ(取引上の商品の移動に関するものを除く)を除外する。

  本法の施行から18ヶ月以内に、食品の直近の受け入れ先及び直後の供給先の確定に必要な記録とその保存を要請するため、最終規則を作成し提案することを長官に要請する。

  規則を作成するに当たり、企業の規模を考慮するよう、長官に命ずる。

  微妙な情報の開示からの保護を確保する適切な措置をとるよう長官に命ずる。

  長官に対して記録へのアクセスを付与する要請を反映するようSection 704を改正する。

  要請された記録へのアクセスやコピーを拒否したり、要請された記録とその保存を実行しないことは禁止された行為とするため、Section 301を改正する。

                            


この概要の原文は、FDAのサイトに記載されているものである。なお、Section 306の全文の和訳は、JETROの次のサイトに公開されている。
http://www.jetro.go.jp/world/n_america/us/bioterrorism/pdf/Bioterrorism_act_jp.pdf

                                                                                            
II 食品原産国表示とトレーサビリティ

 アメリカでは食品の原産国についての消費者への情報提供を行い、消費者の選択の幅を広げるため、2002年農業法(2002年農業保障・農村投資法:The Farm Security and Rural Investment Act of 2002)において牛肉、子羊肉(lamb)、豚肉、魚、生鮮農産物(野菜及び果実)及び落花生について小売段階で食品に原産国表示することを義務付けた。また、この表示の信頼性を確保するため、直接であれ間接であれ小売事業者に表示義務対象産品を供給する者は、その取引における直近の出入に関する記録を行い、また、原産国について供給先に通知することも義務付けられた。さらに、農務省に対してこれらの記録を必要に応じて閲覧できる権限を付与した 1)

この規則は、2004年9月30日から施行されることになっていたが、事業者に大きな負担を強いる制度でもあるので、異論も多く、魚及び貝類については20054月、実施されることとなったが、2004年1月、その他の品目については実施が延期されることが決定され、さらに、2005年11月の公法によって20089月まで再度延期された  2)

 また、2008年農業法(2008年食料・保全・エネルギー法:Food, Conservation and Energy Act of 2008)では原産国表示義務の対象産品を拡大し、鶏肉、山羊肉、朝鮮にんじん、ペカンの実及びマカダミアナッツが追加されたが、2002年農業法及びそれに基づく規則案(2003年作成)は、事業者の負担を軽減する方向で修正され、暫定最終規則が8月に公布され、対象産品全品目の施行は、2008930日の予定である。

 以下、本稿では、魚及び貝類を除く食肉及び農産物の対象産品の原産国表示及びそのトレーサビリティについて解説する。

1 原産国表示義務の対象となる小売事業者

 原産国表示をすべき小売事業者は、生鮮農産物(perishable agricultural commodity)を販売している1930年生鮮農産物(PACA)に基づく認可を受けた小売業者である。また、生鮮農産物とは、生鮮及び冷凍の果実及び野菜で、1930年生鮮農産物法(PACA)に定義されているものである。また、同法(PACA)によれば、年間の生鮮農産物の仕入額が230千ドルを超える小売事業者は、認可を受けなければならないことになっている(約36,000店舗)。食肉店(butcher shop)、魚市場(fish market)など、果実や野菜を販売していない事業者は、PACAの小売事業者の定義には入らず、原産国表示義務の対象外となる。また、レストラン、カフェテリア、食品スタンドなどの外食産業施設は、原産国表示義務の適用除外となる。

2 原産国表示義務の対象となる食品

 対象食品は、牛肉(子牛を含む)、子羊肉(lamb)、鶏肉、山羊肉、豚肉及びそれらのひき肉、天然及び養殖の魚及び貝類、生鮮農産物(生鮮及び冷凍の野菜及び果実)、マカダミアナッツ、ペカンの実、朝鮮にんじん及び落花生である。チーズ等FDA所管の産品は、対象になっていないことに注意しなければならない。しかし、生鮮農産物や、魚、貝類は、FDA所管産品であっても、原産国表示義務の対象産品となっている。

 また、法律によれば、表示義務対象産品であっても、加工食品の原材料の場合は表示義務から除外される。加工食品の定義が規則に定められており、それによれば、特定の加工によって産品の特徴(character)が変化した場合、または、他の対象産品が一つ以上混合されているか、その他の原材料が相当程度含まれている場合は、加工食品とみなされる(たとえば、チョコレート、トマトソース、パン粉づけなど)。ただし、水、塩、砂糖などが添加されている場合は、加工食品とはみなされない。食品の特徴を変化させる特定の加工とは、料理すること(油で揚げること、焼くこと、ボイルすること、蒸すこと、ローストすることなど)、調製(塩漬け、砂糖づけ、乾燥など)、燻製及び構造改変(乳化、押し出し加工)などである。従って、原産国表示から除外される産品を例示すれば、ミートローフ、ミートボール、整形ステーキ、パン粉づけした子牛肉、コーンビーフ、ソーセージ、照焼、レタスとドレッシングパックのついたミックスサラダ、レタスとにんじんのミックスサラダ、メロン、バナナ及びいちごが入ったフルーツカップ、野菜が数種類入った袋などである。

 以上の表示の義務がなくなる加工の定義を見ると、2003年に公表になった規則案よりも大幅に加工の定義が拡大し(たとえば、規則案では「料理すること」は加工の定義に入っていなかった)、表示義務の対象外となる産品が拡大している。 

3 原産国表示の基準

 原産国をアメリカと表示する場合は、生鮮農産物、朝鮮にんじん、ペカンの実、落花生、マカデミアナッツについては、アメリカで生産されたものでなければならない。牛肉等肉類については、その家畜がアメリカで生まれ、飼育され、屠殺されたものでなければならない。

 家畜がA国から輸入され、アメリカでの屠殺が輸入直後でなければ、その食肉の原産国は「アメリカ、A国」と表示される。飼育された国がA国の前にB国であったと確認された場合は、「アメリカ、A国、B国」と表示する。家畜がA国から輸入され、輸入直後にアメリカで屠殺された家畜からの食肉である場合は、その原産国は「A国、アメリカ」と表示する。

 同一の対象産品で、複数の原産国のものが混入されているものについては、現行のCBPCustom and Border Protection)販売規則(19 CFR part 134)に従って、原産国表示がなされなければならない。つまり、生鮮農産物などの農産物については、混合によって実質的に加工食品となっていない場合は、すべての原産国を表示しなければならない。

 消費者への販売の時点でバルクのコンテナ等に入れられている産品について複数の原産国がある場合は、可能性のあるすべての原産国が表示されなければならない。

 輸入された対象産品が、輸入時点で消費者用に包装されている場合は、1930年関税法によって個々の包装に原産国表示がなされていなければならないことになっている 

 産品の包装を消費者が見る前に、購入される対象産品(たとえば、インターネット販売、宅配)については、小売事業者は、消費者に産品が届けられた時に原産国を知らせるようにしなければならない。

4 小売段階での原産国表示の方法

 原産国表示は、ラベル、張り紙、プラカード、バンド、スタンプなど、よく見える方法で対象産品あるいは対象産品の容器包装になされなければならない

 一般的には、原産国名の簡略形は認められないが、CBPで認められている「U.K.」、「Luxemb」などは認められる。また、「Produce of the USA」、「Grow in Mexico」などの表現もCBPの規則に定められた範囲で認められる。旗などのシンボルでの原産国表示は認められない

 国産の生鮮農産物等の農産物については、国の名前にかえて、州、地域の名前の表示が認められる。2003年の規則案では、州や地域の名前の使用は禁止となっていたが、2008年農業法によって認められたものである。

 原産国を表示する場所や大きさは特定されていないが、読みやすく、明確に表示されていなければならない。たとえば、栄養成分等を表示している情報パネルに記載することも可能であるが、容器包装のラベルの上の方または基本表示パネルに記載することが望ましいとされている 

5 州の原産表示制度との関係

現在、アラバマ州、アーカンソー州、ミシシッピー州及びルイジアナ州では一定の海産物について原産表示義務がある。また、ワイオミング州、アイダホ州、北ダコタ州、南ダコタ州、ルイジアナ州、カンザス州、ミシシッピー州では一定の食肉製品について原産表示を義務付けている。さらに、フロリダ州とメーン州では生鮮農産物について原産表示を義務付けている。

 州の表示制度がこの連邦規則が対象としていない産品を扱っている場合は、州は、その規則をそのまま運用し得る。州の制度がこの連邦規則の対象産品と同じ産品を対象としている場合は、連邦規則が優先する。しかし、連邦規則の優先は、ワシントンりんごやアイダホポテトのような商品販売計画には適用とならない。

 法律では、連邦規則の優先が明確に規定されていないが、議会は連邦制度の優先を意図していたとされる。法律は、連邦農務長官に対し、州との連携を奨励している。

6 供給業者及び小売事業者の記録義務(トレーサビリティ)

 原産国表示義務対象産品を、小売事業者に対して直接であれ、間接であれ供給している事業者は、供給先に対してその産品の原産国を知らせなければならない。また、供給事業者は、直前の購入先と直後の供給先を確認して記録し、取引の日から起算して1年間それを保存しなければならない。この記録保存期間は、規則案では2年となっていたが、最終規則では1年に短縮された。また、最初に原産国を特定する供給事業者は、その原産国を立証できる記録を保存するか、アクセスできるようにしておかなければならない。牛肉、子羊肉、鶏肉、山羊肉及び豚肉については、生産者の宣誓書(affidavit)は屠殺場が原産国を最初に特定する場合の証拠として認められる。また、国家家畜識別システムNAIS)や、その他の家畜識別システム(たとえば、カナダ及びメキシコの公的システム)も同様に原産国を示す証拠として認められる。小売事業者は、対象産品、供給業者等を記録しなければならない。小売事業者が原産国を表示する場合は、小売時点の原産国表示の証拠となった記録と必要な書類を保存しなければならない。この記録と書類は、原産国表示を行った日から起算して1年間保存しなければならない。

ラベル表示のある産品については、ラベル自身が産品の原産国を証明するものとなる。ラベル表示は、最初に原産国を特定する製造企業あるいはバルクの原料を使用して小売用に加工したり、パックしたりする事業者によってなされる。また、ラベル表示の産品は、USDAが原産国を最初に特定した供給業者の産品にまで追跡できるに足る十分な情報がなければならない。

 供給事業者及び小売事業者の記録は、どこに保存してもよい。

7 農務省の権限と罰則

 農務長官は、必要な場合には、供給業者及び小売事業者の記録の提示を求めることができ、事業者は、要請のあった日から労働日5日以内にそれを提示しなければならない。

 農務長官は、また、対象産品を小売用に調製し、貯蔵し、取扱い、流通させている者に対して、法を遵守しているかどうか監査することができる。

 2008年農業法は、農務長官が通常の取引で保存される記録以上の追加的な記録を事業者に要求することを禁止している。

Section282(表示義務、記録義務、情報提供義務)に違反がある場合は、農務長官は、小売事業者及び小売事業者に対象産品を供給している事業者に対し、改善を命じることができる。30日以内に改善がなされない場合、聴聞の機会を事業者に与えた上で、罰金を科すことができる。この罰金は、違反事項ごとに1,000ドル以下である。2002年の農業法では、罰金は10,000ドル以下となっていたが、2008年農業法によって1,000ドル以下にまで引下げられた。

また、この罰則を供給事業者及び小売事業者に適用する場合は、事業者が意図的に原産国を誤用した等の意図的違反の場合であるとされる。

                                              


1) 法律該当条文

・ 2002年農業法 Subtitle D-Country of Origin Labeling, Section 281-285
  ・ 2008年農業法 Section 11002 

2) 延期の経過及び適用規則

 ア.施行延期の経過  

04127日公法108199によって天然及び養殖の魚及び貝類以外は実施を06930 日まで延期
051110日公法109-97によって天然及び養殖の魚及び貝類以外は実施を089月まで延

 イ.適用規則

200881日付け牛肉、子羊肉、豚肉、鶏肉、山羊肉、生鮮農産物(野菜及び果実)、落花生、ペカンの実、朝鮮にんじん、及びマカダミアナッツに関する暫定最終規則(Mandatory Country of Origin Labeling of Beef , Pork, Lamb, Chicken, Goat Meat, Perishable Agricultural Commodities , Peanuts, Pecans, Ginseng, and Macadamia Nuts; Interim Final Rule, 7CFR Part65)

  2004105日付け魚及び貝類に関する暫定最終規則( Mandatory Country of Origin Labeling of Fish and Shellfish; Interim Rule, 7CFR Part 60)

3)原産表示を義務付けている連邦法

  現行の関税法( Tariff Act of 1930)によれば、食料品を含むほとんどの産品について最終購入者に 対して原産国を示す表示をしなければならないことになっている。しかし、「最終購入者」とは産品が輸入されたときと同じ状態のものを最終的に購入する者とされており、その後小分けされるなどしてあるいは加工されて消費者に販売される場合は消費者に対する原産国表示義務はない。

  ・現行の連邦食肉検査法Federal Meat Inspection Actによれば、すべての輸入食肉製品について   輸入されるコンテナに原産国を表示しなければならないことになっている。この規則によれば、輸入   される産品がそのまま消費者に販売されるように消費者用包装になっている場合は、個別の包装に   原産国が表示されなければならない。

4) 表示場所

食品の表示規則は、21CFR101に総合的に定められている。それによると、購入者が最初に見るものとして、食品名や量などを記載した基本表示パネル(Principal Display Panel)と原材料リスト、栄養成分表示などを記載した情報パネル(Information Panel)に分けて表示することになっている。また、農務省所管の食品の表示は許可制となっている。

5)便益・費用分析

実施命令12866(Executive Order 12866)に基づき、USDAは、原産国表示制度の費用・便益分析を行った。これによれば、便益は小さいとされている。また、費用については、導入初年度のコストは、事業者に係るものが25億ドルで、産品の価格の上昇や、生産の減少などによる10年後のアメリカ経済に与えるコストは、2〜6億ドルと推計されている。

                                               

参考資料

 ・Farm Security and Rural Investment Act of 2002

 ・Food, Conservation and Energy Act of 2008

 ・Mandatory Country of Origin Labeling of Beef, Lamb, Pork, Fish, Perishable Agricultural

  Commodities, and Peanuts; Proposed Rule, October 30, 2003

 ・Mandatory Country of Origin Labeling of Beef, Pork, Lamb, Chicken, Goat Meat, Perishable Agricultural Commodities , Peanuts, Pecans, Ginseng, and Macadamia Nuts; Interim Final Rule, August 1 2008,7CFR 65

 ・Mandatory Country of Origin Labeling of Fish and Shellfish; Interim Rule, October 5,2004、7CFR 60


参考

2002年農業法原産国表示に関する条文翻訳

Subtitle D 原産国表示

Section 281 定義

このサブタイトルにおいては、

(1)「牛肉」とは、牛(子牛を含む)から生産された肉である。
(2)対象商品 1

 (A)一般

  「対象産品」は、次の産品とする。

  (i)牛肉、子羊肉及び豚肉の筋肉部分肉
  (ii)牛ひき肉、羊ひき肉、豚ひき肉
  (iii)養殖の魚
  (iv)天然の魚
  (v)生鮮農産物
  (vi)落花生

 (B)除外

加工食品の一原材料である場合は、前の(A)にいう対象産品には含まれない。

(3)「養殖」には

 (A)養殖の貝類、及び
 (B)フィレ、ステーキ、ナゲット、その他魚及び貝類からの 肉が含まれる。

(4)「外食施設」とは、レストラン、カフェテリア、ランチルーム、フードスタンド、サルーン、タバーン、バー、ラウンジ又は類似の施設で、一般に食物を販売することを業としている企業をいう。

(5)子羊肉

 「子羊肉」とは、羊から生産されるマトン以外の肉をいう。

(6)生鮮農産物及び小売事業者

 「生鮮農産物及び小売事業者」とは、1930年生鮮農産物法(Perishable Agricultural Commodities Act of 1930) Section 1 (b)に定める定義である。

                            

12008年農業法において対象産品には、鶏肉、山羊肉、ペカンの実、マカダミアナッツ、朝鮮にんじんが追加になっている(sec 11002,(1)

(7)豚肉

 「豚肉」とは、豚(hogs)からの肉をいう。

(8)長官

 「長官」とは、農産物販売局(Agricultural Marketing Service)を管轄する農務長官をいう。

(9)天然の魚

 (A)一般

  「天然の魚」とは、天然で生まれ、又はhatchery raised (孵化)された魚で、天然で漁獲されたものをいう。

 (B)包含(Inclusion)

  「天然の魚」には、天然の魚又は天然の貝類からのフィレ、ステーキ、ナゲット及びその他の肉が含まれる。

 C)除外(Exclusion)

  「天然の魚」からは、ネットで囲われた養殖又はその他の養殖の魚を除かれる。

Section 282 原産国の通知

(a)一般

 (1)要求事項

  サブセクション(b)に規定する場合を除き、対象産品の小  売事業者は消費者に対する販売の最終段階で消費者に対し  、対象産品の原産国を知らせなければならない。

 (2)アメリカ原産 2

   対象産品の小売事業者は、次に掲げる場合のみに原産国を   アメリカと定めること ができる。

  (A) 牛肉については、アメリカで生まれ、飼育され、屠殺   された牛からの場合(アラスカ又はハワイで生まれ、飼   育され、カナダを経由して60日未満にアメリカに輸送さ   れ、アメリカで屠殺される牛を含む)
  (B)子羊肉及び豚肉については、アメリカで生まれ、飼育   され、屠殺された場合
  (C)養殖の魚については、アメリカで孵化され、養育され   、加工された場合
  (D)天然の魚については、
    (i) アメリカの水域で漁獲され、かつ
    (ii)アメリカ(アメリカの水域を含む)で加工された場     合 3

E)生鮮農産物及び落花生については、アメリカで生産された場合 4

(b)外食施設の適用除外

 サブセクション(a)は、対象産品が次の場合には、適用にならない。

 (1)外食施設において調製され、提供される場合であって、 (2)(A)外食施設において、通常の小売で売られる量の場     合、又は
    B)外食施設において、消費者に提供される場合 

(1)牛肉、子羊肉、豚肉、鶏肉及び山羊肉について、小売事業者は、次のような家畜から生産された肉である場合は、生まれ、飼育され、と殺されたすべての国を原産国として表示しすることができる。

  @ もっぱらアメリカで生まれ、飼育され、屠殺された家畜でないも   の。
  A アメリカで生まれたか、飼育されたか又は屠殺された家畜である   もの。
  B 輸入直後の屠殺のためアメリカに輸入された家畜でないもの。

(2)対象となる食肉について、小売事業者は、家畜が輸入直後にアメリカで屠殺される目的で輸入された場合は、その「輸入先国」と「アメリカ」を原産国として表示しなければならない。また、アメリカで生まれ、飼育され、屠殺された家畜でない場合は、アメリカ以外の原産国を表示しなければならない。

(3)ひき肉については、ひき肉の原産国のすべてのリスト、又は可能性のある原産国すべてのリストを表示しなければならない。


2
2008年農業法において、食肉及び魚に関する原産国が複数ある場合、アメリカ原産については、次のような規定が追加されているsec 11002,(2)

32008年農業法において魚及び貝類について追加規定があるが省略する。

2008年農業法では、これに朝鮮にんじん、ペカンの実及びマカダミアナッツが追加されている。sec.11002,(2)

 また、生鮮農産物、朝鮮にんじん、ペカンの実、落花生、マカダミアナッツで、アメリカで生産されたものについては、小売事業者は、アメリカの州の名あるいは地域名を原産国「アメリカ」の表示に代えて用いることができると規定されている(sec.11002,(2)

 ()原産国通知の方法

 (1)一般

  サブセクション(a)に既定する情報は、消費者に対して、ラ ベル、スタンプ、マーク、プラカード又はその他見えるサインで対象産品に付けて提供されなければならなか、対象産品の容器包装、ディスプレイ、holding unit又はびんに表示されなければならない。

 (2)ラベルの付いている産品

   対象産品について原産国が個別にラベルに記載されている場合は、小売事業者は、追加的な表示を行わなくてもよい。

 (d) 監査・確認システム 5)

  長官は対象産品を小売用に調製し、貯蔵し、取り扱い、流通させる者に対して、長官が本サブタイトルが遵守されているかどうかを確認するための信頼できる記録を保持することを要請することができる。

e)情報

 対象産品を小売事業者に供給している者は、小売事業者に対して対象産品の原を知らせなければならない。


52008年農業法においては、この(d)は次のように改正されている(sec 11002, (2))

(1)   監査・確認システムについては、記録・保存等の要請以外に長官が監査できる規定を設けている。
(2)   記録の要請については、監査の対象となっている者は、長官の要請に対し記録の提供をしなければならないことを規定している。
(3)   長官が追加的な記録を要請することを禁止している。 

(f)原産の証明

  (1)識別義務(mandatory identification)

 長官は対象産品の原産国を確認するための識別義務 制度を用いてはならない。

(2)既存の証明計画

 対象産品の原産国を確認するため、長官は、次のものを含む本法施行日に存在する証明計画を用いることができる。

(A)枝肉格付け及び本法の下で行われる証明制度
(B)本法の下で行われる自主的牛肉原産国表示制度(C)プレミアム牛肉を証明するために設けられた自 主計画
(D)Richard B, Russelle National School Lunch Act (42 U.S.C.1766) Section 17で設立されたChild ans Adult Care食料計画を実施するために設けられた原産証明制度
(E)1978年農産物貿易法(7 U.S.C. 5623) Section 203によるマーケットアクセス計画を実施するために設けられた原産証明システム

Section 283  実施

(a)     一般

  サブセクション(b)及び(c)に定められている場合を除き、Section 253が本サブタイトルの違反に適用される。

   (b)長官が小売事業者がSection 282に違反している と認める場合、長官は、

(1)小売事業者に対してその旨通知する。
(2)
小売事業者がSection 282を遵守するために必要なステップをとるために、長官の通知受領の日から30日間の期間を与える。

    (c)罰金

30日経過後、長官が小売事業者がSection 282に意図的に違反していると認める場合は、通告をし、違反に関する聴聞の機会を与えたうえで、長官は、違反ごとに10,000ドル以下の罰金を科すことができる6


62008年農業法では、違反及び罰金に関して次のように改正している(sec 11002 (3))。

     2002年農業法では、農務長官が違反に関し警告を発し、30日間の猶予を与えるのは小売事業者に対してのみであったものが、これを供給業者までに拡大した。また、罰金の金額を10,000ドル以下から 1,000ドル以下に引き下げた。 

Section 284 規則

 (a)ガイドライン

2002930日までに長官は、Section 282の要求をベースとした対象

品の自主的原産国表示に関するガイドラインを作成しなければならない。

 (b)規則

   2004930日までに長官は、本サブタイトルを実施するための規則を作成しなければならない。
c)州との連携

   規則を作成するに当たり、長官は、できる限り、本サブタイトルの管理を支援するインフラの実施について州との連携を進めなければならない。

Section 285 適用 

  本サブタイトルは、2004930日に対象産品の小売に対して適用する。

備考 本稿の作成に当っては、JAS協会伊藤専務理事及び食品需給研究センター酒井主任研究員にご協力いただいた。

この資料は、食品トレーサビリティ協議会フリしシス情報No36、2008年9月に掲載されたものである。

トップページに戻る